サウザンドの実力
「グ、グロ! お前なんて倒し方してるんだ! 目玉潰したのにもビビったけど、腹掻っ捌いて内臓を引っ張り出すとか、ちょっと精神状態疑うぞ! 医者行くか!? 頭の!」
「なんかいろいろすごく酷い事言われてる気がするの気のせいでしょうか。っていうか生き物の殺傷に抵抗なさすぎるでしょ、どうなってるんですか。討伐隊って殺すのが目的じゃないですか」
自分だって喉に噛みついたのに内臓はダメなのかとなんだか腑に落ちない。
「モンスター討伐では急所への攻撃と、確実にとどめを刺すための手段を習うんです。魔術師じゃない限り圧倒的な力でモンスターを倒すなんて無理ですから。いかに少ない労力で確実に仕留めるかをやるんですけど」
「なんだ、びっくりした。おとなしそうな外見の割にお前の趣味がちょっとアレなのかと思った」
「散々な言われよう」
改めて倒したモンスターをサウザンドは観察する。先ほど馬のような大きさと思ったがよく見れば馬の特徴をだいぶ持っている。足が速いわけだ、足の筋肉が非常に発達しているように見える。見れば見るほど馬にそっくり、というよりも。
「これ馬じゃないですかね?」
「はあ? ンなわけあるか」
「馬の特徴たくさんありますし。ちょっと確認してくださいよ」
「絶対やだ」
「これからこんな光景見るの当たり前になるんですから今から慣れてください。これでも全然グロくない方なんですから。脳みそ破壊した時とかはもっと」
「うるせえわかったよ!」
心底嫌そうに、そっと見て再びそーっと首を元の位置に戻した。それを何度か繰り返しようやくモンスターの死骸にトコトコと近づいていく。
「確かにモンスター独特の匂いと気配ではあったが体の形は馬か。あちこち筋肉がだいぶ発達してるが」
モンスターはどうやって発生しているのかそれは未だに謎のままだ。魔の森と呼ばれる、生き物が忌避する場所なので負の力が蔓延していてその力を持った生き物が生まれてくるというのが定説である。
中には魔の森の魔力のようなものによって通常の生き物がモンスターに変化してしまっているのではないかという説を唱えたものもいるが、それは国の学者たちが否定している。
しかしサウザンドは長年疑問に思っている。学者たちの言っているモンスターは普通の動物説、なぜそんなに頑なに否定するのだろうか。解剖等の結果全く違う生き物だというのが世間で言われているが、解剖をしているのはすべて国が抱える学者たちのみ。民間人による解剖や調査が禁止されている。
「うお!?」
突然スノウが声を上げた。そして座っていた格好から勢いよく立ち上がると四本の足をぴんと伸ばして小刻みに震え始めた。
「大の方ですか」
「噛みつくぞ、ちげえよ。きたきた、何か体が暑い。多分いま精霊の力がちょっと強くなってきてると思う。着実に結晶化に向けて動きが出てるぞ」
何が起きているのかよくわからないが、戦うと精霊の血が騒ぎ本当に目的の事が行われているようだ。心臓に埋め込まれている道具とやらがどんなものかわからないが、とにかく戦えば良いということなのだろうか。おそらく血圧が上がったり興奮状態になると精霊の力が少し強まるようだ。
それもまた不可解なことだと思っている。精霊たちはそんなに戦いが好きな熱い性格だったのだろうか。
スノウの体が熱くなったのはほんのわずかの時間ですぐにおさまったようだ。再びちょこんと座ったスノウは尻尾をぶんぶん振って嬉しそうである。
「半信半疑だったがちゃんと結果を残せてるみたいだな。これで何もなかったらリズに文句言ってたところだ」
「あなたを殺す第一歩を踏み出せたというわけですか」
静かにそんなことを言ったサウザンドをスノウはじっと見つめる。自分の運命を受け入れているしサウザンドがどんな気持ちなのかもわかっている。わかってくれと強制するつもりはないが少しすり合わせをしておかなければいけない。
「嫌ならやめるか、俺の従者を」
するとその問いにはサウザンドはあっさりと首を振った。
「絶対にやめませんよ、僕の主はあなただと決めたんです。僕には僕の夢があります、それを叶えるためにもただ言われたことだけをやらされるのはちょっと性に合わないだけです」
「へえ? 何がやりたいんだよ、お前の夢ってなんだ」
その言葉にサウザンドは嬉しそうに笑った。スノウが見た自分の部下の初めての満面の笑顔だ。
「僕やあなたを蔑んで見下してきた連中を、見返してやるのがやりたかったことだったんですけどちょっと気が変わりました」
「何をやりたいんだ」
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