第4話 昭和風ナポリタン


「オクムラ、日替わりで」


 今日の少女は思案深げである。


「はいよ」


 こういうとき、アルコールを出さないべきだろうか。

 いや、いつも通りの味、いつも通りの接客を求めて人は飲食店に通うのだ。

 

「お待ちどお」


 ハイボールのジョッキと、キュウリと味噌を出す。


「うん…………」


 ぽりぽりときゅうりと味噌をつけて食べる。


「んー…………」


 味が微妙なのか、とヒヤヒヤするが、そうではないようだ。


 よほどの難題を抱えていると見える。

 連日の話となにか関連があるのだろうか。


「ふむ……」


 俺はまたしてもタブレットをミュートにし、フライパンに火をつける。

 今日は……そうだ、あれにしよう。


 ニンニクを炒め、タマネギとウィンナーを投入。

 そこに水を張り、パスタを加える。ケチャップもこのとき、分量通り入れる。


「~♪」


 鼻歌が聞こえてきた。

 眉間に皺は寄っているが、無意識のうちに料理に期待を寄せているのだろう。


「さて……」


 今日はVtuberのアーカイブを消化しよう。

 ナポリタンなら、作り方は知っている。


「うーん……」


 鼻歌の途中でまだ唸っている。

 こうしていると、恋に悩む少女などに見えなくもない。

 もちろん、配信アーカイブを見ながらもグラスの交換は忘れない。


「仕方がない……」


 なるべく労力を割きたくないのだが、ここで媚びを売っておくのも良いだろう。

 魔女の悩みは、この俺の一生を左右すると言っても過言ではない。


「ほうれん草の胡麻和えです」


「ん」


 ぐびぐびとハイボールを飲み、少女は胡麻和えをフォークで刺す。


「……んまい。噛むと口の中で面白い匂いがする」


 風味と言います、と教えてもよいものか悩んで、やめた。

 余計なことはすまい。


「噛むとおいしい……ほうれん草だけどほうれん草の力じゃない……」


 なにやらヒントを得たようだが、やはり俺には関係のない話だ。


「ナポリタンです」


 皿に盛り付け、提供する。


「…………ふふ」


 思わず口を綻ばせる少女を見て、微笑ましい気持ちになったが。


「おっと」


 粉チーズを振りかけてやるのを忘れていた。

 山盛りにしてやる。


「もういいの?」


「いいですよ」


「わあい」


 難しい顔が一転して幸せそうな顔になる。

 俺は改めて、料理のすごさを思い知ったのだった。

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