第5話 高校入試2
高校入試は9時30分から始まる予定で、その40分前に着くように電車の時間なども考慮して、7時に起床した。習慣にしているわけではないが、なんとなく今日は朝一番に日の光を浴びたい気分だったので起床後すぐにカーテンを開けると、そこには雲一つない晴天が広がっていた。まあ、陸上と違って自分の実力が天候に左右されることはないので快晴だろうと雨だろうと入試には全く関係ないが…
ゆっくり準備をしている時間はなかったので朝ご飯はオーブントースターに入れて焼いた食パンの上にフライパンで焼いた目玉焼きとベーコンを載せた、時短で作れる目玉焼きトーストを頬張り、受験会場に持っていくお弁当はレンジで温めたイトウのご飯と昨日の夕飯のおかずの残りを敷き詰めた簡易的なものにした
家からチャリを漕ぐこと10分、最寄りの駅に到着して東京方面の電車に乗り、東京駅で降りて京葉線に乗り換えた。車内は自分と同じ臨海東高校を受験する生徒たちで溢れていた。ほぼ満員電車の状態にも関わらず、自分の前に単語帳を出して入試までの一分一秒を無駄にしないように真剣な顔で最後の確認をしている受験生たちを見るに、改めて臨海東高校のレベルの高さが窺えた
しかし、6か月前まで偏差値45だったのにも関わらず、その光景を俯瞰して感心できる程には自分の中に謎の自信があった
浦野浜駅から歩くこと20分。臨海東高校に到着し、受験票に記載された教室に向かった
教室に入ると既に半数以上の席が埋まっており、各々が最後の復習に向けてノートや単語帳を見返していた。席に着くこと数十分、スマホの電源を切ってカバンの中にしまい、アナログの腕時計を腕に着け、筆箱から必要最低限の筆記用具を取り出して受験票と共に机の上に出し、間もなく始まる1時間目の国語の試験に向けて心の準備をしていた
キーンコーンカーンコーンと一秒の狂いもなく定められたチャイムが鳴り、俺の高校入試は幕を開けた
午前中の3科目(国語、数学、理科)の受験を終え、昼休みに突入した。どの科目も80点を超える答案が書けた確信があるので、午後の科目も安心して受けられそうだと胸をなでおろした。
昼食を食べ終え、次の社会に向けて一問一答を復習していた時にちょっとした事件が起きた。先ほどから斜め前に座っている男子生徒が音を出しながら最新のゲーム機で格闘ゲームをやりだしたのだ。偏差値の高い高校には常識外れの人間も一定数いるのは知っている。その程度で集中力が切れることはないので俺は無視していたのだが、それに耐えかねたギャルっぽい見た目をした女子生徒が席を立ち男子生徒の前に立ち、拳をドンっと机に響かせた
「…あんた、ここが何の場所か分かってるの?」
怒気を潜ませるような声で注意するも、何事もなかったかのように男子生徒はゲームをやり続ける。その後も普通の人なら恐怖のあまりおののいてしまうような殺意のこもった声で「なあ」と強迫するも男子生徒は一切反応せず、いくら注意しても反応しないことにキレた女子生徒は男子生徒の胸ぐらを掴み
「いい加減にしろよ!!受験会場でゲームしてるようなやつがいていい場所じゃねえんだよっ!お前周りの迷惑考えてんのか?今日のために今まで必死に頑張ってきた受験生たちがお前のゲームの雑音のせいで気が散って本領発揮できなくなったら責任とれんのかよ?なあ?お前みたいに入試本番の日ですらゲームを我慢できない人間は底辺のチンパンジー高校にでも行っとけッ!」
と言って、掴んでいた胸ぐらを乱暴に離し、ゲームの音が止まった
手荒な真似をしたとはいえ、常識に従うとするなら彼女の言い分は最もだ。試験会場にゲームを持ち込むこと自体ありえない。受験に真摯に臨む態度としてはふさわしくないが
「はあ… お前さあ、この学校の受験の注意書きよく読んだか?ゲーム持ち込み禁止って本当に書いてあったか?」
「はあ?そんなの当たり前じゃない。書いてなくても持ってこないのが普通でしょ?あんた何考えてんの?ばっかじゃないの」
「やっぱり書いてないじゃん。ていうかお前さっきみんなの邪魔をしてるって言ったけど、今休み時間だよ?」
「いや、入試本番の休み時間にゲームするのがおかしいって言ってんのっ!あんた受かる気ないでしょ、あんたみたいな落ちこぼれはどう頑張ったて受からないんだから早く帰りなw 」
「あっそ」
「チッ!!」
そっけなくあしらわれた彼女は再びキレて男子生徒の元に向かって、顔を思い切りビンタしようとしたが彼の手によって止めらた。手首を強く握られたことによって彼女の先ほどまでの威勢の良さは消えて、その顔は段々と恐怖に変わっていった
「だから常識と自由をはき違えた馬鹿は嫌いなんだよ… 俺にこの学校が相応しくないといったが、お前の方がよっぽどいらない人間だぞ。常識を疑うこともせず、自分のだっさい正義感に酔いしれて何も考えない視野の狭い人間が、俺らの自由を邪魔するって言ってんだよッ!!俺の実力を知らないくせに感情論に任せて落ちこぼれだの雑魚だの言われもない誹謗中傷をして暴力まで振るってきたお前の方が馬鹿だ。いいのか?これを報告すれば今すぐお前は退出することになるんだぞ?一番焦ってるのはお前なんじゃないか?w ほら、周り見てみろ。誰も俺たちのことなんか気にしてないぞ」
「っ!!」
何も言えなくなった彼女は黙って自席へと戻っていった
学生史上、この日が最もカオスな昼休みだったかもしれない。
その後は何事もなく試験が進み、5時間目の英語の試験が終わって受験の全日程が終了した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます