ハングオーバークエスト!外伝〜魔王サイドストーリーズ〜

トガクシ シノブ

第1話~おてんば姫と魔王城の愉快な仲間たち~

勇者ハングオーバーマンが消えた装備と仲間たちの行方を探している頃、ここ魔王城では、魔王ワルヨイ・カラムが勇者一行がやって来るのをずっと心待ちにしていた。その彼の勇者ハング・オーバーマンに対する想いは爆発寸前だった。


魔王ワルヨイ・カラム

13代目魔王にして歴代魔王最強の実力の持ち主。

その圧倒的な魔力と魔王の証である魔剣「冥帝剣(めいていけん)」から繰り出される剣技により、数多くの勇者とその仲間たちを葬り去ってきた。

昔から自分の名前が嫌いらしく、配下たちには自分のことを「魔王さま」と呼ぶよう徹底している。


〈魔王の間〉


「フ・フ・フ・フ・フ、フハハッ、…フハハハハハハ!フハ~ッハッハッハッハ~~~~~!!!」


「魔王さま、急に笑い出してどうしたんですか?キモいですよホントに。引くわ~」


魔王が急に笑いだしたことに対し、配下のビシューが、辛辣な言葉を投げかける。


ビシュー・クランクラ

魔王軍四天王の1人であるハーフサキュバスの少女。

昔人間の奴隷だった頃、当時ある目的のため旅をしていて、たまたま偶然通りかかった魔王の手により救われた。そして恩義を感じた彼女は、そのまま彼の旅に同行した。この旅でさまざまな出会いと別れを経験し今に至る。

愛らしい容赦であるが、かなりの毒舌家であり、特に魔王は彼女の言葉のナイフにより心を切り裂かれることが多い。


「キモいって言うな~!なぁビシュー、最近ホントに口が悪過ぎじゃあないか~?出会った頃は素直で可愛いかったのに……」


「事実を言ったまでです。…あとその言い方だと『今は可愛いくない』ってことですか?…あの『人間の姫』のことばかり特別扱いして、ワタシのことなんてちっとも…死ね(ボソッ)」


「おいおい、いいかビシュー!ラーム姫は人質とはいえ、あの聖シュゴール王国の姫なんだぞ~。大国の姫に対し失礼のないよう、特別待遇にすることは至極当たり前のことなんだ…前にもちゃんと説明したじゃないか」


「ほんと~にそれだけですかね?このロリコン魔王…」


「ロリコン魔王って…なぁビシュー、お前もしかして、…ヤキモチを焼いて……」


「~~~ッッッ!!!」


魔王の発言を遮るように、顔を真っ赤にしたビシューは、強烈な氷魔法を彼に向けて放った。


「ぐ、ぐはあああああッ!な、何をするんだビシュー!痛いじゃないかぁ~!!…あーあー、壁がまた壊れてしまったではないか…高いんだぞ~修理代……」


「うるさい…だまれ。このドンカン魔王…」


「おーおー!今日も朝から仲がいいじゃあねぇーかぁっ!なぁ魔王のダンナとビシューちゃんよ~~~!こりゃまるで『本当の親子』みたいだな!!」


「魔王どの、グッドモーニングでござる。…そのご様子……またビシューどのと何かトラブルでも?その、…本当に懲りないお方ですなアナタは…やれやれ」


魔王軍四天王であり、魔王城で魔王に次ぐ実力者である鬼族の兄弟、シュランとシュゴウが魔王の間にやって来た。


シュラン・シュテンドウ

魔王の側近で、鬼族の暴れん坊。

ケンカと酒と女と博打が大好きで、酔うと大暴れするが、根はとても優しい性格の持ち主。「鏖我(おうが)」という名の頑丈な鉄甲を扱い、その圧倒的な豪腕であらゆる物を砕き破壊する拳技・破腕鬼砕壊(はわんきさいかい)の使い手である。また魔王城随一の拳術の達人でもある。


シュゴウ・シュテンドウ

魔王の側近で、シュランの弟。

兄と違い酒に強く酒癖も悪くない、また口数がなく、とても冷静な性格の持ち主。「斬鬼(ざんき)」という名の鋭い切れ味を持つ太刀を扱い、その凄まじい斬撃により万物を両断する剣技・万凄鬼斬断(ばんせいきざんだん)の使い手である。また魔王城随一の剣術の達人でもある。


