第12話

        †


 私は怒涛の勢いで交差点に近づく戦車から見て右側の塹壕にひそんでいる――振動を肌で感じることができた。その感覚に生存本能が警鐘を鳴らし、みぞおちのあたりに興奮と恐怖が入り混じったものがこみ上げる。これだ、これだ、これだッ。これがあるから止められない!

 手のひらに生じた汗をぬぐい、火炎瓶モトロフ・カクテル――ガソリンと灯油を混合したものを空き瓶に閉じ込めた、即席の武器を握りなおした。

『戦車が二〇メートル地点に接近』

 部下の無線越しの報告にニヤリとなる。これで、主砲で私を狙うことのできない死角に戦車は踏み込んだ。

『――一〇メートル地点に接近』

 それを耳にし、私は身を隠していた塹壕から顔を出す。

 なに、撃たれる心配はない。戦車の死角に入った。こちらの姿を発見される心配はない。

 刹那、予想外の位置――炎をあげる四輪駆動車から銃声がひびいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る