第2話 ミルクパスタ

「オクムラ、日替わりで」


 魔法少女は指をパチンと鳴らした。

 

「あいよ」


 どうやら機嫌が良いようだ、と俺は察する。

 

 とは言ってもいつも通り、やることをやるだけだ。


「……はぁっ」


 ハイボールを飲み干し、少女はグラスをまじまじと見つめる。


「なんか、すっぱーい」


「レモンハイボールです」


「ふうん……」


 お気に召さない……わけでもないようで、納得する少女。

 まあ、どんなものを出しても「まずい」と言われたことはない。好き嫌いはないのだろう。


「……オクムラがここに来てどれくらいだっけ」


 枝豆を摘まみながら、珍しく少女が雑談を振ってくる。

 俺はフライパンに火をかけながら答える。


「半年ほど……になりますか」


「そっか。もう慣れた?」


「はい」


 まさかただの雑談というわけでもないだろう。


 機嫌は良さそうだが、緊張してきた。

 料理はどんなものを出してもいいが、言葉には気をつけないと。


「この店、そろそろ私の専属じゃなくそうかと思うの」


「はあ」


 沸騰した水がパスタに吸われ、蒸気になって減っていく。


「そんなに客は来ないと思うけど、人手がいるよね?」


「……そうですね」


 ミュートにしたタブレットでは、リュウジの口に合わせて字幕が自動生成されていく。

 牛乳とコンソメを投入した。さらに煮詰める。


「まあ、すぐにってわけじゃないからね」


「……はあ」


 一般に向けての開店。

 ……機嫌が良いからそういう気分になったのか?

 分からない。


「オクムラ」


「はい」


「もう一杯」


「……失礼しました」


 話の意図を考えていたら、思わぬミスをしてしまった。

 すぐにおかわりのハイボールを出す。


「ふう……一仕事終えたあとのお酒は美味しい」


「ええ」


「……今日はね、やっと反乱組織レジスタンスの拠点を潰せたの」


「おめでとうございます」


 一介の異世界料理人である俺には、物騒な話だ。

 あまり触れたくないが、客の話に相づちを打つのも役目だろう。


「みんながみんな、オクムラみたいだったら良いのにね」


「ありがとうございます」


 パスタを皿に盛り付け、ナツメグを振りかける。


「いきなり美味しそうな匂いになった」


 胡椒とナツメグのおかげです、という言葉をすんでのところで飲み込む。

 危ない。

 そんなことを説明したら殺されてしまう。


「へいお待ち。“ミルクパスタ”です。熱いのでお気をつけて」


「わあーい」


 ウィッチハットのつばを上げて目を輝かせる少女を見ながら、俺は物騒な話と店の一般公開の関係性を考えようとしたが――やめた。

 

 

 どうせ意味はない。

 俺はここで料理を作るだけだ。


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