悪夢と救済

 私はダメな子です。

 世界をすくったおじいさまのまごなのに、たたかうのがこわくてげて出してしまった臆病者おくびょうものです。

 ですがこんな私にも宿屋やどや経営けいえいしてたくさんの人を笑顔えがおにしたいというゆめありました・・・・・


 夢を否定ひていされるのがこわくてだれにもったことがありませんでしたが、おおとうさんもくる授業じゅぎょう参観さんかん将来しょうらいの夢を発表はっぴょうすることになり。勇気ゆうきをだして作文さくぶんきました。

 きっとクラスの同級生どうきゅうせいには否定されるけどお父さんだけは応援おうえんしてくれると思ったし、1人くらいは私の夢をみとめてくれるとしんじていました。

 けど――


『シエル! お前ふざけているのか!! なんだこの作文は!!!』


「は、えっ」


『宿屋を経営してたくさんの人を笑顔にしたい? なんでそんな誰でもできる・・・・・・ことを・・・お前がやる必要ひつようがある!! お前は剣神けんじんむすめなんだぞ!!! こんなものをひまがあるのならすこしでもはやたたえるようになれ』


 ――発表はっひょうするまえよこから作文さくぶん用紙ようしげた担任たんにん先生せんせいが、私のまえやぶってゴミばこてました。


「――ごめ、んなさ、い、おとう、さ」


 私はかなしくて仕方しかたがありませんでした。作文が破かれてしまったから悲しいのではありません。

 せっかく授業参観に来てくれたお父さんへはじをかかせてしまったことが、夢を否定ひていされたことよりも悲しかった。

 お父さんは世界一強くてカッコいいのに私のせいでこんなあつかいを受けたことをあやまるため、私は一生いっしょう懸命けんめいお父さんにあたまげました。


剣神様けんじんさま面白おもしろくないものをお見せしてすいませんで――』


『――ひろえ』


『えっ、今なん――』


『――ひろえとっている。お前がてたものを』


『も、もしかして、このゴミをですか? これは剣神様には相応ふさわしく――』


『そうか、よく分かった――ならばその両手・・・・・・・はもう・・・いらないよな・・・・・・


 私がそうしてなみだぬぐっているとお父さんが先生の両手りょうてばし、周囲しゅういわらっていた同級生どうきゅうせいこえがなくなりました。


『……かえるぞシエル、こんなところにいる必要ひつようはない』


「おとう、さま?」


 私はなにこったのかからずにかたまっていると、お父さんにかかえられて教室きょうしつました。

 お父さんのうでの中で私がかなくて彼方此方あちこち視線しせんを向けていると『――すまなかった』とお父さんが言いました。


「えっ?」


『私は杏香きょうか早死はやじにしてから彼女かのじょているお前と勇気ゆうきがなくて、ずっと仕事しごとげてしまった。

 シエルにほんの少しでも注意ちゅういはらっていればこんな状況じょうきょうであることはぐにかったのに、直接ちょくせつこのるまで私は目をけてしまった……ダメな父親ちちおやですまない』


「ちが、そ――」


 私は自分じぶんのことをダメな父親というお父さんの言葉ことば否定ひていしたくて、なのにこえなくて、ただなみだます。

 私がそのことに絶望ぜつぼうしてもうなにもかもいやだとおもって目をじてじっとしていると「ちがうだろヘルト、あやまってどうする? こういうときはただあいしてるとえばいいんだ」そんなこえこえました。

 こえのするほうかおけるとテレビの映像えいぞうたことのあるおじいさまが・・・・・・っていました。


「この姿すがただとはじめましてだよなシエル、俺はデュラン。お前のおじいちゃんだ」


「おじい、さま?」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093084724784087


 おじいさまは目を見開みひらいて呆然ぼうぜんとしている私の前でくるりと周囲しゅうい見回みまわしてからためいきき――世界を斬りました・・・・・・・・


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093083254830962


 それから気がつくと私はまた・・教室きょうしつもどっていました。

 そしてまた・・目の前でおこっている担任の先生が、こわくて仕方しかたなくておびえていると。


『シエル! お前はふざけているのか!! なんだこのさ――』


界破かいはざん――らんッ!!」


 おじいさまが今度こんどは世界をズタズタにきざみました。

 それでも映像えいぞう逆再生ぎゃくさいせいするように元へもどろうとする世界せかいを目にし、私は思い出しました・・・・・・・・・――ここは夢の中だと・・・・・・・・







「シエルッ!!? クソッ――シエルどこだ!!! どこにいるッ!!!!」


 アリスにゆめ世界せかいおくられた後。シエルの姿すがたちかくにないとがついたデュランはあわてながらシエルをさがまわったが見つからず、あせっているとアイが夢の世界の解析かいせき完了かんりょうしたと報告ほうこくしてきた。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093084711869465


 するとそのタイミングできやあいって感情かんじょうがまだよくからず、こころうごけんをただるっているおさな前世ぜんせ自分じぶん自身じしんをこの世界で見つけたことでいまいるのがトラウマ悪夢の中だと理解りかいした。

