第34話 自分に似合う色をご存知ですか?
アトリエには、
「凄いわ。これから新しい化粧品が生まれると思うとワクワクするわね」
「ええ。とても興味深いですね」
「あははは。大袈裟ですよ~」
二人から注目されて、陽葵は照れ笑いをする。期待されているのがヒシヒシと伝わってきた。
材料は昨日のうちに揃えておいたから問題はないはず。アトリエにストックがなかった材料は、金型が完成する前に全て注文をしておいた。
口紅は基本的に顔料と油性成分で出来ている。顔料はマイカと呼ばれる鉱物に色を付けたものを使用することが多いが、この世界ではカラーサンドで代用できそうだ。
油性成分はミツバチの巣から採れるミツロウとキャンデリラ草の茎から抽出できるキャンデリラワックス、さらにしっとり感を出すシアバターとホホバオイルも用意した。せっかくなら唇に色を与えるだけでなく、保湿ケアもできるようにしたいというのが陽葵の狙いだ。
「材料も揃ったことだし、さっそく始めましょう」
「わくわく!」
ロミは胸の前で拳を握りながらキラキラと瞳を輝かせる。相変わらずノリが良くて助かる。そんな中、アリアが材料と機械を交互に見ながら尋ねてきた。
「そういえば、まだ何を作るのか聞いていなかったわね」
「ああっ、まだ説明してなかったですね。今日は口紅を作ります」
「口紅?」
やはりと言うべきか、口紅と聞いてもピンと来ていないようで首を傾げていた。庶民の間では馴染みがなくても、貴族の間では知られているのではとも考えていたが、そうでもないらしい。この世界では、身分に関わらず口紅の存在を知らないようだった。
陽葵はアリアにも理解してもらえるように口紅の役割を伝える。
「口紅は唇に彩りを与える化粧品です。もとの唇の色を明るくすることで、顔色がパッと明るく見えるんですよ」
「唇の色を変えるってこと? 随分おかしなことをするのね」
確かに口紅自体を知らない人からすれば、おかしな行動に思えるのかもしれない。これは言葉で説明するよりは、実際に試してもらった方がいいのかもしれない。
「百聞は一見に如かずです。まずは試作してみましょう」
「そうね。続けて頂戴」
「はい! ……と、その前に何色の口紅を作るか決めておく必要がありますね」
陽葵は棚からカラーサンドの入った瓶を取り出した。レッド、ピンク、オレンジ、パープル……。これらを混ぜ合わせて、自分好みの色に調合していくのだが、色を選ぶ段階が一番迷う。作りながら決めるよりも先に決めておいた方がスムーズに進む気がした。
「うーん、何色で作ろうかなー」
無難にレッドで作るというのもアリだが、それではちょっと面白くない。せっかくならここに居る女の子たちに似合う色で作りたかった。
「みなさんは自分に似合う色ってご存知ですか? それに合わせて口紅の色を調合しようと思うんですが」
自分に似合う色を教えてもらおうとしたが、三人は首を傾げるばかり。
「自分に似合う色ですか……。難しいですの」
「そんなの考えたことないわ」
「分かりかねますね」
三人とも自分に似合う色を把握していない様子だった。
分からないのも無理はない。もとの世界でも自分に似合う色を聞かれてすぐに答えられる人は少ない。自分の姿は鏡を通した時にしか見えないから、どんな色が似合うのかは主観ではなかなか判断できない。
とはいえ、自分に似合う色を知っていることにメリットがあるのも事実だ。化粧品はもちろん、洋服やヘアカラーを選ぶときにも参考になる。
そこで陽葵はピンとひらめいた。
「そうだ! せっかくなので、パーソナルカラー診断をしましょう!」
「ぱーそなるからー?」
聞き馴染みのない言葉に、一同は首を傾げた。
そこで陽葵はパーソナルカラー診断について説明する。
「簡単に説明すると、自分に似合う色を見つめるためのテストですね。生まれ持った肌の色や瞳の色、髪の色はみんなそれぞれ違います。なので似合う色もそれぞれ違ってくるんです」
「私に似合う色とヒマリさんに似合う色は違うってことですの?」
「そういうこと! 肌や瞳や髪の色と調和が取れると、顔色が明るく見えたり艶があるように見えたりするの。反対に自分に似合わない色を顔周りに持ってくると、お肌がどんよりくすんで見えることもあるんだよ」
「色が違うだけでそんなことになるんですね! それなら似合う色と似合わない色を知っておいた方が良さそうですね」
パーソナルカラーの意義については理解してもらえたようだ。そこで陽葵とロミのやりとりを聞いていたアリアが話に加わる。
「自分に似合う色を探すのが大事ってことは分かったけど、具体的にはどうすればいいの?」
「いつくかの質問に答えて導き出すやり方や、カラフルな布を顔周りに当てて見比べるやり方が一般的ですね」
いずれにしても準備が必要だ。陽葵はアトリエから飛び出した。
「準備をしてくるので少々お待ちを~!」
「ああっ、ヒマリさん!」
勢いのままに飛び出していった陽葵を、ロミ、アリア、セラは呆然としながら眺めていた。
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