「融空」

 職場から見える空は未だ明るい。しかし俺の心は暗い。

 何度も、そして同じミスをしでかしてしまう今日だからだ。所詮会社員は会社員、初対面の優しかった彼らも今は冷たい、不親切なコンピュータである。

 最近思うには、このキーボードを打つ事で、俺は世界の明暗を進めているのではないかというものだ。こう、叩き続けていると確かに空は暗く転じていくだろう。

 そんな妄想も機械の不作動に阻まれ、猫の様にコンピュータ、パソコンの体を診てやらねばならなくなった。

 一つの付箋が机から落ちた。漫画の様だが、本当に俺はこうしないと仕事を忘れる。

 内容は「妻との食事」と書いてあった。

 名簿の無駄であり得るチェックや、上司の叱責は毎日達成しているが、家庭までは手を回せていなかった。

 今すぐ帰りたかったが、無機質で、どこか校舎の部活の部屋の様なここは俺を許さなかった。後輩が如く俺を囲む部屋の東に映る空は、融けてここからあそこまで、水色の川となっていた。妻へと合流していけそうな空だ。

 

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