第7話:鴻鈞道人。(こうきんどうじん)

俺は紅を連れてヨモツシコメの屋敷に向かった。

途中、いろんな人に出会ったが誰も俺たちに声をかけるものはいなかった。


しばらく行くと食い物屋が立ち並ぶ場所にやってきた。

ラーメン屋とか、中華料理店にたこ焼きや・・・ピザ屋までいろいろ。


「ここにいる人たちはみんな魂じゃないのかよ」

「飯なんか食ったりするんだ?」

「腹減ってないか、紅?」

「たこ焼きでも食ってくか?・・・腹が減っては戦はできぬって言うだろ?」

「これからヨモツシコメのところに行くんだからパワーつけとかなきゃ」


「でも、お金持ってないよ」


「俺はいくらか持ってるけど・・・・人間の世界の金なんか通用しないかもな」


「試しに聞いてみるかな」


「福ちゃん、ご飯食べるなんてそんな悠長なことしてられないんでしょ」

「早くここを抜けないと、ふたりとも長くここにいたら戻れなくなるよ」


「そうだな、道草食ってる場合じゃなかった・・・」

「とっとといこいこ」


俺たちはヨモツシコメの屋敷がかなり大きく見えるところまでやって来た。


正塚婆が言ったとおり屋敷は湖の真ん中にある浮島に建っていてこちらの

位置からはかなり離れていた。

そこまで橋もかかってないので屋敷に行く手立てが見つからなかった。


「どうやって、ヨモツシコメの館まで行きゃいいんだ・・・」


「お手上げだね・・・」

「誰か、あのお屋敷に行ける方法知ってる人いないかな・・・」


「おまえら〜、あの屋敷に行きたいんか?」


「えっ」


そう声をかけられて俺は振り向いた。


見ると、小ぶりで奇妙な老人が、ひとり立っていた。

子供みたいに小さくて頭はツルッパゲなのに地面にも届きそうなくらいの白い髭を

偉そ〜に生やしていた。


「あなたは?」


紅がそう聞くと、老人は答えた。


「わしは鴻鈞道人こうきんどうじんって者じゃ」


「ああ・・・晴明さんが言ってた・・・こんにちは、こうきん?」


「こうきんどうじん」


「はあ・・・その道人さんに助けてもらえって安倍晴明さんが・・・」


「晴明から連絡をもらってたんでな・・・おまえらをここで待っとったんじゃ」

「おまえら、あの屋敷に行きたいんじゃろ?」


「あ、はい・・・あそこに行きたいんですけど・・・」


「だいいち、あの化け物のところに何の用事で行きたいんじゃ?」

「行っても、すぐに食われてヨモツシコメのうんこになって、しまいじゃ」


「どうしても行かなきゃいけないんです」

「でも、どうしてあんな場所に屋敷があるんです、不便でしょ」


「あいつは蛇に変身して風を操るでな・・・空を飛べるんじゃ・・・じゃから

あんなところに屋敷があるんじゃ」

「わしも実のところあいつには恨みがあるで・・・」

「昔、大切な人を、あいつに食われたんじゃ」


「じゃから事と次第によっては力にならんでもないぞ」


「おまえらあんな化け物のところに行こうって言うんだからのっぴきならねえ

訳があるんじゃろうが・・・」


そこで俺は、めんどくさいけど、これまでのことを抗菌道人に話して聞かせた。

本当は、そんな話なんかしてる暇なんてないんだよ。


「なるほどのう・・・身護守玉もごもりのたまか・・・面白そうじゃの?」


「で?おまえら、ヨモツシコメんちの鏡で自分らの世界に帰るんなら、わしも

連れて行ってくれんかの?」

「本当ならあの屋敷まで連れて行ってやるのになにか代償をもらうんじゃが

おまえらの世界に連れてってくれるならタダであの屋敷まで連れて行ってやるが・・・どうじゃ?」


「え?そんなことしていいんですか?ここにいなきゃいけないんじゃ」


「わしはもう何千年も前にここにやってきてここに住み着いておるが、ここも

飽きた・・・別の世界にいきたくなったで・・・」


「俺はかまわないですよ・・・紅も意義はないと思いますけど・・・」

「道人さんを俺たち世界に連れて行ってもいいよな、紅・・・」


「別にいいと思うけど・・・みんな自由だし・・・」


「よし、お互いの利害は成立しておるではないか?」

「あの屋敷まで連れて行ってやろうって親切で言っておるのだぞ」

「感謝せよ」


「お願いします、おじいちゃん」


「鬼の娘は素直でよろしい」


「では、でかけるかの・・・諸君」


つづく。



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