幼年期 目指すは世界最強の剣士!

再誕

 俺はかつて剣で最強の二文字を追い求め、世界中を旅した一介いっかいの剣士だった・・・男だ。

 子供の頃から人の感情というものがよく分からず、人間関係で色々と苦労したが。

 剣へかかわることだけはいつもと違って合理的でない判断をすることがあり、それをり返すうちにこれが感情というものなのではないかという結論けつろんを出した。

 俺はその結論を元に人の感情を知るため最強の剣士になることを目標とし、世界中の様々な場所を旅をした。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093076252178461


 その旅の道中、エルフ族の里がある大森林へと立ち寄った俺は魔物まもの大群たいぐんがエルフ族の里を襲撃しゅうげきしているのを見つけた。

 魔物は魔法などに使用される生命エネルギーである魔力の湧き出る竜穴りゅうけつと呼ばれる場所が闇属性やみぞくせいの魔力で汚染され、周囲の動植物がへんじた動く災害。


 普通ならばエルフ族へ加勢かせいして一緒に闘うべきなのだが、当時俺の種族である人族じんぞく多種族たしゅぞくは人族側が侵略しんりゃく戦争を仕掛しかけた影響えいきょうで敵対しており。

 前に別のエルフ族の里で人族だという理由だけでおそわれた経験があったため、加勢かせいするつもりがなかった俺は魔物の軍勢を上空から・・・・見下ろしていた。

 そしてエルフ族の里を守るよう口うるさく行ってくる母親から目をそらした時、俺は運命の相手と・・・・・・出会ったんだと・・・・・・・今になって思う。


『大丈夫、君を絶対に死なせやしないさ』


 エルフ族の子供をかばって受けた魔物の毒による影響で立っていることすらできず、痛みから脂汗あぶらあせを流しながらもそう言い切り。

 エルフ族の子供を守りいてみせたハーフエルフの少女の姿を目にして心の底からうつくしいと思い、俺は息をんだ。

 それから気がついた時にはハーフエルフの少女を食らおうとする魔物をせていた。

 その後は何故かとんとん拍子びょうしでハーフエルフの少女と結婚が決まり、俺は色々と悩みながらも最終的にハーフエルフの少女――アリスと結婚する決意をし。エルフ族の里で婚礼こんれいり行って正式に夫婦となった。


 その後は人族と多種族の両方から差別さべつされるハーフ・・・エルフであるアリスのため侵略戦争を力くで終わらせ、様々な困難こんなんをアリスと二人で乗りえて最後には世界存亡そんぼう危機ききを解決し。アリスと俺達の子供が笑顔で暮らせる世界に変えることができた。

 しかしその頃には長年の無茶むちゃたたって俺の寿命じゅみょうは残り十年までけずれてしまっていたし、アリスはハーフとは言え人族の数倍の寿命を持つエルフ族。俺が死んだ後までアリス達が幸せでいられるか分からなかった。

 だからこそ俺は残された十年間でアリス達が差別されない国を創り出すことを目標もくひょうとし、建国けんこくと今だ世界中で残っていた差別意識の根絶こんぜつに残りの人生を全て使ってけ抜けた。

 そして様々な問題を旅の中で得た知識や人脈じんみゃくを使って一つ一つ解決し、差別のない国――ウィンクルム連合王国れんごうおうこくを息子であるヘルトへ受けがせた頃には俺の寿命はもう底をきかけていた。


「ガフッ! ――ゲホッ! ゲホッ!」


「デュラン! 大丈夫ッ!!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16818093076256658467


 俺は部屋に入ってきたアリスが魔法で治療を施ほどこすために近付いてくるのを手で制し、もう無駄むだだと首を振った。

 するとアリスは一瞬驚愕きょうがくの表情でこちらを見たかと思うと、大粒おおつぶの涙を流しながらその場にへたり込んだ。

 俺の母親である花の妖精ヴィンデや最愛さいあいつまであるアリスと娘であるステラ、息子であるヘルトの奥さんになってくれた杏香きょうか、そして十年間臣下しんかとして助けてくれた吸血鬼のルビーに感謝の言葉を伝えた後。

 泣きそうな顔でこちらを見ているヘルトの頭を、もうあまり力が入らない手でなでた。


「……死ぬのですか父上」


「……あぁ。魔力を周囲から取り込んでも次の瞬間にはごっそりと抜けていきやがる、どうやら今日が寿命みたいだ」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667985495946


 ヘルトは顔をゆがめて息をんだ後、一筋の涙を流しながら無言で俺の隣へと腰を下ろした。

 俺はヘルトが取り乱していないのを確認すると、寝床の近くに置いておいた相棒を手に持った。


「これは俺が光竜ライオードからもらった砂鉄の鉱床こうしょうとへし折った光竜ライオードの爪を使ってドワーフ族の鍛冶師であるアルムが鍛錬たんれんして作り上げた俺の刀――天晴てんせいだ。