 アイからもこの魔法まほう対象者たいしょうしゃ永遠えいえん悪夢あくむつづけてめるヤバイ魔法であることがらされると、デュランはアクセルブースターのボタンをした。

 そのままトラウマ世界そのものをぶったり、いそいでシエルがとらわれている悪夢をさがすと天晴てんせいぐちつくってからんだ。


 そして今現在いまげんざい――デュランは空間くうかんつづけることでシエルのトラウマ悪夢の動きを一時的いちじてきめていたが、自分のトラウマ世界を斬ったときのように天下てんか無双むそうを使ってシエルの世界をろうかなやんでいた。


「アリスのヤツ、とんでもなく悪辣あくらつな世界をつくりやがって――アイ、この悪夢あくむから脱出だっしゅつするにはどうしたらいい?」


『シエル様の悪夢を解析かいせきしましたが、やはりデュラン様の悪夢と同じでした。

 この魔法まほう対象者たいしょうしゃ永遠えいえんに悪夢を見せ続ける魔法ですので脱出だっしゅつ方法ほうほう先程さきほどおなじです。天下てんか無双むそう使つかい、このトラウマ世界そのものをるしかありません』


「……そうした場合ばあい、シエルにはどんな影響えいきょうが出る」


『何も影響えいきょうのない可能性かのうせいは1%ほどです。トラウマはシエル様の根幹こんかんんでいますので、どうしても何かしらの悪影響あくえいきょうてしまいます』


「そうか、だったらそのやりかたはダメだな。べつ方法ほうほうかんがえるしかねぇか」


 デュランはそう言ってからうつつくして空間を斬るのをまかせると、シエルのもとかってあるき出した。

 そうして様子ようすを見ながらゆっくりちかづいていくとみだしたりすることはなかったが、シエルとの距離きょりのこり1メートルのところでそのからだふるえだしたのでそのまった。


「シエル、少し話がしたいんだがいいかい? 大丈夫だいじょうぶなら返事へんじをしてくれ」


「……は、はい」


「ありがとうシエル、それじゃあいくつかはなししたいことがあるからいてくれ。まずは――」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093083257623058


 デュランは悪夢あくむなかだからか子供こども姿すがたになっているシエルへ今何いまなにきているのか、いちからじゅうまで丁寧ていねいやさしく説明せつめいしていった。

 まず2人とも黄昏たそがれいこていでアリスにそれぞれ別々べつべつゆめの世界へおくまれたことをつたえ、シエルにそのことをおぼえているかいてみると夢の世界であることはさっき思い出したけど。それ以外いがいのことがなにからないという返事へんじもどってきた。

 デュランはそのこたえをみみにしたことでシエルのこころ大半たいはんがまだ悪夢から目覚めざめられていないとさとり、このトラウマ世界からシエルの心をもどすためどうすればいいのか分からなかったが。

 えず周囲しゅうい景色けしきをシエルのトラウマの象徴しょうちょうであるこの教室きょうしつからべつ光景こうけいえられないかためすため、天下てんか無双むそう詠唱えいしょうわらせてから悪夢へ干渉かんしょうし。すここずったが周囲の景色をえることができた。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093083879248833


 ……なんでか夕暮ゆうぐどき小麦畑こむぎばたけになってしまったが、あのクソ教室きょうしつよりは全然ぜんぜんマシなのでこれでしとする。


「ここは、どこ? こむ、ぎ??」


「……あ~とな、俺があの教室が気に入らなかったから夢の景色を小麦畑に変えた。綺麗きれいだろ?」


「はい、きれ、いです、おじい、さま。ありが、とう、ござ、います」


「そうか、それならよかったよシエル。おじいちゃんがかならずこの悪夢からシエルをたすしてあげるからな、一緒いっしょにがんばろう」


「……わかり、ました。がん、ばる」


 デュランはえずシエルとうまでのたびかんする話をして彼女かのじょの心をけると、シエルが話をける状態じょうたいへしてから推測すいそくまじえてなんでこうなっているかを説明せつめいはじめた。

 アリスがシエルのトラウマをなおすためデュランと一緒いっしょ悪夢あくむの世界へおくり、シエルのトラウマが解決かいけつするまでられないようにしたことをつたえた後。

 アリスはきっとシエルとデュランの両方りょうほうからきらわれる覚悟かくご今回こんかい事態じたいこしているが、できればアリスのことを嫌わないであげてほしいとうと「おばあ、さま、きらわ、ない、です。だいす、きな、ので」とシエルがそうこたえたのでデュランは安堵あんどした。


「……わたしは、だめ、なこ、です」


「……どうして?」


「わた、し、かこと、むき、あうの、がこわ、くて、ずっと、にげて、ました。にげちゃ、だめ、だっ、たの、に」


「いいんじゃねぇか、べつげたって。そうして逃げることができたのはシエルのつよさなんだからさ。

 ひとだちするのってすごくこわかっただろう? それでもこうしてきてるんだからたいしたもんだと思うぜ。

 だからさ――もう逃げ出した自分じぶん自身じしんゆるしてあげなよ、シエル。もう自分のゆめのためにきていいだろ?」


「――っ!!?」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093084892121298


 デュランの言葉で心を救われたシエルはなみだながしながらデュランにきつき、ゆめめるまで子供こどものようにめどなくさけつづけた。

 ――こうして過去かこトラウマ悪夢さいなまれつづけていた少女は、この日デュランにすくわれてまれなおした。

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