第12話 化粧品は大好評です!

「じゃあ、さっそくお客さんを呼び込もうか!」

「ああ、それはいいけど、どうやって……」


 ティナに尋ねられたのと同時に、陽葵ひまりは両手を広げながら中央広場で声を張り上げる。


「さあさあ、お肌の不調を感じている方はいませんか? 最近お肌がカサつく、突っ張るなどでお悩みの方は、ぜひこちらのラバンダ化粧水を使ってみてください!」


 通行人が一斉に陽葵を見る。なんだなんだ、と好奇心に満ちた視線を浴びせられた。


「お、おい、急に叫ぶやつがあるか……」


 いきなり注目を集めたことで、ティナは顔を赤くしながら陽葵を窘める。しかし当の本人はまるで恥ずかしさなんて感じていない様子。


「え? 客引きはダメだった?」

「ダメってわけじゃないけど」

「なーんだ、びっくりしたぁ!」


 違反ではないのなら躊躇う必要なんてない。陽葵は呼び込みを続行した。


 初めは遠目から様子を窺っていた通行人だが、次第に興味を持ってこちらに集まってきた。若い女の子からマダムまでさまざまな年代の女性に好奇の視線を向けられる。


「化粧水ってなあに?」

「肌のかさつきって、どうにかできるものなの?」

「この水を顔に付けるってこと?」


 女性達は手書きPOPと陽葵を交互に見ながら質問してくる。そこで陽葵は説明を始めた。


「化粧水はお肌の乾燥を防ぐためのものです! お見受けしたところ、この国のみなさんはお肌が乾燥気味です! 乾燥を放っておくと、ゴワゴワとした手触りになったり、シワが発生したり、かゆみが起こったりするんですよ」


 肌のごわつきやシワには心当たりがあったようで、女性たちは目を細めながら苦々しい表情を浮かべる。


「そういえば最近、シワが目立つようになったような……」

「風の強い季節は肌がゴワゴワになるのよねー……」


 どうやら異世界の女性たちも肌不調は感じているようだった。自覚があるのなら話は早い。陽葵は化粧水と乳液の役割を伝えた。


「乾燥したお肌を助けるのが、こちらの化粧水と乳液です。化粧水で乾いたお肌を水分でひたひたに満たして、乳液の油分で蓋をすれば、あっという間に潤いに満ちたもちもち肌に整いますよ!」


 女性達は陽葵が手に持っている化粧水と乳液を興味深そうに見つめる。


「ひたひた……」

「もちもち……」


 化粧品の概念がない世界であっても、スキンケアをすることで肌がどう変化するかは伝わったようだ。


 そこで陽葵は、手に持っていた小瓶を開ける。


「良かったらお手元で試してみませんか? 実際に使っていただいた方が、分かりやすいと思うので」


 陽葵が促すと、一人の女性が化粧水を手に取る。手元にちょんちょんと液を浸すと、パッと表情が和らいだ。


「あら、いい香り!」


 まずは香りで気に入ってもらえたようだ。

 それから手の甲に付けた化粧水を薄く伸ばす。そこでもう一度、表情が和らいだ。


「手触りが変わった気がするわ。なんだかしっとりしている」


 保湿された感覚も伝わったようだった。そこで陽葵は、乳液も促す。


「化粧水を塗った後は、こちらの乳液で蓋をします。ちょっとお手を失礼」


 説明をしながら、陽葵は女性の手を取って乳液を塗った。

 全体に塗り広げると、女性は感触を確かめるように自らの手に触れる。


「もちっとした感触になっている!」


 感想を漏らすと、周囲にいた女性たちもこぞって化粧水と乳液を試した。


「本当! まるで赤ちゃんのような触り心地」

「ごわごわしてない! いつもと全然違う!」

「これを顔に塗ったらどうなるのかしら」


 手元で試したことで、さらに興味が沸いたようだった。

 そんな中、最初に化粧水を試した女性が財布を取り出す。


「これ、おいくらかしら?」


 さっそく売れそうな気配だ。陽葵は事前にティナと決めていた金額を告げた。


「化粧水と乳液、いずれも銀貨3枚です」

「じゃあ、両方いただくわ」


 女性は銀貨6枚を陽葵に手渡す。陽葵は感激しながら銀貨を受け取った。


「ありがとうございますっ!」


 化粧品と乳液を差し出す際に、陽葵は小さな紙も一緒に手渡した。


「こちらはご使用上の注意です。使い方や保管方法など書かれているので、使い始める前に読んでくださいね」


 実は商品と一緒に、取扱説明書も用意していた。化粧品の概念がない世界では、使い方や保管方法もレクチャーする必要があったからだ。


「この紙の通りに使えばいいのね。ありがとう」


 女性はにっこり笑顔を浮かべながら、商品と取扱説明書を受け取る。その笑顔を見た途端、心の中がほわっと温かくなった。


「はい! こちらこそ、ありがとうございます!」


 嬉しさのあまり、元気よく感謝の言葉を伝えた。

 ひとつ売れたことを皮切りに、周囲にいた女性たちも一斉に財布を取り出した。


「私にも貰えるかしら」

「こっちにも化粧水と乳液をひとつずつ」

「私にもお願いします!」


 こんなにすぐに興味を持ってもらえるとは思わなかった。これは想像以上の成果だ。


 隣で傍観していたティナも驚いたように目を丸くしている。呆然とするティナに、陽葵はパチンとウインクをした。


「ティナちゃん、大成功だね!」


 化粧品が売れるようになれば、ティナの貧困生活も脱出できる。リピーターが付けば、おのずと売上が伸びるだろう。


「お前……凄いんだな……」


 ティナは感心したように陽葵をまじまじと見つめていた。

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