第8話

 長嶋が電撃的速さでたずさえていた小銃を正面に構えた。とっさのことだが、正確にレオンに照準されている。

 次の瞬間、殺気を察知したレオンがその場に身を投げ出した。ハリウッドのスタントマンが青くなるほどの俊敏な動きだ――が、惜しむらくは自分の「罪」を忘れていることだ。

 レオンの正面に、先ほど尻をなでられた女性が振り向いて仁王立ちになる。

 彼女の餌を今まさに狙う猛禽よりも鋭いまなざしに、彼はおそるおそるといった動作で顔をあげた……若い現地人女性の怒りの表情と対面することになった。

転瞬、彼女の格闘家もかくやというカカト落としがレオンの脳天に決まる。硬いレンガとレンガをぶつけたような音が路上に響いた。

 彼は白目を剥いて気絶する。しかし、女性は怒りがおさまらないらしく、たてつづけにわき腹などを蹴りつけた。

「テキトーなところで、女性に慰謝料を払ってあのアホを回収してくれマーカス」

 私は黒人の部下に命じて、臨時の事務所に使っている近くのビルへと歩き出す。

「了解、CEO」

 なれたもので、不平をもらすでもなく部下は白い歯を見せて笑った。

 ただ、近くを通った瞬間、その息に溶けたアルコールを確かに感じる――ほんとうに、私の部下は問題児ばかりだ。

 なんで、こうなる?

 だが、こうも思う――こいつら、面白ぇ。


 類は友を呼ぶ、波多功貴はたこうきはその言葉が己にあてはまるとは夢にも思っていなかった。



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