黄泉国物語 (よもつくにものがたり)

猫野 尻尾

第1話:紅姫。(べにひめ)

第31回電撃大賞 電撃小説大賞 応募作品です。


ここは鬼の国、オーニガシマ国。


その鬼の国のお姫様は親の決めた「許婚」男の鬼と無理やりくっつけられそうに

なりオーニガシマ国を逃げ出した。


「お姫様の名前は「紅姫べにひめ」」


紅姫は歳の頃なら17歳。

鬼ったって、文献に出てくる怖〜い鬼と違って、顔も赤くもないし青くもない

人間と同じ肌色をしている。

髪は長く、色は村明るい金髪で頭にはやっぱり鬼だって証拠のツノが2本生えて

いた。

ビキニみたいな水着らしいものを身にまとっていた。


紅姫は鬼の国から地獄を通って黄泉の国へ・・・現世と黄泉のとの境目にある

女妊洞にょにんどうってところ抜けて黄泉比良坂を通り人間界へやってきた。


その女妊洞を抜けるためには「身護守玉みごもりのたま」って宝珠がいる。

紅姫は夜中に玉を盗んで「みごもり とどめよ みごもり」と繰り返しながら

その女妊洞を通って人間界へやってきた。


あとから誰かが追ってきても「身護守玉みごもりのたま」がない限り女妊洞は通れない。


まあ、よほど神通力の強い鬼ならもしかしたら通れるかもしれない・・・。


力を持たぬ者がもし玉を持たず黄泉の国からひとりで女妊洞を通ろうとすると、

黄泉の国に引き戻されてしまうし、黄泉比良坂のほうから入ろうとすればそのまま

また黄泉の国に引き込まれてしまう・・・。


どちらにしても黄泉の国へ行ってしまうわけで一度黄泉の国に行ってしまうと永遠に出られなくなる。


紅姫は身護守玉みごもりのたまを持っていたからこそ、すんなり人間の世界

来ることができたというわけ。


さて人間界へ逃げて来たものの右も左も分からない紅姫。

これからどこへ行ったものか困り果てていた。


そこに通りかかったのが俺「阿部 福太郎あべ ふくたろう」現在、25歳。

俺のうちは両親が中華料理屋を営んでて、俺は長男でひとりっ子。

将来は店を継ぐ予定ではある・・・あくまで予定。


今日は2月3日、節分。

たまたま田舎の祖父の家で法事があったので車で実家に帰って来ていた。

法事も無事終わって、陽もとっぷりとくれた中、街灯もない田舎道のつずら

折れを車で走ってたんだ。

マンションへ帰るためにね。


そしたら鹿か猪か・・・何かか?急に俺の車の前に飛び出してきた。

俺はハンドルを切って急ブレーキを踏んだ。


当たったり引いたりはしてないと思った。

でもちょっと心配だったから確かめるために車を降りて前に回った。


そしたら・・・なんと若い女が車の前にキョトンとした顔で座ってるじゃ

ないかよ。


こんな夜に女が一人って・・・。


「あの大丈夫ですか?」


「うん・・・」


「君さ、こんなところで何やってるの?」

「飛び出したら危ないでしょ」

「怪我はなさそうだし・・・こんなところにいないで帰ったほうがいいよ」


「帰るところがないの」


「なに言ってんの?」


「どこかから来たわけでしょ?・・・家だってあるでしょうが?」


「あるけど、ここから遠いところだし・・・私帰りたくないの」


「しょうがないな・・・俺も早く帰りたいんだよな」

「じゃ〜さ派出所まで乗せてってあげるから、そこでおまわりさんの

お世話になりな・・・俺は面倒見切れないから、ね?」


「見捨てないで・・・お願い」


「よ〜く見ると頭に角らしきものが左右2本生えてるし・・・」

「そんな娘、某漫画の中でしか見たことないけど・・・」


それが紅姫「鬼のお姫様」と俺の出会いだったんだ。


その娘を拾って田舎から帰る途中に、その子から実は自分は鬼で名前を

「紅姫」って言うんだって聞かされた。


「紅姫・・・べにひめ?・・・ベニちゃんか」


なんでも家出してきたって話らしい。

「そんな作り話にわかには信じられないよな」って言ったらめちゃ激怒された。


だってさ・・・この世にお鬼なんてキャラいるわけないし・・・。


でもって今、紅姫は俺の店にいるわけで、これまた親父とお袋に彼女のことを

説明しても信じてくれないし、誘拐犯みたいに言われるしで散々。


まさか鬼だなんてことは言えない。


で、なんとか事を納めて彼女を店に置いてもいいってことになった。


俺んちの中華理屋の店の名前は「蓬莱山ほうらいさん


結局、俺んちの店はウェイトレスさんがいないってことで紅姫はエプロンなんか

してお客に餃子や中華そばなんか運んだりしている。


で、俺はと言うとそんな紅姫が客に粗相してないか厨房から様子をうかがっている。

郷に入っては郷に従えとはよく言ったもの・・・紅姫は人間の社会にきっちり馴染

んでるじゃん。


で、お俺は紅姫のことを「べに」って呼び、紅は俺のことを「ふくちゃん」って呼ぶ。


つづく。



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