第35話 パーソナルカラー診断をしましょう

 パーソナルカラー診断の準備のためアトリエを飛び出した陽葵ひまりは、人数分の紙とカラフルなハンカチを持って戻ってきた。


「どうしたんですか? そのハンカチ」

「ティナちゃんの魔法で白いハンカチをカラフルに染めてもらったんだ」

「魔女様はそんなこともできるんですね!」


 ロミはあらためてティナの魔法に感心していた。それから陽葵は、三人に紙を配り始める。


「まずはこのアンケートに答えてください。自分の肌の色や瞳の色の状態をチェックしましょう」


 三人は紙を受け取ると、さっそくアンケートに答え始めた。


~*~*~


【パーソナルカラー診断】

 当てはまる方に〇を付けてください。


 Q1 手のひらの色はどちらに当てはまる?

 A 黄色もしくはオレンジに近い

 B ピンクもしくは赤紫に近い


 Q2 手首の裏の血管はどんな色に見える?

 A 緑もしくは青緑

 B 青もしくは赤紫


 Q3 アクセサリーはどちらが似合う?

 A ゴールド

 B シルバー


~*~*~


 回答を終えてから、各々陽葵に紙を戻した。


「書けましたの」

「ありがとー!」

「これで一体何が分かるの?」


 アリアから質問されて、陽葵はアンケートの目的を伝えた。


「このアンケートで、イエローベースかブルーベースか判定できます」

「イエローかブルー? どういうことなの?」

「パーソナルカラーは、イエローベースとブルーベースに分類できます。どっちに当てはまるか分かることで、似合う色が判断しやすくなるんですよ」


 それから陽葵は、回答してもらったアンケートをもとに診断をする。


「アンケート結果を見ると、アリア様とロミちゃんがイエローベースで、セラさんがブルーベースですね」


 ちなみに陽葵はイエローベースだ。そしてアンケートには回答してもらっていないが、ティナとリリーは見た目の印象からブルーベースと判断できる。このメンバー内でもちょうど良くタイプが割れた。


