第11話:平和にやってます。

「おはよう、福ちゃん」


俺は毎日、紅に起こされて目覚める。


「おはよう紅・・・早いな」


そう言いながら俺は、俺に愛想を振りまく紅を見た。


紅は朝から元気だ・・・俺と素敵な仲になって余計明るくなった気がする。

しかも黄泉国よもつくにから帰ってきてから急に綺麗になった。

幸せオーラを放ってキラキラ輝いている。


そんなラブラブな俺たち・・・。

せっかくお互いの気持ちを伝え合って認め合った恋人どうしな俺と紅だけど・・・。

邪魔をしたいのかどうか知らないけど店の中を鴻鈞道人こうきんどうじんが、目を光らせてうろうそろしている。


「お前ら・・・スケベなことがしたいならやっていいぞ・・・わしに構わずな

・・・わしはそう言うのには興味ないからの 」


なんていう奴に限って怪しい。


「スケベなことだって・・・福ちゃん、おじいちゃんやらしい」


「アホか・・・店の中でなにしようてんだよ、客が切れてるからってできる訳

ないだろ、そんなこと・・・」


「なにもここでやれとは言っとらん」


「天邪鬼なじじいだな?」


そんなじいさんはそのま店に居座ってしまうのかと思ったら、それからしばらく

してまるで吟遊詩人のように自由を求めて店を出て行った。


書き置き一枚テーブルに残して・・・。


「涙くんさよなら・・・さよなら涙くん、また会う日まで」


意味が分からん・・・いい歌詞だけどな。

まあ俺たちのことをそんなふうに思ってくれてるのかな?


「いたらいたでウザいじいさんけど、いなきゃいないで寂しいか・・・」

「まあいいわ、これで誰にも邪魔されずに紅とラブラブできるわ」


店が終わって一段落。

紅が作っためちゃ美味チャーハン食って俺と紅は店の裏の物干し「ベランダ」

にいた。


「だけど俺たち黄泉国よもつくにからよく帰ってこれたよな」


「私が身護守玉みごもりのたまさえ落とさなきゃね行かなくてよかったのにね」


「それは別にわざとじゃないんだから・・・モノをなくすのは誰にでもある

ことだよ」


「あのさ福ちゃん・・・もしもね、もしも私がオーニガシマ国へ帰るって

言ったらどうする?」


「・・・それは困るな」

「そんなことになったら俺は里帰りした嫁を命がけで鬼の国まで迎えにいか

なきゃいけなくなるじゃん」


「嫁って・・・」


「俺はそのつもりでいるけど・・・」

「それにさ・・・黄泉国よもつくにから帰ったばっかだし・・・」

「できたら当分はトラブルはごめんだな」


「言ってみただけ・・・私帰らないよ・・・ずっと福ちゃんのそばにいるから」


「・・・・・・・」

「紅・・・俺の部屋に行こう」


そう言って俺は紅の手をひいた。


「手抜きするなよ・・・福」


「手抜きってなあ・・・おまえ・・・」

「ゲゲッ・・・じいさんこんなとろで何やってんだよ・・・出てったんじゃない

のかよ」


「偶然じゃ・・・旅の途中でたまたまここを通りかかっただけじゃ・・・」


「分かった・・・じゃ〜じいさん・・・せっかくだから見学していくか?」


「驚異ないわい・・・わしは疲れとるんじゃ・・・おまえらの交尾など見る

気などないわい 」


「紅ちゃん、がんばってのう」


「ありがとうおじいちゃん」


紅は鴻鈞道人こうきんどうじんにピースサインをした。


ってことで今日も今日とて蓬莱山ほうらいさんには可愛い鬼娘とヘンテコなじいさんが客に餃子を運んだりラーメンを運んだりチャーハンを運んだりしている。

結局、じいさんは店に戻って来てしまった・・・つかのまの家出だった。


とりあえず今のところは起承転結もなく蓬莱山ほうらいさん平和だな。


つづく。

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