回天剣舞

 先天性魔力せんてんせいまりょく過敏かびん欠乏症けつぼうしょう。それは一億人に一人の確率かくりつ発病はつびょうしてしまう病気びょうきであり、デュランとナハトが一生抱えていかなくてはならない疾患しっかんの名前である。

 世界中のどこにでも存在そんざいする魔力は万象ばんしょうつかさど光属性ひかりぞくせい幻想げんそうつかさど闇属性やみぞくせいの二つから形成けいせいされる生命エネルギーであり、本来ほんらいならば代謝たいしゃによってそのまま体へ取りんでも生き物に何のがいあたえることはないのですが。

 何らかの理由でたましい損傷そんしょうがある場合は光と闇のどちらかに耐性たいせいがないため、赤ん坊の段階だんかい極度きょくどのアレルギー反応を起こして死にいたります。


 それでも現在では対処療法たいしょりょうほうとして特殊とくしゅ機械きかいを使って魔力を光と闇に分離ぶんりしながら片方の属性だけを取り込むことで生き残ることができますが、それは無意識に魔力を分解ぶんかいしながら片方の属性だけを取り込むことができたデュランとナハトの存在が分かった後で発明はつめいされた物です。

 そのため大昔おおむかしから致死率ちしりつ100%の奇病きびょうとして恐れられきましたし、対処療法なしで普通に生きている赤ん坊は今現在にいたるまでデュランとナハト以外確認されていません。

 その患者数かんじゃすうは百人未満みまんの上に機械の値段が高いので多額たがく資金しきんが必要な病気ですが、前世のデュランが支援制度しえんせいど創設そうせつし。その効果もあって大多数の患者が今では生き残ることができています。


 さて――少し話が変わりますがこの世界における魔法まほうは魔力によって現実をえるものであり、普通は誰でも使つかうことができますが。当然とうぜんながら魔力をそのまま取り込むことができないデュランは使うことができません。

 ですが呪文じゅもん詠唱えいしょうして目には見えない精霊せいれい達へと働きかけて安全装置あんぜんそうちとなってもらうことで、デュランも魔法を使うことができます。

 そんなデュランの魔法の効果は単純明快たんじゅんめいかい――剣神になる・・・・・、それだけです。







https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093080366531736


「――勝利しょうりだけをねがうならつるぎきばと変わりなし、つらぬがたじんみちまもくものひとという」


 アリスの創り出した白い何もない空間の中、つるぎかいって立つデュランが詠唱えいしょうを開始する。

 詠唱の時間をかせぐため百体のうつを創り出して特攻とっこうさせたが、つるぎ即座そくざ全滅ぜんめつさせることで時間稼ぎをふうじ。一瞬でデュランの目の前にあらわれた。


無辜むこたみがため、つるぎとなりててきつ 」


 デュランは袈裟けさけに振り下ろされた刃を紙一重かみひとえけながらあえて一歩、つるぎへ向けてんだ。

 それによってねらいがわずかにズレた返しの刃を外させ、そのいきおいのまま掌底しょうていつるぎ胴体どうたいへ打ち込んだ。


「ただ一筋ひとすじ閃光せんこうを、おそれぬのならるがいい――天下無双てんかむそうッ!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093080366495083


 大したダメージにはならなくとも次の攻撃をおくらせることはでき、天下無双の詠唱を終わらせたデュランは神の領域りょういきへとんだあかしとしてかみの色を白く・・変えた。

