第8話:予母都志許売。(ヨモツシコメ)
それは、豚に似ていて人間ふたりくらい乗せられるくらい大きくて足は6本あって、顔は目も口もなく豚特有の鼻だけが真ん中についていた。
そして、背中に大きな羽が生えていた。
羽の生えた豚さんになった鴻鈞道人は口もないのにしゃべった。
「ふたりとも、わしの背中に乗れ、ブヒ」
そう言われて俺と紅は羽の生えた豚の背中に乗った。
そしたら豚は勢い良く羽を羽ばたいて、あっと言う間に空に舞い上がった。
「しっかり捕まっておれよ・・・落ちるなよ、ブヒ」
俺たちを乗せた豚は湖を難なく超えてヨモツシコメの屋敷の入り口付近に
降り立った。
俺と紅が屋敷の入り口を探してる間に豚もどきは鴻鈞道人に戻っていた。
「忍び込むぞ、ブヒ」
「あ、ブヒは言わなくていいのか・・・」
「紅、俺から離れるなよ」
「うん、福ちゃんにしがみついてる」
俺たちは入り口から堂々と入って見つかったら面倒だと思って他の入り口を
探したがどこにも勝手口らしきところは見つからなかった。
「どこの家だって勝手口くらいはあるだろう、まったく」
「しかたないのう・・・正面から乗り込むか・・・」
「ヨモツシコメは、すばしこいからの・・・捕まって食われんようにしろよ」
「福ちゃん・・・式札は?」
「そうだ・・・式神・・・」
紅に言われて式神をもらってることを思い出した俺は人型を二枚シャツの
胸のポケットから出した。
「式神か?」
「俺のご先祖様の晴明さんからもらった式神・・・俺たちを守ってくれるって」
「だから、ヨモツシコメに見つかるようなことがあったら式神にそいつを阻止
してもらってる間に身護守玉を奪い返して鏡から俺たちの世界に帰るって寸法」
「戦いはたぶん式神まかせになるな」
「まずは、先に鏡のある部屋を探さんとな・・・」
「屋敷は思ったより広かった・・・まずは一階から・・・ひとつひとつ部屋を見て回ったが一階には鏡は見つからなかった」
「鏡はどこにあるんだよ・・・」
「ほんとにあるのかな?」
「まあ普通大事なものは一階になんか置かんわな・・・たぶん一番上の部屋じゃな」
「一気に上にあがってみるか・・・」
俺たちは階段を上っていった。
「紅・・・離れるなよ」
「うん・・・くっついてる」
二階の部屋も無視して三階の部屋も無視して、俺たちは最上階まで上がってきた。
「たぶん鏡はこの最上階にあるとわしは思うんじゃが・・・」
たしかに・・・大事なものは下の階なんかには置かないよな。
俺たちは最上階まであがるとそっと部屋の扉を開いた。
最上階の部屋は、他の部屋に比べて、超豪華絢爛だった。
しかも中央に大きな風呂があってその中に五人くらいの綺麗な女子たちが湯浴み
をしていた。
その真ん中の女性が一番派手で、まるで花魁さんみたいな出で立ちでキセルなんか
くゆらせていた。
「もしかして、真ん中の女がヨモツシコメ?」
「みたいじゃの・・・」
「綺麗な人ね・・・」
「娘御・・・あれはカムフラージュじゃ」
「本性は見るに耐えない蛇の化け物じゃて・・・」
「おまえら、なにしに来た?」
俺たちにそう言った、めっちゃ派手な着物を来ためっちゃ不気味でめっちゃ
妖艶なおばさんが、こっちを見て舌なめずりしながら笑っていた。
「おえっ、見つかったよ・・・ヨモツシコメ・・・」
「おまえら、なんの用じゃ・・・妾に食われに来たか?」
「ばばあ・・・俺の大事な人をよくも食いおったな」
「おう、誰かと思えば
「おまえも妾に食われに来たか・・・」
ヨモツシコメの後ろに目をやると、そこに姿見くらいの大きさの丸い鏡が
綺麗な飾り棚に立てかけてあった。
「鏡、見つけた・・・あの鏡だろ?」
そう言ったかと思ったら、いきなりヨモツシコメが襲ってきた。
鴻鈞道人が言ったように、ヨモツシコメは醜い蛇の化け物に豹変した。
「なんでもいよいわ・・・理由なぞどうでもよい」
「我が屋敷に足を踏みれたからには、ただでは返さんぞ・・・」
化け物女の馬鹿でかいクチがパカッと開いたかと思ったら鴻鈞道人は
あっという間にヨモツシコメに捕まってパクっと食われた。
「わ、おじいちゃん食べられちゃった」
「んんん〜・・・まずいじじいじゃのう・・・次はおまえらで口直しじゃ」
「紅、俺の後ろから絶対出るなよ」
「福ちゃん、あれ・・・ヨモツシコメの首から下がってる巾着」
「
「そうだ・・・式神っ」
俺は、すぐに向かってこようとしているヨモツシコメに向かって人形型をした
式札を二枚とも投げた。
つづく。
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