「本当の親子みたい?シュラン、撤回して。ワタシたちは、別にそんなんじゃないから…そう、ワタシたちは、もっともっと『深くて特別な固い愛の関係』…♡、そして近い未来、強く引かれあったふたりは、互いのカラダを激しく求め合い!そしてそして…、『新たな命』がワタシの中に……きゃあ~~~~~!!!…ってなに言わせんのよ、…このバカ鬼」


「おいビシュー!誤解を招くような発言はよせっ!!」


「ビシューどの!兄者を『バカ鬼』呼ばわりするなんて聞き捨てなりませんぞぉっ!確かに兄者は喧嘩っ早いし、酒グセも悪いし女グセも最悪でござる!しかも弱いクセに、博打も大好きと来たもんだぁ!でも決してバカ鬼ではありませぬ!そう『特別なバカ鬼』!『選ばれし大バカ鬼』なんですぞ!くれぐれも勘違いしないで頂きたい!!」


「そうだそうだ~!…って結局バカ鬼じゃあねぇ~か~~~!シュゴウ、テメー!コノヤロ-!!」


怒ったシュランの剛拳が、シュゴウに容赦なく炸裂した。


〈どごーーーん!!!〉


「ぐ、ぐはあぁあああああああッ!!!」


シュゴウは壁に激突すると、そのまま気絶した。


「ったく弟のくせに舐めやがってよー!」


「あ、あ~~~!!!また、また壁が~!城が、ワガハイの城が、このままでは勇者が来る前にボロボロになってしまう~~~!!」


「シュラン、シュゴウ、いい大人なんだから仲良くしなさいよ…ホント子供ね……」


「もうさっきから何事ですか!!!……あー、これはまた、…随分と派手にやりましたね~。はぁ~、わたくしの仕事をこれ以上増やさないで頂けませんか?皆様方……」


魔王軍四天王最後の一人、ブランソワーズが慌てた様子でやって来る。


ブランソワーズ・デーキン

真紅の仮面と鎧に身を包んだ魔界の名家出身の超エリート魔剣士。

魔剣「ブランディング」の使い手であり、実力も相当高い。また新参者であるにも関わらず、その強さと色々な部分が評価され魔王四天王の地位を与えられた。

プライドが高く自分の実力を過信し過ぎる傾向にあるが、性格はとても真面目で優しく、ワガママな姫の面倒もよく見ている。また家庭的な一面もあり、料理や裁縫や家事全般が得意である。

実は魔王城のメイドとして、城内のありとあらゆる業務もこなしている。この事実は魔王と他の四天王たちにしか知らされておらず、本人も他の城内の者たちには内緒にしている。もちろん姫にも…。


「おー、ブランソワーズも来たか!それでは四天王の諸君、今日も元気よく朝の挨拶から始めるとしよう!!」


「えええ…こんな状況で、ですか?……ってシュゴウさん大丈夫ですか〜〜〜!?」


ブランソワーズは慌てて気絶しているシュゴウの元へ駆け寄ると、回復魔法を唱え始める…がっ!しかし……


「おーおー!ブラン姉ちゃんよ〜。ウチの弟をそ〜甘やかしてくれんなよ〜。いいか〜?こういう時は、こう〜『優しく』だなっ!ぶん殴って目〜覚ましてやるのがよ〜『鬼流』だぜええええええッ!」


