第38話 松谷丹由倫の受難
手続きは白銀の予見した通り、かなりの時間を食ってしまった。それだけではなく物件の内覧の予約も取る必要もあり、あらゆる手続きが終わる頃には日付が変わる手前となっていた。
「ごめんなさいね。思ってた通り、かなり時間がかかってしまって」
「いや、別に気にしなくていい」
中でも面倒だったのがクシナ関連で、かなり手こずった。学歴がない人間を高校に通わせるというのが、実に難しかったそうだ。相手側の学校への説明などもあり、それで結果話し込んでしまった。その甲斐もあり、クシナの入学願書は無事に受理された。
「終電もなくってしまった事だし、私の使ってるホテルに来ない?」
まるでそれを喜んででいるかのように、白銀が誘ってくる。しかし今からホテルの手続きをするのも面倒だ。今日一日で、何度も手続き続きだからな。
「……そうさせてもらえるなら」
「もちろん。さて、早く行きましょう?」
白銀は俺の手を引いて、駆け出す。こんなとこ、クシナとたまきには見せられないな。
白銀が利用しているホテルは、俺たちが最後にいた場所から電車で数十分のところにあった。そこは随分としゃれたホテルで、聞けばスイートを利用しているのだそうだ。曰く経費で落ちているから、スイートにしたとの事。職権乱用も甚だしいぜ。
最後の手続きを済ませて、白銀の部屋にたどり着く。スイートなだけあってか、部屋は広く内装も豪華、それでいて京都の美しい夜景を独り占めに出来た。
「いい眺めだな」
つい言葉を漏らしてしまう。しかし返事はなく、静寂が返って来る。振り返ると、先ほどまで隣にいた白銀が消えていた。あちこちを探してみたものの、どこかにいる気配がない。
いるとしたら、シャワールームか。流石に入る訳にもいかないので、ソファに座る。そのソファも座り心地が、まるで雲の上に座っているかのように体に優しかった。疲れもあってか、ついうとうとしてしまう。
ふと、誰かが俺の上に乗っかっているのが分かった。いつのまにか寝ていたようで、目を開ける。すると白銀の顔が間近に迫っていた。それだけではなく、既に唇もあっていた。
「……なっ!」
あわてて離れると、白銀はタオルだけを撒いた体でいて、美しい胸元を見せてくる。
「あら、どうしたの?」
「何勝手にキスしてんだよアンタ」
「いいでしょう? 貴方の無防備な姿見てたら、したくなっちゃったの」
「ったく何考えてんだよ」
「私は構わないわ。だって……」白銀はバスタオルを外して、裸体を見せてくる。「貴方の事が好きだもの」
「……何言ってんだよ」
「初めて貴方を見た時から、私はずっと想っていたのよ?」
白銀はゆっくりと近づいて来る。
「っても、初めて会ったのはあん時だろ」
「そうね。サイガーという哀れな冒険者と一緒の時ね」
「ったく……」
一々覚えているとはな。
「分かるわ。貴方には兼木たまきと、クシナという女性がいるもの。今更愛人を増やすなんて難しいのでしょう?」
「いや、そうじゃなくてだな」
「私はいいの。貴方の傍にいられるだけで幸せだから。だから……」白銀が眼前に迫り、身体を寄せてくる。「今日は、貴方だけのものになりたいの」
間近で見ると、その言葉を遮るのは難しいと痛感させられる。引き締まったからだは、嫌でも麗しいラインを見せる。整った美乳からは残った水滴と汗がきらめき、妖しく揺れる腰は本能を掻き立てる。
気がつけば手を伸ばしていた。白銀はその手に身をゆだねるように、ゆっくりと目を閉じる。互いに唇を寄せ合い、触れ――。
ようとした瞬間だった。突然部屋のドアが勢いよく開かれる。
「由倫くん! 助けに来たよ!」
「どうやら不逞な輩は一人では――」
たまきとクシナだった。当然二人はこの様子をしっかりと見ており。
「……な、何やってんのォォォォォ!」
「……泥棒猫め。許しがたき」
とか言いつつ、何故か服を脱ぎすっぽんぽんになる二人。
「ちょ、お前ら……」
「あら、お相手が増えちゃったわね」
などと呑気に呟く白銀。そうしている間にも、俺の頭にクシナとたまきの身体が引っ付かれる。
「まさかと思ったけど、由倫くんをたぶらかすだなんて信じられない!」
「由倫様になんと破廉恥な事を」
「勘違いしているようだけれど、私は独り占めしたかった訳ではないのよ? 考えてみて? 貴女たちにここの場所を教えたのは誰か……」
「あ……」
思い当たる節があるのだろう、クシナもたまきも黙りこくってしまう。特にたまきは、アテがあるようでスマホを見ていた。恐らくこの場所を教えていたのだろう。
「何考えてんだアンタ」
「いくら私でもね、後味が悪いままでは愉しめないもの。それによく言うでしょう? みんなでヤれば楽しいって」
何だよそのふざけた理論。流石のクシナとたまきも、白銀の詭弁には反論を……。
「う、確かに……」
「思惑通りなのは心外ですが……」
「なんだこいつら」
白銀の詭弁に対して、たまきとクシナは何故か納得してしまう。今の発言のどこに、筋が通ってると言える部分があるのか。
「さて、全員そろった事だし……今夜は愉しみましょう」
「……言っておくけど、最初はわたしだからね」
「いいえ、私が先鋒を務めます」
「駄目よ。二人とも彼の貞操を戴いたのでしょう? それに……万全な状態で、私の初めてを受け取って欲しいの」
などと言って、白銀は股座を俺の膨らんだ股間へと押し付けようとして来る。
「ったく……どいつもこいつも……」
俺の周りは淫乱すぎて困る。せめて常識という物を身につけてほしいものだ。そう呆れていても、なんだかんだで快楽に身をゆだねてしまうのだった。
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