第4話 自分という存在 始まる高校入試
それから何事もなく中学生最後の夏休みが終わり、2学期を迎えた
始業時刻10分前くらいに教室に入ると、一部のクラスメイトが俺の方を指さして何やらコソコソと笑い話をしていた。県大会でボロ負けした上に、全国大会の出場資格があったのにも関わらず、出場することから逃げた俺を笑っているのだろう。俺のことが嫌いな癖によくそこまで調べてくれたものだと逆に感心する
まあ、世の中に人の失態や悪口ほど、話の種になるものはないからなと自分の中で納得してそれ以降は特に気に留めることはなかった
部活を辞めた俺にとっての学校は、午前中から退屈な授業を受けて、給食を食べて、また午後に授業を受けて、部活棟へ行かずに昇降口に向かい、帰ったらまた受験勉強という何の面白みもない灰色の毎日だった
2月後半に高校受験を控えた中学生にとっては当たり前の毎日なのかもしれない。でも彼らは志望先の高校に行ってやりたいことが山ほどあるから、勉強漬けの日々に虚無感を感じながらも努力できるのだろう。
それに比べて自分は…
「2000mジョグ行きまーす」
放課後の校庭では後輩と一部の3年生が冬の県駅伝に向けて練習している。この期に及んで何を考えてるんだと言いたくなるが、自分がメンバーに入っていれば、その先の関東駅伝出場に大いに拍車がかかったのは間違いない。でもそんな自分がいなくなろうと変わらず練習は続き、地球は回っている
世界を構成する無数の歯車から自分のパーツが欠けても何も問題がないというように…
常にベストタイム、ランキングに囚われて苦痛になっていった陸上から完全に離れることが出来たはずなのに、なぜあの時よりも充実感を感じられなくなっているのだろう
これじゃあまるで…
気づきたくないことに気づかないふりをし続けるのも精神を摩耗させるようだ
校舎までの一直線の道を朱色に染め上げていた木々はいつの間にかその輝きを失い、不確かな未来に向かうようにその芽を当てもなくどこか遠くに向けて伸ばしていくのだった
それからも退屈な毎日が変わることはなかったが、曲がりなりにも勉強を続けた成果が出て、県内模試の偏差値は45から65に向上した。特に行きたい高校があるわけではないが純粋に学力が上がるのは嬉しかった
そして高校入試本番の日を迎えた。悩みに悩んだ結果、自分の志望校は臨海東高校に決めた。ここは文字通り、海が近くにある学校で教室から海が見える珍しい学校だ。海を一望できる屋上は校内でも人気スポットとなっており、あまりの人気から昼休みに利用するには予約が必要になったという
生徒の自主性を重んじる学校であり、法律上の違法行為をしない限りは口出しされることなく、校則はほぼないに等しい。それだけの自由を保障される実績があり、毎年多数の難関大学合格者を輩出しているほか、夏休みには大規模な留学活動を行っており、またSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されている。
最寄りの駅から高校まで徒歩20分で若干交通の便の悪さを感じるが、それを上回るほどに好条件が整った高校であり、倍率は1.8~2.1倍と公立高校の割には高い倍率である。偏差値は67だ
しかし、自分がこの高校を選んだ理由は陸上部が存在せず、自分を知る人間が少なそうな遠い場所にあるけどギリ通える範囲の高校に行きたかったからという単純なものだった
ここ以外に自分の条件にマッチする高校を探しても見つからなかったため、落ちたら終わりの一本勝負ということになるが、絶対に落ちないだけの自信がなぜか自分の中にあった
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