 それでもまだつるぎの方が強いことを理解していたため、後ろでにかくした手の中にすなを創り出してからつるぎの顔目がけて投げつけ。目潰めつぶしをしながら斬りかった。


「――ッ!!?」


 しかしつるぎは目が見えないはずなのに反応し、その斬撃を避けながらデュランの頭へ拳を打ち込んできた。

 デュランは何が起こったのか理解できなかったがきたいてきた体はしっかりと反応はんのうし、反射的はんしゃてきに後ろへ飛ぶことでダメージを軽減けいげんした。

 それでも十秒ほど意識が飛んだ、それほどの一撃だった。


「あの、やろ、う」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093080367141174


 白い地面に頭から落ちつつつるぎの方へ目を向けてみれば、その首元には目が・・あった。

 その光景を視認しにんしてつるぎが反応できた理由をさとったが時すでにおそく、距離きょりめながら振り下ろされたつるぎの斬撃を避ける力はもう残っていなかった――なので自爆じばくした。


「……おどろき」


「ッ~~~~!!!!!?」


 デュランは体の側面そくめんで魔力を爆発ばくはつさせることでなんとか斬撃を回避かいひしたが、メチャクチャいたかった。泣きそうになったがなんとかえた

 そのまま体の側面と頭の怪我けがなおしてから体をひるがえし、空気をって足場あしばにすることで空をんだ。


「――お返しだァッ!!!!」


「……いやです」


 突撃とつげきしたデュランは思い切り天晴てんせいを振り下ろしたが、つるぎは力任せな一撃でデュランを強引ごういんき飛ばしてきた。

 デュランは手応えからつるぎとの力の差は軽く見積みつもっても十倍近いことを理解し、後先あとさきを考えていたら負ける死ぬと感じ取り。最後の切り札を切った・・・・・・・・・・


鳳凰剣ほうおうけんだァァッッッ!!!!」


「……すごい」


 ――鳳凰剣は天下無双をどうしても使えなかったヘルトが開発した技であり、デュランが一日中やっている筋肉の破壊はかい再生さいせいを超高速で繰り返えし。強くなり続けるというおくの手だった。

 破壊と再生を繰り返すことから不死鳥ふしちょうとも呼ばれる伝説の霊獣れいじゅうである鳳凰ほうおうの名前を取り、鳳凰剣と名付けられた。

 そしてもう一度言うが技である・・・・。技、つまり技術であるという特性上とくせいじょう魔法とも併用へいよう可能かのうだが、元より体と魂に負担を強いる天下無双へ更に鳳凰剣の重ねがけをしている上。未熟みじゅくな体のため長くは持たない。


 なのですぐにでも決着けっちゃくをつけたいが、つるぎ感心かんしんしながらも攻撃をあっさりとながして反撃はんげきまでしてくるし。

 先程までのけんるったことがない素人しろうと技術ぎじゅつと力だけをけたかのようなチグハグな感じがなくなり、スポンジが水を吸収きゅうしゅうするようにどんどん強くなってきている。

 デュランはかつてアリス達の師匠ししょうとして剣を教えていた時のことを思い出し、少しだけつるぎがどこまで強くなるのか見てみたかったが。世界最強を夢見るおとことして絶対ぜったいに負けたくなかったので、勝つ方法を探り――見つけた。


「……斬られた」


 つるぎほお一筋ひとすじきずをつけられて目を見開いたが、体は冷静れいせいに再度せまるデュランの刀を迎撃げいげきした。

 しかしデュランの攻撃は止まるどころか――さら加速かそくしてつるぎの体をぷたつにいた。


「……予想外よそうがい


 つるぎには何が起こったのか分からなかったが、このままだと体をバラバラにされて殺されることを理解していたので。体を無理矢理むりやりくっつけながら後方へ飛んだ。

 そうしてはなれた所から今のデュランを観察かんさつしてみると、何故なぜすさまじいはやさで回転かいてんしていた。

 理屈りくつはよく分からないながらもあの回転がデュランの攻撃速度こうげきそくどを上げていることは明白めいはくだったので、魔力で巨大きょだいけんを創り出し。上からたたきつけて回転を止めることにした。