 そしてこれからは剣神けんじんの名を受けぐお前の相棒となる、じゃじゃ馬だから扱いに困るかもしれんが。

 俺の知る限り最強の剣だ、必ずお前の助けになってくれる」


「父上ッ! これは――――」


「すまないな、これから剣神として生きていくお前へ死ぬ前に何か物を送ろうと考え抜いたのだが。

 ……俺にはこれくらいしか思いつかなかった」


 俺はヘルトに天晴を手渡すと重荷を背負わせることになるのを承知で剣神の称号を引き継がせた。

 何故ならありとあらゆる種族が信仰しんこうする伝説の剣士である剣神の名を俺がかたり、その強さを様々な者達へ見せつけて信じさせることができたからこそ世界は変わった。

 そのため俺が死んだ後の世に平和の象徴しょうちょうとなる剣神の名を継ぐものがいなければ遺恨いこんを残す者達が再び戦争を起こし、第二第三の侵略戦争が起こってしまうのが分かり切っていたからだ。

 それでも一人の親として子供へ危険な役目を残してしまうことが心配だったため、俺以外には決して使われないと駄駄だだねる天晴を必死に説得して息子であるヘルトは例外で助けてくれることになった。


「世界を剣神から託されるというのに、少しも動揺どうようしないか……流石は自慢の息子ヘルトだ。

 だからこそ、そんなお前だからこそ、俺の全てを渡せる・・・・・・・・――手をにぎってくれ」


「――はい、分かりました」


 俺はこれほどの大事だいじを任せられたにも拘わらず、りんとした表情でこちらを見ているヘルトの姿にどうしようもなく安心した。

 そして周囲から魔力その物を・・・・・・体の中に取り込み続け、もう限界だった魂が悲鳴ひめいを上げるのを無視むしして大量の魔力を体の中へめ込むと。突然の自殺行為に目を見開いているヘルトの手をつかんだ。

 そのままつながる手を通じて全ての魔力をヘルトへと渡し――力を使いたして倒れた。


「父上ッ!!?」


 ヘルトの悲痛ひつうさけび声を耳にした次の瞬間、俺の意識はけむりのようにうすまっていった。


「後は任せたぞ――二代目剣神ヘルト・ライオット」


 そしてヘルトへ激励げきれいの言葉を伝えたのを最期さいごに、俺は四十五年の人生へとまくを下ろし――この世をった。







 この世を去った、はずだった・・・・・

 永い眠りから覚めた俺が最初に感じたのは、目にみるほどの強烈きょうれつな光と体を包む人肌の温もりだった。


「――アギャッ!」


 突然の出来事に狼狽うろたえながらも周囲の様子を確認しようとしたが視界は白一色でよく見えないし、体もあまり動かせない。

 周囲の確認をあきらめて体内へ意識を向けるとヘルトに全て渡したはずの魔力がわずかながらも存在し、動けこそしないが体の調子もまるで若返ったかの・・・・・・ようによかった・・・・・・・


「あらあら起きちゃったのね、デュランちゃん。

 もう少しでご飯だから――ちょっとだけ待っててね?」


「あぅっ? ――あぅッ!!?」


 右も左も分からない状況に少し恐怖を感じていると何故か涙があふれ出してしまい、なんとか涙を止められないかと四苦八苦しくはっくしていると頭上から声が聞こえてきた。

 俺は聞き覚えのない声の主が親し気な口調で話し掛けてきたことを不思議に思い、質問をしようと口を開いたが赤ん坊じみた・・・・・・うなり声しか・・・・・・でなかった・・・・・

 それが引き金となって無意識に目をらしていた疑問が次々と浮かび、それらを整理せいりしたことで一つの答えへと辿たどり着いた。


「ご飯の時間よ、私のデュランちゃん」


「……ぁう」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667985485871


 ――どうやら俺は赤ん坊に生まれ変わったようだ。







 この世界にはかつて剣神けんじんたたえられた剣士がいた。

 剣士は十二の神が唯一神ゆいいつしんの座をめぐり争ったことで荒廃こうはいした世界を救うため、新たに生まれ落ちた十三番目の神である起源神きげんしんワールドと共に旅立ち。長い旅の末に起源神ワールドと共に十二の神をたして争いを終結しゅうけつさせた。

 そして争いを終結させ、神を打倒だとうした剣士は剣技をきわめ神の領域りょういきへと至った者――剣神と呼ばれた。

 そんな偉業いぎょうげた剣神はやがて姿を消し、共に世界を旅した起源神ワールドは世界を見守る存在として七体の竜王りゅうおうを生み出した後。荒廃した世界を支える大樹たいじゅユグドラシルに姿を変える。


 世界中のありとあらゆる種族が姿を消した剣神を探したが見つかることはなく――剣神は伝説になった。

 これは百年前。好きな女のために世界を救った新たな剣神が転生し、全ての黒幕くろまくを倒して世界を取り戻す物語である。

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