第6話 極ツナパスタ。
「オクムラ、日替わり!」
今日は上機嫌に、魔女が入ってきた。
「はいよ」
本来の飲食店なら、なじみ客に「なにか良いことでもありましたか?」と訊くのが筋だろうが、俺は余計なことをせずフライパンに火をつける。
「どうぞ」
業務用ウィスキーと炭酸水を割り、氷を入れてどん、と提供する。
今日のおつまみはカルパスだ。
「しょっぱーい。…………ぷはっ、おいしーい!」
機嫌の良いまま、魔女がジョッキを空ける。
今日はいつもよりペースが早い。
俺は二杯目を提供し、フライパンに油を敷いた。
「調理を始めますよ」と一言注意し、魔女が目深にウィッチハットを被ったところで、タマネギとニンニクを切る。
バターを入れ、タマネギ、ニンニクを炒めていく。
「すでに、美味しそうな、匂いがー!」
鼻歌……というよりオペラのような調子で、魔女が歌い始める。
機嫌のいいことは良いことだ。
きっとこの“街”の人々もほっとしているだろう。
飴色直前まで炒め、とろ火にして水を投入。
そのまま、シーチキンを投入する。
続いてさらに水を入れ、塩昆布を入れる。
後は同じフライパンでゆで汁がなくなるまでパスタを茹でて、完成だ。
「お待たせしました。極ツナパスタです」
俺は三杯目のハイボールを提供しつつ、その大皿を出した。
「……美味しそう!」
帽子のつばから目を出した魔女は、ぱん、と手を叩いてうっとりしている。
クリーミーなツナソースを絡め、パスタを口に運んでいく。
「おいしい……おいしい……」
あとは無我夢中で食べている。
子猫が餌をがつがつ食べながら「みゃおみゃお」と鳴く動画を、俺はなんとなく思い出した。
あっという間に、魔女は完食した。
「……食べ終わっちゃった」
実に哀しそうである。
「おかわりしますか?」
「うーーーん……今日はがまんする。
ほら、飽きちゃったら悲しいし」
その何気ない台詞に、ぎくり、と俺は刺されたような気分になる。
……飽きる。
俺の料理に飽きる……。
そうだ、もちろんその日はいつか来る。パスタばかり作っているんだ、いつそうなってもおかしくはない。
そして、その時こそが、俺の……。
「オクムラ、それよりおつまみちょーだい!」
無邪気にそう請う魔女に、俺は引きつった笑みを返すしかなかった。
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