第3話:正塚婆。(しょうづかのばば)
俺と
でもって紅が飛び出してきただろう場所に車を止めた。
「紅・・・たしかおまえ、このあたりから飛び出して来たよな」
「うん・・・この向こうに石の柱が二本立ってると思う」
「伊賦夜坂って書いてある立て札が、折れて落っこちてたよ」
「その先の森が黄泉比良坂に通じてるのか?」
「じゃ〜行ってみっかな・・・」
俺と紅は、石の柱の間を通って、うっそうとした森の中へ入っていった。
ほぼ光もなくスマホの明かりだけで前に進んだ。
「この道、森のトンネルどこまで続くんだよ」
「もう少しだと思うけど・・・」
それからしばらく歩くと、森が向けて少し広めの場所に出た。
そこは不思議なことに見上げるとちゃんと空があってどんより曇ってはいたが
雲も流れていた。
周りは岩だらけで、まるで賽の河原みたいだった。
「福ちゃん・・・黄泉比良坂に入ったみたい」
「ここが?」
「誰もいないんだな?」
「黄泉の国への通り道だからね」
「なにもないところだから滅多に人の魂も通らないんだよ」
誰もいない荒涼とした場所を道にそって淡々と進んで行くとようやく向こうに
洞窟らしき入り口が見えてきた。
「福ちゃん、あれが女妊洞・・・」
「だけど、あそこには玉がないと入れないよ」
「つうことは紅はあの洞窟を抜けたあたりで玉を落としたってことになるよな?」
「この周辺で落としてたとしたら見つかるかもな?」
「そうだね・・女妊洞のあたりを探してみようか?」
俺と紅は洞窟の入り口までやってきた。
そしたら洞窟の脇に表札だか看板だかに「女妊洞」って古そうな文字で書かれて
あった。
「さ〜て探すか・・・あってくれよ」
「さっさと済ませてこんなところ早くでよう・・・それにニコニコ笑って
晩飯食いたいからな」
「私が腕によりをかけてまかない作ってあげるからね、福ちゃん」
「おう、楽しみにしてるからな」
その時だった。
後ろで誰かが俺たちに声をかけるものがいた。
「あんたら・・・ここでなにやっとんの?」
振り向くとそこに腰の曲がった皺くちゃのざんばら白髪の老婆が立っていた。
「なにやってるって・・・あなたこそ?・・・おばあさん誰ですか? 」
「ワシか?・・・ワシは、
「
「ああ、聞いたことあるわ・・・三途の川の手前で亡者の着物を剥ぎ取るって
いうばあさんだろ?」
「ばあさん、めっちゃ有名だよね」
「超有名だなんて・・・はずかしいではないかい」
「それもワシの仕事じゃがいつもは
んじゃ」
「ここは静かで年寄りにはええでの・・・」
「有名って言っただけで超はつけてないけどな・・・」
「それより人間がこんなところまで入ってきちゃいかんだろうが」
「長くいると魂を取り込まれて帰れなくなるぞ」
「いあ、俺たちちょっと探し物をしてて・・・見つけなきゃヤバいことに
なるんです」
「なに、探してんの?」
「つうか・・・その子、お兄さんの連れ・・・鬼の娘か?」
「私、
「紅姫・・・はて聞いたことあるようなないような?」
「オニガーシマ国の姫です」
「おお、オニガーシマ国の・・・あんたの母親の
「そうか・・・娘か?」
「で?なにを探してるって?」
「
「身護守じゃと?」
「ワシが拾ったのは
「実物を見たのははじめてじゃったが・・・あれがそうじゃったのか?」
「え?おばあさん知ってるの?
「まあな、神の宝珠くらいはワシでも知っとる」
「その玉、その女妊洞の前に落ちとるのをワシが見つけて拾ったわ」
「まじか、ばあさん・・・」
「ああ、よかった・・・おばあさんが拾ってくれてたんですね」
紅から笑顔が戻った・・・玉が見つかってホッとしたようだった。
「それがじゃ・・・よかったとも言えんのじゃ」
「「
「え?それどういうことだよ、ばあさん?」
「一足遅かたわい・・・「
「え?「
「それより紅姫ちゃんはなんでまた「
そこで俺たちは今までの出来事を掻い摘んで
聞かせた。
「なるほどのう・・・たしかに「
通れんわな」
「それで・・・おばあちゃん玉をどなたに渡したんですか?」
「
「ヨモツシコメってのは黄泉に彷徨って来た魂を食い荒らしてるうわばみ「蛇」の化けもんじゃ」
「逆らうと怖いでな・・・それより贈り物でもしておいあたほうがなにかと
恩恵はあるからの」
「それでそのヨモツなんたらに玉を渡しちゃったの?」
「
「大変・・・そんな人に
してなにしでかすか分かったもんじゃないよ・・・どうしよう福ちゃん」
「どうしようって言ってもな、今聞いただけでも俺たちじゃ太刀打ちできそうに
ないキャラだな・・・そのヨモツシコメってやつ・・・」
「だけど、このまま指を咥えてなにもしない訳にはいかないよ」
「分かってるけどさ・・・」
「福ちゃん・・・」
「あんたら、ヨモツシコメのところに行くんならあいつの屋敷が見えるところ
までは案内してやるぞ」
つづく。
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