そう叫ぶとシュランは、気絶中のシュゴウをさらに力強くよくぶん殴った。シュゴウの身体はまた勢いよく吹き飛ぶと壁に激突した。


〈どかーーーん!!!〉


「きゃーーーー!!『優しく』って、全然優しくないじゃないですか〜!もう!シュゴウさんが死んじゃいますよ!!」


「わ〜!おいコラ!シュゴウいい加減にしろ!ワガハイの城をこれ以上壊すことは許さんぞ!!」


「そうよ、魔王様の言う通りよ。ただでさえ『絶賛老朽化』が進んでいるオンボロ城なのに…そんな城を壊す気なの?バカなの?この暴力バカ鬼……」


「おいおい、お前ら少しはシュゴウのことも心配してやれよ〜なんかよ〜、これじゃあコイツがあまりにも可哀想じゃあ〜ねえか〜〜〜」


「なっ!?も、もちろんシュゴウのこともワガハイは心配だぞおっ!?」


「シュランさん!あなたが言えたセリフじゃありませんよ〜!!もう〜なんなんですか〜!?無茶苦茶過ぎですよさっきから!!」


「いつものことじゃない、いい加減にそろそろ慣れなさいよ。この…あ、あー、あのね…え、え〜とその……ブラン…お姉ちゃん」


「う・う・う、身体中がもの凄く痛いでござる…そうか、せっしゃは…兄者にぶん殴ぐられて……」


「よかった!シュゴウさん、意識を無事に取り戻されたようですね!!」


「なっ?シュゴウはよ〜、これぐらいやって丁度いい……ぐはあっ!!」


突然シュランは身体から血を吹き出すと、その場に膝をついた。見ると胸からは大量の血が流れており、そこには斬撃による大きな傷が刻み込まれていた。


「兄者、少し『おいた』が過ぎたようでござるな。……お覚悟ッ!!」


「おーおーそう来るか〜、随分と〜『反抗的な弟』だなぁ〜おい、なぁシュゴウ〜…上等だあぜえええええッ!!叩き潰してやるぞシュゴウォオオオオオオオっ!!!」


二人は周囲のあらゆる物を破壊しながら激しく衝突した。


「わーわー!お二人とも落ちついてください〜〜〜!魔王様!早く二人を止めないと!!」


「そ、そうだな!このままでは、ワガハイの配下と命の次に大切な城があっ!おい二人ともゴフウウウッ!落ち、落ちついてガハアアアアッ!頼むから、頼むから争うのはやめて…ぎゃあアアアアアアッ!……ええーいっ!ひれ伏せぇい!!この愚か者どもめぇええええええええッ!!!」


怒った魔王は、腰の冥帝剣を引き抜くと、二人を素早く斬りつける。


〈ズバッ!ザシュッ!!〉


「があっ!」


「ぐううっ!?」


魔王の鋭い一撃を受けた二人は瞬時に冷静になると、争うことをやめた。


「ったく!あまりワガハイに手荒いことをさせないでくれ。大切な配下を傷つけるようなことはしたくないのだ…少しは頭は冷えたか?」


「あー、すまね〜なあっ!魔王のダンナ、どーも昔から頭に血-昇るとよ…ホント駄目なんだ。シュゴウもぶん殴って悪かったな!!」


「魔王どの、かたじけない。…兄者、せっしゃも殺意マシマシでぶった斬ってしまい、本当に申し訳なかったでござる…その、胸のキズは痛むでござるか?」


「あー気にすんなって!こんなキズ、唾でも付けときゃ治るってもんだあ〜。ところでよ、お前もその…俺さまに殴られたとこよ、痛まねーか?」


「…これも兄者からの『愛』だと思えば、全然へっちゃらでござるよ…っ!!」


「す、すごい…っ!あの恐ろしく強いお二人を瞬時に無力化しただけでなく『兄弟のアツい絆』まで再確認させるなんて…流石ですよ。流石です!魔王ワルヨイ・カラム様あっ!!」


「あああ…っ、カ、カッコいい…!ワルヨイしゃま……ステキ過ぎます~♡(うっとり)」


「…さーてと!『魔王の威厳』もバッチリ保てたところで、気を取り直して朝の挨拶と行くか!みんなおはよう〜!!早速だが今日の予定を発表する。え〜と、特になし!強いて言うならば、姫の監視だけだ!ビシュー、姫はおとなしく部屋にいるか?」


「はい、先程お部屋を覗いた時はぐっすりと眠っていました。…人質のクセに、ほんと呑気なもんね」


「うん!ほんと〜にノンキでゲンキなことがトリエだもんね〜ワタシ!ヒトジチせーかつもほんとラクじゃないわ〜!ねえっ!みんな〜!きょーはナ〜ニ〜してあそぶう〜!!」


「コラコラ!ラーム姫、ワガハイは何度もおとなしく部屋にいろと……って!なんで、…なんでおとなしく部屋にいないの!?ってかなんでここにいるわけ?厳重に鍵を掛けたよな?ちゃんと掛けたよな〜?ビシュー…」


