討伐開始

初討伐

 魔の森は暗い。人の手入れがされず木が鬱蒼と生い茂っているので陽の光が地面まであまり届かないのだ。もちろん森の管理は国である。しかしいわゆる林業のような間引いたりという作業は一切行われていない。命の危険が伴うからだ。討伐隊がモンスターなど討伐をしても次から次へと発生し、いたちごっことなっている。ある程度狩っておかなければ人の住む場所に降りてきてしまうので定期的に駆除はするものの森そのものの手入れは行うことができない。

 そんなところに行くのなら事前にきちんと作戦を立てて準備をして細心の注意を払って行動すべきである。何の準備もせず森に行くなど自殺行為だ。全速力で逃げながらサウザンドは討伐隊養成所の教官が言っていたそんな話を思い出していた。


「やっぱり突撃って無謀だったんじゃないでしょうか!」

「うるせえこんな時に冷静にツッコミ入れてんじゃねえ!」


 追いかけてきているモンスターは一匹。森に着くなりスノウが臭いでモンスターの位置を突き止めそのまま突っ込んでいき、めちゃくちゃ強かったので今全力で逃げているところだ。


「主は具体的に何ができるんですか!?」

「噛み付く一択だ!」

「精霊の力で何かこうちょっと強い的な能力は?」

「そんな都合のいいもんがあるわけないだろ! お前こそなんかできねぇのかよ!」

「僕成績むちゃくちゃ悪かったので!」

「普通こういう時危ない主、とか言ってなんやかんや凄い力で敵を粉々にするもんじゃねえのか、展開的に!」

「それ主に期待してたんですけど! なにも準備せずに突撃していくからすごい強いのかと思ってました!」

「訓練以外で戦ったことないからそんなもん知らねえ!」


 要するに二人ともまったく手立てがない。このまま逃げ回っていても疲れるだけで何の解決にもならない。チラリと振り返りモンスターを観察するが、養成所では習わなかった初めて見る種族だ。モンスターは次から次へと新種が出てくるのですべてを把握することができない。


「お前は何か攻撃方法ないのかよ!」

「武器だったら持っています!」


 そう言いながらサウザンドが背負っているカバンから取り出したのは、二本の棒のようなものだった。腕の長さほどあり剣だったらかなり強力な武器だったのだが。


「念のため聞くがなんかめちゃくちゃ強い武器……」

「という事は全くなく、ゴミ捨て場で拾った折れた物干し竿です!」

「よりにもよってなんでそんなもんを武器にしたんだお前は!」

「ていうかこのくだり、出会った時にやっておくべきじゃないでしょうかね!?」


 叫びながら会話をしている間もモンスターはどんどん迫ってくる。当たり前だが足の速さはモンスターの方が上だ、このまま走っているだけなら追いつかれて殺されるだろう。


「とりあえず僕が棒で戦います」

「その次に俺が急所に噛み付くのが妥当か!」


 その会話が終わった瞬間サウザンドは走っている勢いを使って目の前の木を蹴り飛ばすようにして方向転換をすると急速にモンスターに突っ込んでいく。それなりに至近距離まで来ていたらしくモンスターは咄嗟に避けるということができなかった。サウザンドは持っていた二本の棒を勢い良くモンスターの目につき刺した。


「はあ!? なんかすげえんだけど!」


 あまりにも正確なその攻撃にスノウは驚きながらもがき苦しむモンスターの喉笛に噛みついた。馬位の大きさがあるのでスノウからすれば相手の方がかなり大きい。噛みつくことができても食いちぎることができるわけではないので、あまり致命傷にはなると思えない。モンスターは大方の種族が回復力が高いからだ。

 しかし、モンスターは目を潰された時以上に苦しみのたうち回りスノウ引き剥がそうとする。その様子にサウザンドは腰につけていた小型のナイフを取るとモンスターの下顎の関節に向かって突き刺した。突き刺したままにしておけば回復を遅らせ、少なくとも噛み付く力はもうなくなったといえる。そのままスノウがしばらく噛み付いているとついにモンスターが動かなくなる。

 チラリとスノウがサウザンドを見つめてくるので、なんとなくとどめを刺せと言われているような気がしてナイフを抜くとモンスターの腹を思いっきり切り裂いた。肥大した内臓が飛び出てきたが、サウザンドは表情一つ変えずにそれらを外に引っ張り出すと心臓を見つけて真っ二つに切断する。それを見てスノウはようやく噛み付いていた喉笛から口を放した。そして。


「うげえええ~!」


 盛大にその場で吐いたのだった。


「大丈夫ですか」


 まさかモンスターの血に毒等が入っていて体調不良を起こしているのだろうかと心配になったが、スノウはモンスターをなるべく見ないように正反対の方向を向いている。

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