部隊結成の目的
一方サウザンドといえばそういったしがらみが世の中にあるのは重々承知しているが、頭の中にあるのはこれからどう自分たちを見下して馬鹿にしてる連中を見返してやろうかというやる気に燃えている以外何もない。主人の性格もどちらかと言えば好ましい、掛け合いが楽しそうだなと思っていた。
その後リズの指示のもと二人は契約を結び簡単な今後の活動に関して指導を受けて晴れて一つの隊が生まれた。はじまりは、どの部隊もたった二人。そこから優秀な成績をおさめれば次々と契約を申し出る者が増えて部隊が強大になっていく。
「話しておかなければならないのは、あなたたちの部隊の目的です。動物が主人の部隊が実験目的だというのはもうご存知でしょう」
「おう」
「はい」
「指示されている目的は一つです、これを達成できてもその後継続するのか、解散するのか上の判断が必要となります。頑張っても成果が認められない可能性も大きいです」
あくまで部隊の管理は国だ。そして何か今実験をしていて次のステップに進むための目的があるということになる。サウザンド自身に目的はあるが部隊を解散されたらたまったものではない。
「その目的というのは?」
「精霊の力の結晶化です」
精霊の力を授かる為に一番手っ取り早いのは何百倍にも希釈した精霊の血の成分を半年かけて少しずつ体に注入すること。拒絶反応が出たり本来持っている特性の暴走が出たりとリスクが高いので希釈倍率は個人で変わってくる。長年の課題だったのだが液体は劣化してしまうため長持ちしない。結晶ができればそれを好きな時に使うことができるので保存性や生産性が抜群に上がる。結晶化の研究は国を挙げて行っているはずだ。
「スノウの体にはもう一つ道具がつけてあります。戦う事でスノウの体内では精霊の血の濃度がどんどん高まり、その道具の中で蓄積していくことができます。あなたたちはとにかく魔の森に行き、モンスターを倒しながら精霊の力を高めていってください。どれだけ高めれば結晶ができるのかを分析しながら進めます」
その話にサウザンドはわずかに違和感を覚える。実験の内容の詳細がわからないのもそうだがあまり道具に関しても詳しくない。だからこそ疑問に思った。結晶化をするのが目的なら、もしも成功した時は?
「取り付けている道具の中で結晶化するんですよね。それは結晶化したら取り出すんですか」
「取り出します」
「主人の命に関わることになりませんか」
真剣な表情でそう聞くとリズは一瞬黙る。サウザンドの目から見てもスノウには首に取り付けられている道具以外何かあるようには見えない。つまり体の中に埋め込まれているということだ。当然だ、結晶化を促したいのなら血液が循環するところに取り付けなければいけない。そして血液が最も集中する場所など。
「その道具、心臓に埋め込まれているんですよね。そこから道具を取るという事は、最終的に僕の主人は殺されるという認識で合っていますか」
辺りが静まりかえった。リズは言葉を選ぶようにゆっくりと口を開こうとしたが、先に口を開いたのはスノウだった。
「その通りだ」
「主人」
「その主人っていう呼び方やめろ、なんかダセェ。後で考えるか。それはともかく、今お前が考えた内容は俺が生まれた時から決まってたことだ。俺もさんざん説明を受けている。はあ~、馬鹿なやつだったら素晴らしい実験に参加できて光栄ですとか言ってそのまま討伐に行きましょうとか言うんだけどな。お前ホントに冷静なんだな」
スノウのしゃべる様子に悲壮感は無い。無理をしているわけでもない、すべてを受け入れているのだ。それこそが自分が生きる理由なのだということを受け止めている。
「俺以外の奴もこの実験は過去何十匹もやってきた。条件を変えれば結晶ができるんじゃないかっていうところまで来てる、俺を含めてこの実験に参加してるのは大体二十匹だ。誰が早く成果をあげるか競争しようぜってみんなで約束したからな」
「……」
未来のない必ず殺される運命しかないというのにそれを誇りに思っている動物の主人たち。他に生きる道があったのならそちらを選ぶこともできるのだろうが、彼らには他に生きる道など許されていない。生まれてからそういう施術をされたのではなく、その目的のために生み出されたのだから。
「とりあえずやることはわかったぜ。さて、そろそろ行くとするか」
サウザンドは何も言わないままリズに深々と頭を下げてスノウの後に続いた。言いたい事は山ほどあるがリズ個人に言っても仕方がない。それに自分だって似たようなものなのだ。他の生き方を選ぶことなんてできない。
「とりあえず俺の呼び方な。給仕がご主人様って言ってるみたいで気持ち悪いから、そうだな。……陛下とか」
「
「まだ最後まで言ってねえだろうが、しかも俺の意見無視かよ」
「お会いした時からうすうす思ってたんですけど。センスとかが割と残念な感じなので、何か違うなと思ったら僕のやりたいようにやります」
「なんだとゴルァ!?」
そんな会話をしながら向かっているのは目的地である魔の森だ。与えられている役割はとにかく成果を出すこと。下準備に時間をかけても仕方がない、さっさと行くぞとスノウが森に向かって歩き出したのだ。
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