La Cathedral
在仙台バルベルデ共和国領事館/仙台市青葉区/南東北州/日本国
平成47年2月23日 午後12時45分
顔をスカーフで覆った12人の男たちは、みな一様に楽器ケースを肩にかけていた。それは奇妙な
在日バルベルデ人の一団が連れ立って領事館を訪れることは、さほど珍しいことではない。ときには勤務先の待遇の劣悪さを訴えるものであったり、ときにはバルベルデ政府による日本政府への働きかけの弱さに対する抗議デモであったり、あるいは自らの待遇を風刺的に歌うことでカンパを得ようとするストリートライブでもあった。
仙台市の主要施設周辺では、仙台市警察がこうした行為には国籍問わず目を光らせていた。そこで、仙台市警察の取り締まりが及び腰になる各国の領事館敷地内は、移民たちにとって格好の集いの場となった。とりわけ、国力と不釣り合いなほどの威容を誇っていたバルベルデ領事館は、皮肉交じりに『
領事館前の噴水近くで、男たちは楽器ケースを下ろした。すれ違う人々は、楽団の演奏が始まるものかと、やや遠巻きに様子を眺めていた。
――ケースから取り出されたものは、楽器ではなかった。鈍く光る自動小銃、短機関銃、散弾銃、そして拳銃。
彼らはよく訓練された動きで隊列を組むと、領事館入口へと殺到した。それは周りの人々が悲鳴を上げることすらできぬほどの素早さで、領事館入り口にいた警備員も警棒を抜く間も無く、自動小銃の
突然の来訪に対応できなかったのは、領事館内の職員も同じだった。あまりのことに、職員は定型業務に則った質問をすることしかできなかった。
「
男たちは、天井への威嚇発砲で答えた。
「
自動小銃を構えたアラガキが、口元のスカーフを外して叫ぶ。アラガキら入口フロア制圧チームが配置につくと、もう一方のチームは領事館の奥へと侵入していく。
彼らの標的は領事、ヨハネス・カブレーラ。元内務省軍総司令官の故ペトロ・カブレーラ大将の息子で、政治スタンスは父親とは真逆の穏健派として知られていたが、そのために要職からは縁遠いポジションに居た。バルベルデ本国から最も遠い日本の在外公館領事とされたことは、その立場を端的に表していた。
迷路のように入り組んだ館内を、彼らは鉄砲水のような速さと勢いで制圧していった。流れる水が浸透するかのごとく、部屋の隅々まで満たすかのごとく検索し、次の部屋に移る。――かつて合衆国のインストラクターが、アラガキに教えた通りの室内検索戦術は、いまやアラガキの敵であったはずの彼らの間にも受け継がれていた。
入口フロアの守りを固めた旨の連絡を、アラガキから受けたマエムラは、彼に領事捜索チームに合流するように指示した。ほどなくして合流したアラガキは、領事館最奥の領事執務室前で隊列を組みなおさせた。
マエムラの合図とともに、散弾銃でドアの錠前がマスターキーを使ったかのように吹き飛ばされた。そのままドアを蹴破り、自動小銃射手は室内を素早く検索する。室内にはカブレーラだけであることを確認すると、散弾銃射手と自動小銃射手はカブレーラに狙いを定める。
意外にも、カブレーラは恐慌に陥ることも、命乞いをすることもなかった。
「
マエムラはゆっくりとカブレーラの面前に歩みを進め、大口径拳銃を彼の頭に突きつけると、薄ら笑いを浮かべ言った。
――「
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