「あっ、……掛けましたよ。しっかりと…多分」


「『多分』ってなんだよぉ!多分じゃダメだろ〜!それ絶対に忘れてるやつじゃないか〜!!」


「えへへ~♪カギかかってなくても、だっしゅつなんてよゆうだよ~」


ラーム・シュゴール

聖シュゴール王国のイタズラが大好きなおてんば姫。

現在魔王にさらわれ絶賛人質生活(ライフ)を満喫中。しかし囚われの身でありながら、魔王城内を自由に徘徊してはイタズラを敢行し、魔王たちを困らせている。その被害の多さから場内では、「災害姫」や「おてんばディザスター」とも呼ばれ恐れられている。

身体能力が高いだけでなく秘められた能力も有しており、魔王城のメイドたちの間で流行っている「メイド☆チャンバラ」でも、その才能を遺憾なく発揮している。


「きゃははっ☆きょーもおソラがきーれーいーでっ!くーきもおいし〜かったのお〜!!」


「ラーム姫、さあ部屋に帰るわよ…まったく毎度毎度脱走ばかりして、城のみんなを平気で困らせる…。これだから世間知らずでワガママな人間の姫は……」


「いや、今回はお前が鍵を掛け忘れたせいだろ……」


「……そうやってまた、人間の姫の味方をするのね…バカ……ぐすん」


涙目になったビシューが、ラーム姫を部屋に連行しようと近づくと、彼女はそれを激しく拒否する。


「えー、ヤダヤダヤダヤ〜ダ〜〜〜っ!みんなといっしょにいたいの〜!タイクツなのはイーヤーーーっ!!」


「わかった!わかったから!頼むからそんなに大声で叫ぶのはやめてくれ…。おーい!誰か今から姫の遊び相手になってくれないか?」


「せっしゃは嫌でござる…」


「えーっとわたくしは〜、本日メイドの業務が忙しいので…その、はい…すみません」


「ガハハハハッ!俺さまは今から酒飲んだりするからよ〜うん!超忙しい!パスだなぁっ!オイッ!!」


「ワタシも…イヤよ」


「お前たち、ちょっと姫に冷た過ぎじゃあないかあっ!?」


「なによ!ワタシたち四天王だけじゃなくて、たまには他の『ボス』たちにも頼めばいいじゃない…このパワハラ魔王」


「それが出来ないから困っているんだ!お前たちの知っての通り、姫が悪さし過ぎたせいでな〜各階のボスたちからのクレームが凄いんだ!魔王の特権を使って、無理に色々とやってやれんことも無いが、そうなるとだな、その…、ボス達のワガハイに対しての『忠誠心』というモノが、だな……揺らいでしまうんだよその、…うん」


「はぁ?『忠誠心』ですって?彼らにそんなモノが、果たして残っているのかしら?…ワタシたちですらもう怪しいのに……無能魔王、はぁ…昔は今以上にカッコよかったのにな(ボソッ)」


「ガッハッハッハッハ!ま〜でもよ〜、毎日大賑わいで俺さまは楽しいけどな〜〜〜!!」


ここ魔王城は1階から13階までのフロアがあり、魔王の間を除きそれぞれに『試練』を冠した名前が与えられている。そしてその各フロアにはボスが配置されている。

各フロア共通で、普段生活するのに適した環境となっているが、各フロアにある「緊急事態スイッチ」を押すことで、様々な仕掛けや魔法が発動する『対侵入者殲滅』に特化した環境へと変化する。

ただ難点として、このスイッチを一度押してしまうと、まる1日元の環境には戻せない。そしてラーム姫は、このスイッチを押す常習犯なのである。その結果、現在魔王城内では、まる1日外で過ごす羽目なる者や起動した仕掛けや魔法で負傷する者が続出中なのである。