「……お返し」


 巨大なけんでデュランをたたつぶしたと思った次の瞬間、つるぎ全身ぜんしんさかかれ。体をバラバラにされて死んだ。









「――デュラアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッッ!!!!!!!」


「ご、ごめんアリス、いくら死んでも生き返るからってちょっと無理しすぎた。

 今度一緒にデートするからゆるしてくれないか? もちろんアリスが気になってるってパンケーキのお店も一緒に行くからさ……だ、ダメかなぁ」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093080447362873


 デュランはいかくるっているアリスのおしおきを回避かいひするため、上目遣うわめづかいにアリスの方を見ていたが。

 まだ許してくれてなさそうだったのでしゅんと落ち込んだ姿を見せてみると、アリスがデュランを抱きかかえてから「もう。しょうがないなぁ、デュランは」と言いながら頭をでできたので許されたと判断はんだんして目一杯めいっぱいあまえた。


「ところでデュラン、さっきは何をしたの? 急にデュランが回転しだしたかと思えば、つるぎくんが斬り裂かれたみたいだったけど」


「……あぁ、あれは魔法を使うために取り込んだ闇属性の力でほんの五ミリほど地面からいたんだ。

 そうすれば相手の攻撃の力を100%そのまま自分の力にすることができるからな、後は自分のものにした力で回転しながらつるぎを斬ったって感じだ。

 最後の攻撃は振り下ろされたけんの力を推進力すいしんりょくに変えてつるぎの近くまで移動してからその全身を斬り裂いて殺した」


「……あれはびっくりした」


 そうして先程までの殺し合いについて話しんでいるといつの間に復活したのか、つるぎが話へ入ってきた。


「アハハッ、後もう少しで死ぬ負けるところだったからな! 負けたくなかったので本気で殺しに行った!! 悪いな!!!」


「……別にいい、気にしない」


「そうか! じゃあこれからも修行にってくれ!! よろしく頼むぞつるぎ先生!!!」


「……分かった、よろしく」


 デュランはアリスとの会話を邪魔じゃまされて少しムッとしたが、相手が純粋じゅんすいつるぎだったのですぐに表情を笑顔へ戻しながら会話を続けたが。

 殺し合いの結果を気にしてないようだったのでこれからも修行相手をお願いし、了承りょうしょうられたのでつるぎの両手をつかんで感謝かんしゃつたえた。

 けれど自身のうでを両手で掴むデュランの姿を目にしたつるぎは、何故か動揺どうようしてひとみゆららした。


「……つるぎ? どうした??」


「――デュランッ!!! そう言えばあの技の名前はどうする!!!!」


「うん? あぁ、あの技か。あれは――」


 デュランはつるぎの様子が気になったが、殺し合いで使った技の名前を何にするかアリスがいてきたので後回あとまわしにすると。あの技はまだ未完成みかんせいのためまだ名前はつけなくていいと伝えた。

 しかしその言葉をいたアリスは ご 機嫌 きげんで未完成ばんと完成版両方の名前をつけると言い出したので、デュランはあの技の完成形かんせいけいを伝えてから笑顔で分かったと返事したが。

 正直しょうじきデュランは何でもありの殺し合いの最中さいちゅう一々いちいち技名わざめいさけぶのが色々な理由でいやだったが、それをアリスへそのまま伝えて嫌われる方がなので。今日も何も言わなかった。

 ……チキンで草。


「デュラン、デュラン! 未完成版は回天かいてん剣舞けんぶ、完成版は――でどうかな!!」


「……うん、両方気に入った! 素敵すてきな名前をありがとなアリス!! それじゃあ早速修行だッ!!!」


「修行していい訳がないでしょうがっ! このおバカ!! そこに正座せいざしなさい!!!」


 デュランは取りえず両方の名前が決まったので修行を再開しようとしたが、当然とうぜん先程までの殺し合いのことを忘れていなかったアリスから正座するように言われてこんこんと説教された後。

 おしおきで猫耳ねこみみ尻尾しっぽを生やされ、語尾を『にゃ』に変えられたのでした。

 ……せっかくおしおきを回避かいひできそうだったのに、結局けっきょくおしおきされてて草。

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