モンスターは動物?
「そういう連中を、気が済むまで血祭りに上げることにしましょう」
「この流れだったら普通はあなたを助ける方法を探しますとかなんじゃねえの。お前ちょいちょい何か思考がやばいのは気のせいか」
先ほどまで嬉しそうに振っていた尻尾はぴたりと止まっている。あと少しだけ耳がペタっと下がっている。
「そういう連中を血祭りに上げる、の中にあなたを助ける方法も含まれます」
「含まれてるように思えねえよ」
「動物を使った実験をしている元締めをボコボコにしてあなたの命を救う方法二秒で考えろって言うことができればなんとか」
「やめろや怖いわ」
ひとまずここで喋っていても仕方ないので二人は一度施設に戻ることにした。やっぱり準備って大事だよなということで道具の調達とスノウには戦術のレクチャーをする必要がある。訓練を受けてきたようなので後はどう実践するかを二人で決めなければならない。
「冷静に振り返ってみても、僕たち順番も違うし戦い方も無茶苦茶だったと思うんですよ」
「相手を想像で決めつけたらだめだな。期待しすぎるのもダメか、ちゃんと現状を確認しておかないといけないってよーくわかった。何回も言うけどな、俺噛み付く以外のスキルねえわ」
「僕は襲いかかるスキルしかないです」
「冷静に考えてもお前そんなに弱くないと思うぞ。周りの奴がどんだけヤバイのしかいなかったのか知らないが」
そう言うスノウにサウザンドはあくまで自分は落ちこぼれだった、成績が低かったとそれを否定した。
「素手で腹裂く奴とか、噛みついて食いちぎる奴とか、武器持たせたら面倒なことになるから両手両足縛られてた奴もいましたよ。ちなみにその縛られた奴には縛られたままの状態で僕は負けました」
「……お前がいたところ、討伐隊の養成所なんだよな? 魔獣の檻の中とかじゃなく」
「当たり前じゃないですか、失礼ですね」
話を聞いていて討伐隊とは一体どんな訓練をしているのかとスノウは目眩がしそうな勢いだ。そろそろ戻ろうと歩き始めたが、サウザンドがモンスターの死骸を見つめたまま動こうとしないのでスノウも歩みを止める。
「どうした」
サウザンドは無言のままモンスターの足の裏の部分を指差した。スノウがその部分を見る。
「
モンスターの足の裏には、人が馬につける蹄鉄がしっかりと着けられていた。馬の蹄は実は弱いので蹄鉄をつけなければ割れたり足を痛めてしまう。つまり、このモンスターは。
「本当に馬だったってことか」
「それも野生の馬ではなく明らかに牧場など人が手入れをしていた馬です。この世にモンスターの足に蹄鉄をつけるのが趣味の人間がいない限りは、ですけど」
「……」
チラリとサウザンドの顔を見れば、意外にも驚きや戸惑いの表情は浮かんでいない。
「驚かないのか」
「僕は国の学者が言ってること信じてませんし。どこからモンスターが出てくるんだろうって考えたとき、やっぱりもともとは動物だったんじゃないかって考えを結構推してます。だってそうじゃなきゃおかしいじゃないですか、あれだけ大々的に討伐をしてこれだけの数の討伐部隊があるのに絶滅しないんですよ、モンスター」
討伐隊を総括しているのは国、モンスターの調査をしているのも国、民間人の独自調査は認めていない。モンスターの死骸は自分たちで処置をしたり放置をしたりせず討伐隊に提出することが義務付けられている。
しかし討伐隊も結局は死骸をまとめて処分したり、時には国に提出をしているという話なのでモンスターに関しては全て国が実権を握っている。普通に考えれば胡散臭いことこの上ない。しかも動物を使っていまだにこそこそとよくわからない実験を続けているのだ。
「国は当然この事をわかっていて、何か事情があって広まってほしくないからそれを必死に隠してるってことか。とりあえずこの情報むやみやたらに漏らすんじゃねえぞ、命がいくつあっても足りねえ」
「わかってます、どうせ口に出したところで誰も信じないしあいつらとうとう頭もおかしくなったんだなって言われるのがオチですから」
そんな会話をしながら町へと戻る。モンスターすべてが動物の変わり果てた姿だというつもりはないが、動物がモンスターになってしまっているのはおそらく事実だ。まだ決めつけるわけにはいかないが、おそらく……
(実験をされた動物たちの成れの果てというのは充分あり得る)
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