バズるレシピで魔女に腹パンを!

秋サメ

第1話 イタリア人激怒の邪道塩パスタ

 



「オクムラ、日替わりで」


 入店するなり、ぱちん、と少女が指を鳴らした。


 大きな黒いウィッチハットと、ローブという出で立ち。

 この異世界でも、結構珍しい格好だ。

 

「はいよ」

 

 まずはお通しセットである。

 ハイボールを作り、あらかじめ用意してあったもやしの小鉢を一緒に出す。


「どうぞ」


「うん」


 頷くやいなや、グラスを傾けてその中身を飲み干す。

 豪快である。


「……ぷはぁ」


「どうぞ」


 もう一杯、注いで出す。

 一杯目はすぐに飲み、二杯目は料理を用意する前に飲み、三杯目のアテに飯を食う。

 これが、この魔法少女のルーティーンである。


「では、取りかかりますんで」


「うん」


 少女は被っていた帽子を目深に被り、耳を塞いで、酒を飲みながら鼻歌を口ずさんでいる。


 はっきり言ってひどい。

 ひどいが、かわいい。


「~~♪」


 その間、俺はネギを切り、ベーコンを切り、ニンニクを切る。


 カウンターの手前にはタブレットが置いてあり、画面の中で、料理研究家のリュウジがネギとベーコンとニンニクを炒めている。


『はいこれぐらいパリッと、パリッと炒まったらもうこれ焦がさないでいいから』


 なるほど。

 ありがとうリュウジ先生。


「いーにおい。もうできた?」


「まだです」


 耳を塞いでいる少女に聞こえるように、大きな声で返事する。


 二人分の分量で料理を進めていく。

 この少女、見た目よりも食うのだ。


 もちろん、味の素も忘れない。

 そして、味見はしない。

 リュウジ先生と味の素に全幅の信頼を置いているからだ。


「おお……より一層美味しそうなにおい」


 具材を搦めてごま油をかけると、少女は子どもっぽく体を揺らした。

 待ち切れなそうだ。


「あともうちょっとですから」


 胡椒をまぶし、皿に盛り付ける。


「へいお待ち。“イタリア人激怒の邪道塩パスタ”です」


 魔女はぎゅっと瞑っていた目をぱっとあけて、


「わあー」


 と、小さく歓声をあげた。

 俺はその目の輝きに早くも達成感を覚えながら、三杯目のハイボールを出した。

 



 

 

 遅ればせながら、自己紹介を。


 俺の名前はオクムラ。

 この異世界でYouTubeを観ながら、料理を作る者だ。

 

 


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