一族の秘密

 歩きながら不気味さを感じる。話の内容は相続について、ミステリー小説などなら遺産を出したくないから私に危害を加えようとしたとか。でもそれなら父が生きている時点で何の効果もない。

 優しい叔母とこんな行動した叔母。一体どちらが本来の姿なんだろう、何か目的があって実は私に優しくしてきたのも演技だったのか? 私は騙されていたんだろうか。


 部屋の外には出てみたけれど見たこともない廊下だった。叔母の家には結構来てるけど、初めて見るという事は知らない場所があったということだ。叔母の家はお屋敷と言っていいくらいに大きい。そもそもここは叔母の家なのだろうか。もうすぐ夜になってしまう、やはり自力で帰るのは無理だ。

 その時だった。どこかの部屋から話し声が聞こえてきた。気をつけながら近寄っていく。

 聞こえてきたのは二人の男女の声だった。一人は間違いなく叔母の声、もう一人は聞いたことがない。ほんの少しだけ扉が開いているので話している内容は聞こえそうだ。



「翠はしまい終わった?」


 男がそう尋ねる。翠は私の事だ、しまうと言う単語からも箪笥に入れ終わったかと聞いているのがわかる。あとたぶんこの男私と歳が近いと思う、お年寄りとかの声じゃない。


「ええ、何も問題ない。これでやっと肩の荷が下りた」

「お疲れ様。遺産相続はちゃんと全額俺になるんだよね?」

「それはもう何回も言ったでしょ、間違いなくそう手続きしたから大丈夫」


 その会話に私は愕然とする。どう考えても男に遺産相続をさせるために私に危害を加えたとしか思えない。あの箪笥どうするつもりだったんだろう、しまって捨てるつもりだった、とか?


「大変だったね、たった一人でこの家の代々続く呪いを抱え込んで」

「本心でもないのによく言うわね。男のあなたにはわからないでしょうね、私が今までどれだけ苦しい思いをしてきたか」

「わかるわけないじゃん、そんなの」


 呪い? そんな話聞いたことがない、一体何の話をしてるんだろう。いや、ちょっと待って。そういえばちょっと気になる話を聞いたことがあったかも。

 私が中学生位の時、珍しく叔母がお酒に酔って私と話をしていた。どうやら長年ずっと好きだった人と別れたらしい。いわゆるやけ酒というやつだ。叔母とは仲が良いけれど、考えてみたら叔母の私生活や叔母自身のことをほとんど聞いたことがなかった。


 どうやら喧嘩別れというわけではなく叔母の方から別れてほしいと頼んだ、しかし好きであることには変わりないと。まるで少女のように恋心を私に話していたことがあった。


「そんなに好きならどうして別れることにしたの」


 当時子供だった私は本当に何気なくそう聞いた。そしたら、叔母はスッと無表情になった。その顔は初めて見るものでとても怖かったのを覚えている。


「私は結婚もしないし子供も残さないと決めてるの。私たちの家系はおかしいのよ、女の子は不幸になるしかない」

「え?」

「私がなんとかする。ずっとその思いだけで生きてきたけど、好きになる気持ちはおさえられなかった。こうして別れなきゃいけないってなると、なんで私だけがこんな目に合うんだってやり切れないわ」


 次の日そのことを聞いても何のことかと不思議そうに言われてしまった。今思えばごまかされたんだ。



「私の代で終わりのはずだったのに、あの馬鹿が子供なんて作るから。でもあの馬鹿の子供なら惜しくないなって気が付いた。餌付けは簡単だったからね」

「これ幸いと翠に呪いを押し付けようって考えたわけか。叔母さんも人間だし命が惜しいのは当たり前か」


 なにそれ。さっき言っていた呪いがこの家に代々伝わっていて、それを叔母さんは自分が呪い殺されることで終りにしようとしていたけれど、私が産まれたから私に押し付けようとしてるってことなの。 ……嘘でしょ、叔母さん。


「あんまりイライラさせないで。あなたに呪いを押し付けるように今から変えてもいいのよ」

「それは無理だってわかってるじゃん。男には絶対に呪いはこない」


 男には来ない。じゃあお父さんは呪われないんだ。だから仲が悪かったのか。自分はどうあっても不幸になるのにお父さんは自由に生きられるから。


「それよりなんでイライラするのかな。生贄の儀式はもう終わったんでしょ? 代々人形を身代わりにして呪いを先延ばしにしてきたみたいだけど、直系の女を生贄に捧げれば呪いが解ける」


 箪笥の下に人形が入っていたのそういうことだったんだ。真っ黒だったのも呪いがそれにうつったから。


「それに一体誰の知恵のおかげでここまで財産が膨れ上がってうまくいったと思ってんの? 一生遊んで暮らせるだけの金にしてやったのは俺なんだけど」

「はいはい、感謝してるわよ。あんたの金儲けの才能は本物だった」

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