第27話
あれから一週間が経った。
朝、浩樹は目覚めるといつものように朝食を済ませ身支度をする。
神社から守瑠と一が去って行き一人残された後、どうやって家に帰ってきたのか、何をして過ごしていたいのか。
まるで夢の中での出来事だったみたいに、朧気なことしか頭には残っていなかった。
身支度を終えて外に出て、部屋の鍵を閉めようとするとふと気配がしてそちらを見るとそこに守瑠の姿があった。
出掛けていたのか守瑠はマンションの階段側から浩樹の方へと歩いてくる所だった。
一瞬、彼女と目が合う。
守瑠は浩樹に小さく会釈をすると、その横を通り抜け自身の部屋へと入っていった。
何をするでもなく、何を言うでもなく偶々顔を合わせたお隣さんに対するごく普通の対応だった。
浩樹は鍵を掛けて会社へと向かった。
仕事上がり、浩樹は最寄り駅から自宅まで続くいつもの帰路を歩く。
その途中で守瑠が練習場所にしている神社へと続くあの石段の前で、浩樹は何気なく立ち止まり耳を澄ますが、石段の向こうからは何も聞こえては来なかった。
守瑠はまだ来ていないのか、それとも来ているが声が聞こえないだけか。
それは分からなかったが、浩樹はその事を確かめる様なことはせず、そのまま石段の前を通り過ぎていく。
家に帰り、いつものように夕食の準備を始める。
帰ってくるまでに纏めておいた献立を頭の中に思い浮かべながら作業を進めていき、気が付く。
「……しまった」
舌打ちをしながら天を仰ぐ。
うっかり二人分の量で作ってしまっていた。
工程はもう引き返せない所まで来てしまっており、今更どうにもすることは出来ず、仕方なくそのまま二人分の夕食を作るしかなかった。
連絡はなかったけれど、もしかしたら今日は来るかもしれない。
そう思って浩樹は予定より多く作ってしまった料理を、二人分の食器に盛り付けてリビングにあるテーブルに並べる。
そうしてしばらく待ってみるが部屋に誰かが訪ねてくることはなく、浩樹は時間が経って冷めてしまった料理を一人で食べた。
残った分は明日の弁当にでもしようとラップを掛ける。
風呂に入って、なんとなくテレビを見てからベッドに入った。
何の変哲もない、ごく普通な一日の終わりだった。
……これでいい、今までがおかしかったのだ。
ただのお隣さんなのに演技の練習に付き合ったり、一緒にご飯を食べたり、出掛けたりそんなのは真っ当ではない。
だからこれでいいのだ。
寂しいだなんてそんなことを思う資格は自分にはない。
そうして更に数日が経った。聞いていた話ではそろそろ守瑠のアフレコが本格的に始まる頃。
そんなある日、浩樹の携帯が鳴った。
出社する前の早朝、こんな時間に電話が来るなんて珍しい。
標示された番号を見てみるが覚えがない。
何か良くない電話かと思い出るのに躊躇したが、あんまりにもしつこく鳴り続けるので最後はしびれを切らして応答ボタンをプッシュする。
万が一変なこと言い出したら直ぐに切ろう、そう思いながら携帯を耳元へ持って行く。
電話に出てみると相手は浩樹の知っている人物だった。
そうしてその人物が話した、ある出来事を聞いて。
「……え?」
その瞬間、浩樹の頭が機能を停止する。
電話が切れた途端、携帯を持っている手が力なく垂れ下がる。
電話で聞か刺された話の内容を頭が理解できずしばらくの間、浩樹はその場所で呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
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