第9話

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 PMC(民間軍事会社)・DB社のCEOとの武装警備員プライベート・オペレーター――略称だとPO――の三人が陣取ったのは、街路の交差点にあたる部分だ。メンツはルイーゼ、レオン、長嶋。

 道路をはさんで背の低いビルがならぶ通りで、辻の地点にもそれぞれ鉄筋コンクリート――ただし、内戦のせいでボロボロになって、廃墟との違いは利用する者がいるという点だけ――が建っている。

 敵の侵入を想定している地点は北側で、そちらを向いて左側の建物に、メインウエポンをカスタム・ミニミ軽機関銃に持ちかえた長嶋が、反対側にルイーゼとレオンがひそんでいた。

 マーカスは、そこから一キロほど離れた背の低いビルの屋上で足を八の字に寝かして伏射姿勢プローンをとっている。二脚で安定させている銃は、ヘカートⅡ対物ライフルだ。フランス製らしいどこか華麗さを感じさせる外見で、重機関銃と同じ五〇口径の弾薬を使用する。

 その名に冠せられたヘカートとは、魔女に崇拝された対象であり自身も魔女と目された女神の名だ。

 彼のいる場所からは、交差点に面する通りが一望できた。サッカーの国際試合で使用されるフィールドは長さ一〇〇~一一〇メートルと規定されているが、その十倍以上の距離をマーカスはへだてている。

 人間の歩行速度は時速四キロ、彼のいる地点から交差点までは直線距離でも十五分かかる――が、五〇口径の弾丸なら約二秒で到達するのだ。

 だが、突入作戦などではその二秒で室内の人間を制圧しなければ犯人の反撃を受ける危険度が増大する。つまり、失敗して次弾を装填して撃つ――という過程をへると、手遅れになっている可能性があった。

 緊張しないといえばウソになる。だが、それを制御できるのがプロだ。

 ……乾いた空気に砂が舞いかすみがかかる終末の風景、その地平線に影が生じる。

“影”は人の歩行速度ではありえない速度で近づき、視界にしめる割合を増大させていった。

 前を四輪駆動車が走り、後続には主力戦車の姿がある。

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