第11話

『連中がG《ゴルフ》地点を通過。狙撃ポイントまでの到達時間、三、二――』

 仲間から無線で連絡が入った。

 筋肉がふるえないようにリラックスし、息を止めた。

 我が愛しの魔女よ歌え――……トリガーを絞る。

 一刹那の後、車載の銃機関銃が破壊された。飛び散った破片が、射手を引き裂く。

 搭乗者たちが思考停止におちいっているのか、戦車はこの時点では特に反応を見せなかった。

 マーカスの背骨を、えにもいわれぬ快感が駆けのぼる。

 だが、彼は機械的にボルト・ハンドルを操作、排莢、給弾。すぐさま照準、発砲。

 四輪駆動車の車体を狙った――わざと、運転手をはずし、窓枠とガラスの一部を破壊。

 それに驚いたドライバーがハンドルを急激に切った。

 車体が急激なカーブをえがく、西側のビルに衝突。騒音。直後、車体から火が吹いた。

 ――後続の戦車は急激に速度をあげる。留まる、あるいは方向転換する、という行為は危険、そう判断したのだろう。こちらの予測どおりだ。

 にやり、とマーカスは小さく笑う。

 あとはよろしくたのんだよ、CEO――心酔しているイカれた主の姿を思い浮かべながらも、対物狙撃銃をたずさえて彼は全力で退避した。彼の主は「犯うるに事をもってし、告ぐるに言をもってするなかれ(口で言うより模範しめせ)。」と孫子の兵法の言葉を引用しては真っ先に危険な場所へと飛び込んでいく。

 あきれる反面、そんな彼だからこそ協力したいと思うのも確かだ。

 ――ビルの屋内、階段へと飛び込んだ瞬間、轟音が物理的な衝撃となって身体を突き抜ける。

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