第4話

「ぐぅ、CEO、問題が起きました」

 日本人――長嶋重則(ながしましげのり)が眠る、起きる、というサイクルを器用にくり返しながら報告する。歳は確か三〇代、黙ってちゃんと目を覚ましていれば渋い風貌の男だ。それができないのが残念だが。

 あと、彼は感情が激しく動くと熊本弁が出るのが愉快だ。

「物(ぶつ)の輸送航路が通る海域の国家で内戦が勃発、貨物船が拿捕されて商品は徴発されたとか」

 状況に反してニヒルに笑ってフランス国籍の巨漢の黒人、マーカスが長嶋の言葉をついだ。

「……はぁ!? んな兆候、あの辺にはなかっただろ!」

 商品が確実に届くかどうか確認するのは、商売人として当たり前の心得だった。

「どうも、アメリカ合衆国(アンクル・サム)の非公然工作が原因らしい。あの国は、アンクル・サムにことあるごとに楯突いていたからねぇ。ちょうど、“世界の警察”が戦争を求めはじめる時期だし」

「女を口説くような口調でさらりと腹の立つ事実を明かすな!」

 ウインクをするマーカスを私はいらだち混じりに怒鳴りつける。

 くっそー、あの単細胞どもめぇ! 脳裏に、国旗を背景にロデオをこなしながらハンバーガーを満面の笑みで頬張るマッチョマンの姿が浮かんだ。それが私のアメリカ人像だった。

「どう、する、しゃちょー?」

 最後に中国人、黎小龍(レオン・リー)が言葉少なにヘタクソな英語でたずねる。

 こちらの顔には、彼だけでなくルイーゼも注目しているのを感じた。

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