「笑いごとじゃないぞシュラン!昨日も2階の漆侍(しつじ)の試練と3階の冥怒(めいど)の試練のボスたちからクレームが来たんだぞ〜!!このままで本当に、本当に不味いことに……いや、もうなってしまっている!アイタタタ、ストレスで頭痛と腹痛がひどいな、嗚呼…、目眩や吐き気もする…ワガハイ、さらう姫を間違えたかな?」


「あはは、今さら後悔しても遅いですよ魔王さま…でもシュランさんのおっしゃる通り、前よりも城内がとても賑やかで楽しくなったことは、間違いないと思いますわよ♪」


「ブランソワーズまで、…そんな呑気なことも言っていられんぞまったく…」


「ねえねえ、…じゃあシュゴウがあそんでよー!あそんでくれないなら、今からシュゴウのおへやにある『たいせつなコレクション』にいたずらしちゃうよ~♪ついでにスイッチもおしちゃうよぉー--っ!!」


そう叫ぶと姫は走ってその場から一瞬で姿を消してしまった。


「だ…そうよシュゴウ?行かなくていいのかしら?大切なコレクション、多分ぜんぶ破壊されるわよ…あとスイッチまで押されて、ホント御愁傷様ね」


「……!?………ウウウ、あの…、人間の小娘めえぇえええええエエエエエイッ!待てぇえええエエエイッ!!拙者の大切な、大切なコレクションには…、指いっぽんも触れさせんでごさるぞぉおおおおオオオオオッ!!!!!」


怒り狂ったシュゴウは、姫を追い走り去っていった。


「あああ…、普段冷静なシュゴウさんが、キャラ崩壊して大変なことに……」


「おう!俺さまの時よりキレちまってるな~ありゃあ。ガッハッハ~!おいシュゴウ~姫の相手をよろしくな~」


「ずいぶん他人事のように言うのね…アンタも行かなくていいのかしらシュラン?姫…、部屋のスイッチ押すわよ?今日はアンタたち兄弟、二人仲良く外で寝る羽目になるわね。…御愁傷様」


「…お~そうだった!弟と俺さまは『部屋が共同』だったことを忘れていたぜぇいっ!待て待てぇ~い!部屋のスイッチだけは、何が何でも死守しねぇ~とな!!ガッハッハッハ~~~~~ッ!!!」


シュゴウはそう言うと、呑気に酒飲みながら2人を追ってその場を去る。


「…それではわたくしも、そろそろメイドの業務の方に入りますので。あっ!魔王の間の壁の修理も、仕事が片付き次第、必ずやりますのでどうかご安心を!では失礼します」


ブランソワーズもいなくなると、その場に魔王とビシューだけが残った。


「あーもう!早く、…早く来てくれ!勇者ハング・オーバ-マン!いったい、いったい何処で油を売っているというのだぁあああ!!あああ!酒だあっ!酒を…ってワガハイの大切にしてる酒の『魔王殺し』も最近何者かに盗まれるし、本当に最悪だぁ…はあ…もうヤダ……イヤになってしまう」


「……違うお酒を用意するわ魔王さま」


「いつもすまんな…ビシュー、じゃあワガハイ寝室にいるから、あとで持って来てくれ…はい、かいさーん」


そう力なく言うと、魔王はフラフラとしながら寝室ヘ向かって歩き出した。


「ホント…ワタシがいないとダメダメ何だから、………ワルヨイさま、ビシューは、このまま平和に暮らしたいです。もし願いが叶うなら、人間の姫も、…ラーム姫もいっしょに、みんなで末長く仲良く楽しく……無理なのでしょうか?勇者と殺し合うしか、ワタシたちに道はないのですか?そんなの…そんなのって……」


「ビシュー、すまん~!やっぱりちょっとメンタル的にヤバいから、少しの間で構わん!ワガハイの側にいてくれないかぁ~!!」


寝室から弱々しい魔王の声が聞こえた。


「…フフ、…喜んで。この身もこの命も、すべて貴方さまだけのモノ……まったく情けないですね!それでも『歴代最強の魔王』なんですかぁ~!?あー情けない、情けないわねホント~に!!」


ビシューは嬉しそうにそう言うと、魔王の元へと向かった。(つづく)














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