第2話:身護守玉。(みごもりのたま)

べには伝承で語り継がれる鬼と違って角さえなきゃ普通の女の子だ。


店に来る客からはよくからかわれてるが客も本気じゃない。

紅のことをコスプレかなんかだと思ってるらしい。

まあ、それは紅にとっても俺にとっても好都合なんだけどな。


紅と同じような鬼さんが、愛媛県南予地方の町・鬼北町にいる。

道の駅 日吉夢産地ひよしゆめさんちってところに鬼ママ・柚鬼媛ゆきひめさんって子供を抱いた鬼嫁が

いるんだ。


まあ鬼北町の柚鬼媛ゆきひめさんは家内安全、縁結び、安産祈願の願いをかなえる

鬼さんとされてるみたいだね。


紅も柚鬼媛ゆきひめさんも、もしかしたら出処は一緒なのかもな・・・。


ちなみに柚鬼媛ゆきひめの名前の由来にもなっているユズは鬼北町の特産品で、「ゆずシャーベット」250円で食べられるらしい・・・一度紅を連れて食べに行きたいもんだ。


ある日のこと、朝から紅が玉がないと騒いでいる。


「玉って?」


身護守玉みごもりのたま」って言って黄泉比良坂の女妊洞ってところを通る時持ってきた玉だよ」

「体が魂ごと黄泉の国に持って行かれないように体に留めてくれる力を持ってるの」

「そうじゃないと女妊洞を通れないからね」


もし万が一黄泉の国に行ったとしてもあの玉がないと黄泉から帰って来れない

んだよ・・・だからとっても大事な玉なの」


「そんな大事なもの・・・なんでちゃんと締まっておかなかったんだよ」

「・・・どこかに落としたんじゃないのか?」


「あれがないとオーニガシマ国にも帰れないよ」


「え?帰るつもりか?」


「帰るつもりないけど・・・だけど・・・それよりもっと心配なことがあるの」


「ほう・・・それはまた?」


「あの玉はほんとは門外不出で、外に出しちゃいけない代物なの」

「心根のいい人が持てば幸せをもたらしてくれるけど、よこしまな心の人が

あの玉を持つと悪いことに利用される」


「あの玉は持つ人の心、性根を反映するの」


「黄泉の国って歴史は長いから極悪な人もたくさんいるからね」

「もし黄泉の国にいる悪い誰かの手に玉が渡ったら黄泉の国どころか人間の

世界も巻き込んで全宇宙は善も悪も入り混じった化け物が徘徊する闇の世界に

なっちゃう」


「って言われてる・・昔からね」

「そん怖いことはまだ起こってないけど・・・言い伝えだけでね・・・」


「なんだよ、言い伝えかい?」


「昔からの言い伝えをバカにすると痛い目に合うよ、福ちゃん」


「あの玉はもともと神様が作ったものだからね・・・神の宝珠って言って

神様が持つものは使い方によっては表裏一体・・・いいことにも役立つけど

最悪の場合は世界を破壊しかねないの」


「そりゃ怖いわな」


「バカにしてるでしょ」


「とんでもない・・・たださ、起こってもないって信ぴょう性に欠けるんだよな」


「あ、そ・・・でも起こってからじゃ遅いよ」

「福ちゃんも、福ちゃんのパパさんもママさんもみんないなくなっちゃうんだよ」

「このお店もなくなっちゃうんだよ」


「そんなあ・・・俺を脅かすなよ」

「わかったよ・・・まあ、そういうことが起こるかどうかは別にして

ないものは気になるから玉を探そう・・・俺も手伝うからさ」


でもって俺と紅は店の中や二階の部屋や店の外まで手当たり次第に探した。

隅々まで・・・。


「あのさ紅・・・俺と出会った時、その玉どうしてた?」

「手に持ってたのか?」


「巾着に玉を入れて首から下げてたけど・・・」


「けどさ・・・思い出してみるとあの時、紅の首からは何も下がってなかったって

記憶してるけどな・・・俺の思い違いじゃなきゃな」


「それじゃ黄泉比良坂から出た時にどこかにひっかけて巾着の紐が切れたとか?」


「それはありえるな・・・」


「行ってみるか・・・俺の田舎へ・・・黄泉比良坂とやらへ」


「うん」


「まあ、とにかくそのなんとかの玉っての早く見つけなきゃ」


身護守玉みごもりのたま」だよ、福ちゃん」


つづく。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る