第5話 定休日。
休日である。
とは言え、俺は店に住み込みだ。
ただ夜厨房に立たなくていいというだけにすぎず、休みの一日はだいたい、店の奥の居住スペースでスマホを見て終わる。
「そろそろ外に行かなくては……」
今日は、さすがにそう思った。
俺が魔女に店をあてがわれてから、思えばパスタしか提供していない。
なぜか。
この世界には、パスタしかないからである。
「……米があればなあ」
いくら嘆いても、この世界に米はない。
あるのはパスタかパンのみだ。
ただ、魔女は毎食パスタでも問題はないようで、手抜きだとか飽きたとか、そういう不興を買うことがないのは不幸中の幸いである。
「あ……そうだ、そろそろかな」
俺は離れに出向き、白い立方体の蓋を開ける。
それは、俺が開発した「異世界ボックス」とも呼ぶべき代物だ。
欲しいものを紙に書いて一ヶ月経つと、俺にとっての現実世界にある食材が中に転送されるのだ。
もともとは、米が食いたすぎて開発したのだが……。
「米」と書いて一ヶ月、蓋を開けてみると米が一粒入っているだけだった。
俺は発狂しそうになった。
「米五キロ」と書いたり「米俵」と書いてみたが、無駄だった。
シャウエッセンとかは普通に転送されてくるのに。
「今月は……なに頼んだっけな」
蓋を開けると、調味料やハム、卵、チーズなどが入っていた。
「……やっぱり、五個までか」
リストの後半――味噌やマイタケなどは転送されて来なかった。
……もしかしたら、もっと細かい条件があるのかもしない。
改良すれば、米の転移も可能になるのかもしれない。
だが、ここ最近はそんな気分にもなれない。
ただスマホを見て、パンを囓り、適当に料理を作り、一日を潰すだけだ。
「まあ、そんな頑張ってもなあ……」
俺は食材を取り出し、今月と同じ食材を紙に書いて入れる。
ほどほどでいい。
なにかを改善する必要も、やる気を出す必要も、俺にはもう感じられなかった。
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