第32話 発明家さんが仲間になりました

 陽葵ひまりのスキンケアレッスン&お泊り会から一週間が経過した。


「ロミちゃん、お肌の調子良くなったかなー?」


 正しいスキンケアを続けていれば、そろそろ改善が見られる頃合いだ。レジスターの前の椅子に腰かけながらロミの心配をしていると、タイミングよく張本人がやって来た。


 バタンと大きな音を立てて飛び込んできたロミは、前回とは違って晴れやかな表情を浮かべている。


「ヒマリさん、見てください、ほら!」


 店に入るや否や、ロミは陽葵に駆け寄り、前髪を上げる。ポツポツとできていたニキビは、赤みが引いてかなり良くなっていた。


「おおー! 綺麗になってきたね!」

「はいっ! ヒマリさんから頂いた石鹸を使いながら、正しいスキンケアを続けたら良くなりました」


 ロミは嬉しそうに微笑む。ふさふさの尻尾も左右に大きく揺れていた。


 スキンケアを見直して肌荒れを改善させるという作戦は大成功だ。ロミの笑顔を取り戻せて安堵した陽葵だった。


 とはいえ、美肌を保つにはスキンケアを見直すだけでは不十分だ。陽葵はさらに重要なポイントを伝えた。


「美肌を保つには、規則正しい生活を意識することも大切だよ。睡眠をしっかり取ること、バランスの良い食事を心がけること、ストレスを溜めないこと、これも意識しようね」

「はいっ! 先生!」


 ロミはビシッと敬礼をする。その直後、左右に大きく揺れた尻尾が商品棚に激突した。


「あ」


 ガシャーン。


 棚に並んでいたラバンダ化粧水がいくつも床に落下した。床に落ちた衝撃で瓶は粉々に割れ、中の化粧水は床に染み込んだ。店内に居たお客さんも何事かとこちらに注目する。


「あーあ、やっちゃった」

「あわわわわっ……ヒマリさん、スイマセンっ!」


 ロミは怯えながら何度も頭を下げる。すると騒ぎを聞きつけたティナが飛んできた。


「おいっ、何があった……って、ああー……」


 床に瓶の破片が散らばった惨状を見て、ティナは頭を抱える。


「どっちがやった?」

「魔女様、私がやりました。尻尾でガシャーンって……」

「また尻尾か! どうにかできないのかソレ!」

「うう……興奮するとつい尻尾が疎かになってしまって……」


 ロミは尻尾を両手で抱えながら涙目になる。陽葵だったらそんな可愛い仕草を見せられただけで許してしまうが、冷酷な魔女さんはそうはいかなかった。


「で、どうするつもりだ?」

「べ、弁償します」

「割ったのは8個か。じゃあ銀貨24枚だな」

「はい……」


 素直にポシェットから財布を取り出そうとするロミ。その光景を見て、可哀そうに思えてきた。


「待って、待って。流石に8個分も弁償させるのは可哀そうだよ」

「ほう、じゃあどうするつもりだ」

「それは……」


 ティナにジトっとした視線を向けられたことで、陽葵は両腕を組んで解決策を考える。個人的には素直に謝ってもらえたからお咎めなしでも構わなかったが、それでは魔女さんの気が収まらないらしい。


 何か別の解決策はないかと考えていた時、ピンとひらめいた。


「そうだよ! お金じゃなくて頭で返してもらえばいいんだよ!」

「頭で?」

「どういうことですか?」


 きょとんとする二人。そこで陽葵はみんなが得する解決策を提案した。


「コスメ工房で使う機械をロミちゃんに発明してもらえばいいんだよ! そうすれば、もっと色々な商品を開発できるよ」


 以前から陽葵は考えていた。口紅やチークなどのメイクアイテムにも手を出してみたいと。だけど実現させるには、金型をはじめとした機械が必要になる。それらをロミに開発してもらえば万事解決だ。


「もちろん、機械を作ってくれたお代はちゃんと支払うよ。国から研究開発費も貰ってるからね」


 アリアの悩みを解決した後に研究開発費を受け取っていた。それがあればロミへのお代も支払える。


「それでどうかな? ティナちゃん」


 ティナに同意を求める。どうなるかとハラハラしたが、ティナの反応は好意的だった。


「確かに……町一番の発明家が仲間になれば、これほどまでに心強いことはないな。商品ラインナップが増えれば、店の売上もアップするわけだし」

「ねっ! 悪くないアイディアでしょ?」


 解決策が固まりつつあるところで、改めてロミに尋ねる。


「どうかな、ロミちゃん。コスメ工房の機械屋さんとして仲間になってくれないかな?」

「私がヒマリさんと魔女様の仲間に……」


 ロミは驚いたように目を丸くする。陽葵とティナの顔を交互に見つめた後、ぎゅっと拳を握った。


「やります! やらせてください! 私もお二人の役に立ちたいです!」


 交渉成立だ。陽葵とティナは顔を見合わせて微笑む。


「ありがとう! ロミちゃん。一緒に頑張ろうね」

「期待しているぞ」


 二人の言葉で、ロミはルビーのような真っ赤な瞳をキラキラと輝かせる。


「はいっ!」


 こうしてコスメ工房にロミが機械屋として加わることになった。ロミが仲間になったことで、商品ラインナップがますます増える兆しが見えたのだった。


◇◇◇


ここまでお読みいただきありがとうございます。

「続きが気になる」「けしからん尻尾だ」と思っていただけたら、★で応援いただけると嬉しいです!


次回はロミの発明品を使って念願の口紅を開発します!


作品URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330668383101409

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