 イエベ・ブルベが分かったところで、今後はカラフルなハンカチを用意しながら解説を続けた。


「イエベ・ブルベの中でもタイプが別れます。それを判別するためにこのハンカチを使いましょう!」


「ハンカチをどうするんですの?」


「カラフルなハンカチを顔の下で順番に当てていって、顔色がどう変化するのかチェックするんだよ。とりあえずロミちゃんからやってみよう!」


 説明するよりも実際に見てもらった方が早い。ロミを鏡の前で座らせて、陽葵はその後ろに立った。


 最初に真っ白のハンカチを当てていく。白いハンカチの下には、ピンク系統のハンカチを4枚重ねていた。


「それじゃあ行くよ」

「お願いします」


 陽葵はピンク系統の4枚のハンカチを順々に当てていく。淡いピンクから濃い目のピンク、黄みの強いピンクから青みの強いピンクなど、同じピンクでも微妙に色が違う。


 4枚のハンカチを比べてみると、顔色がよく見えるカラーが見つかった。


「ロミちゃんはサーモンピンクが似合うみたいだね。サーモンピンクを当てた時は顔色が良く見える。反対に青みの強いローズピンクを当てた時は、顔色が悪く見えるね」


「分かります! サーモンピンクの時は健康そうでしたが、ローズピンクの時は具合が悪そうに見えました」


 違いが分かってもらえて良かった。それから黄色系統や青系統、緑系統などのハンカチを当てて、同じように顔色の変化を観察してみる。すると、ロミのタイプが診断できた。


「ロミちゃんはイエベ秋だね」

? どういう意味です?」


 ロミは不思議そうに首を傾げる。そこで陽葵は、この世界では四季の概念も存在しないのかもしれないと気付く。


 とはいえ、ここで四季の概念を説明するのもややこしくなりそうだったから、名称自体の説明は省いて特徴だけを伝えることにした。


「イエベ秋っていうのはね、深みのある温かい色が似合うタイプのことだよ。オレンジやサーモンピンク、ゴールド、ターコイズなんかが似合うタイプだね」


「そうなんですね。あっ……言われてみれば、お洋服はよくオレンジを選んでいるような気がします」


 ロミが今日着ているのはオレンジに細かな花の刺繍が入ったワンピースだ。顔色がパッと明るく見えて、ロミの雰囲気ともマッチしていた。


「それは直感的に似合う色を選んでいたんだね。さっすがロミちゃん!」

「えへへ、ヒマリさんに褒められると嬉しいです」


 ロミは目を褒めながら嬉しそうに笑っていた。パーソナルカラーが判明したところで、当初の目的であった口紅の色の話に戻る。


「イエベ秋のタイプに似合う口紅の色は、サーモンピンクやベージュ系だね。可愛い印象にしたいならサーモンピンクで、大人っぽい印象にしたいならベージュ系が無難だけど」

「可愛くしてください!」

「よしっ、じゃあサーモンピンクにしようか!」


 こうしてロミの口紅の色はサーモンピンクに決定した。サーモンピンクは文字通り焼いた鮭の身のようなオレンジがかったピンク色で、温かみのある女性らしい雰囲気に仕上がる。可愛く見せたいという要望も叶えられそうだ。


 一人目の診断が終わったところで、アリアがうずうずしながら陽葵を見つめていた。


「なんだか占いみたいで面白そうね」

「確かに占いみたいですね。お次はアリア様を診断しますね」

「ええ。お願いするわ」


 アリアにも先ほどと同じように順々にハンカチを当てていく。ハンカチの色と顔色を見比べていくと、ロミとは違う結果になった。


 ソワソワとしながら目を輝かせるアリアに診断結果を伝える。


「アリア様はイエベ春ですね」

「私はなのね」


 アリアは興味深そうにうんうんと頷く。ファンデーション作りをしていた時からうっすら気付いていたが、やはりイエベ春のようだった。ちなみに陽葵もアリアと同じ、イエベ春に該当する。


「イエベ春は、春に咲く花のような可愛らしい色合いが似合うタイプです。コーラルピンクやアプリコット、アイボリーなどが似合いますね。口紅の色だと、コーラルピンクやピーチピンクがおすすめですよ」


「それならピーチピンクでお願いするわ」


「かしこまりました!」


 アリアの診断結果を伝えたところで、今度はセラの診断に移る。セラは診断前からどこかソワソワしていた。


「私まで診断していただいてよろしいのでしょうか? 私はアリア様の付き添いの身なのに」


「何を言っているんですか、セラさん。ここまで来たんですから見ているだけなんてつまらないですよ!」


「で、ですが……」


 セラはアリアをチラッと見つめる。視線に気付いたアリアは、何食わぬ顔で伝えた。


「せっかくだから診断してもらいなさいよ。付き添いだからなんて気にしなくていいわ。楽しいことはみんなで共有した方がいいのだから」


「アリア様がそう仰るなら……お心遣い感謝します」


 セラは騎士のように胸に手を当てて、折り目正しくお辞儀をする。そのまま陽葵にもお辞儀をした。


「では、ヒマリ様。よろしくお願いいたします」


 そんな態度を取られると、陽葵の方が緊張してしまう。


「セラさん、いいんですよ! そんなに恐縮しなくても。とりあえず、ハンカチを当てていきますね」


 アワアワとしながらも、セラにハンカチを当てていく。ブルベに該当するセラだったが、その先の分類も簡単に判別できた。


「セラさんはブルベ冬ですね。ブルベ冬は、クールで凛とした雰囲気を持つタイプです」

「ほう。クールで凛と」


 そう呟くセラは、どこか嬉しそうだった。


 セラがブルベ冬というのも納得だ。第一印象からして凛とした雰囲気だったから。ちなみに、ティナもブルベ冬に当てはまると推測できる。わざわざハンカチを当てて確かめなくても、普段から見ているから分かる。


「ブルベ冬に似合う色は、マゼンダやワインレッド、ロイヤルブルーなどです。原色に近い鮮やかな色がお似合いですよ。口紅の色はローズピンクやワインレッドがおすすめです」


「なるほど。それでしたらワインレッドの方が好みですね」


 セラがそう答えた瞬間、アリアが口元に手を添えながらクスっと笑う。


「いつもはカッコいいセラが真っ赤な口紅を付けたらどうなるのかしら。とても楽しみだわ」

「なっ……アリア様……」

「きっと、大人っぽくてセクシーな雰囲気になりますよー」

「せくって……ヒマリ様も揶揄わないでください!」


 セラはいつになく取り乱した態度でアリアと陽葵を窘めた。アリアの言う通り、中性的なセラは化粧をしたら絶対に化ける。美形騎士から色気のある美女に代わる姿も見てみたかった。


 うずうずした気持ちのまま、陽葵は拳を突き上げた。


「口紅の色も決まったことだし、さっそくカラーサンドを調合して作っていきましょう」

「おー!」


 ロミの掛け声とともに、口紅作りが本格始動した。

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