第34話 遠征ダンジョン攻略 序盤
和気あいあいとした進入前から一転。ダンジョンへ入るやいなや、二人も真剣なまなざしを浮かべる。
「……以前のダンジョンとは全然雰囲気が違うね」
たまきの言う通り、斉賀との競争に使ったダンジョンとは大きく違う。洞窟づくりなのは普通だが、節々に誰かが立てたのだろう、枕木や木の柱などが所々に見られた。
「人の手が入ってるな」
「他の冒険者が作ったのかな」
「いや、かなり昔に作られたものだろう」
それらの人工物はどれも苔むしており、腐っているものもある。今すぐに崩壊する恐れはなさそうだが。
しばらく進むと、犠牲になった冒険者の骸も見えて来た。見た限り、装備もしっかりと整えていたようだが。
さらに骸には、刀傷も多くみられた。例のダンジョンとは違い、それ以外に特筆すべきものはなかったが。
「皆、斬られてる……」
調査をしていたたまきも呟く。
「恐らくは、件の
冒険者の中には銃を使う者もいた。なのに彼らも刀にやられている。それも袈裟を。背中とかならば不意を突かれたのだろうと思えるが、正面から切られているのは妙だ。
大抵のダンジョン攻略において、
「本当に、ここの敵は強いみたいだね」
「ああ。二人とも気を付けろ」
たまきとクシナは、それぞれ頷く。
さらに進んでいくと、広場のような場所に出くわす。そこには死者が十人程度、あたりをうろついていた。
「あれが例の……」
たまきは音を出さないように、ライフルを構える。死者はどれも鎧を着た武者で、一人だけ豪華な兜をつけていた。
「まるで戦国時代の亡霊だな」
「うん、確かに……」
鎧には何らかの家紋が描かれているだろうが、血にまみれて良く見えない。
様子を伺っていると、一人の死者がこちらに気づく。すると他の死者も俺たちの方へ振り替える。うち兜を着た死者が指をさすと、一斉に腰の刀を抜き始めた。
あらかじめ得た情報も、あながち間違いではなかった。彼らは一様に刀を構える。上段に構える者、脇構えを取るもの、正眼で構える者。さらに兜をつけた死者は、八相に構える。
「なるほど……生きてるみたいってのは本当なんだな」
これまで見た限り、死者はゾンビやらのように鈍足かつ本能のように動く。だが彼らは、生前の記憶か、あるいは魂に刻まれたように体をとりなしていた。少なくとも怨念とは違う。
「二人とも、構えろ」
「うん……」
「いつでもいけます」
たまきは引き金に指を、クシナは詠唱を始めて、俺たちの能力を上げる術を施す。そして俺はアメノムラクモを抜いた。
兜を着た死者が手を挙げる。それを降ろすと、死者たちはそれが宿命であるかのように、早駆けで向かってくる。
「うそ、走ってるっ!」
「油断するな!」
うろたえるたまき。だがその暇はない。すぐさま死者たちは距離を詰めてくる。俺は最初に向かってきた死者の脇を斬りながら抜ける。だが死者たちはそれを待っていたかのように、俺を囲った。だからこそ、他の冒険者は彼らを”生きてる”と揶揄したのか。完全に統率のとれている彼らは、まさに意志があると言っても過言ではない。
そこへ銃声が一つ。たまきが死者の一人へ発砲した。弾丸は確かに脳天を直撃したものの、撃たれた死者はかすり傷かのように飄々と振り返る。
「そんな……今の完全に当たってるのに」
誰が見ても間違いないだろう。銃使いの冒険者がやられた理由は、まさにこれだろうな。
しかし、そのお陰で死者たちの気がたまきへ削がれた。俺はこの一瞬を見逃さず、三人同時に斬り伏せて死者から離れる。切った感触は薄いが、アメノムラクモはしっかりと彼らに致命傷を与えていた。今まで使っていた刀であれば、こうも上手く斬り倒せなかっただろう。
「そう来るなら……」
俺はアメノムラクモを構えて、共鳴を促す。刀身が光ると、刀は自分を振れと言わんばかりにその意志を宿した。
それに応えるよう、凪ぐ。瞬間、刀身から光があふれ出て、死者たちを包む。避けようのない光が静かになっていくと、そこにはぼろぼろの鎧だけが残された。
「……すごい。あんな敵をあっさりと」
「お見事です。由――キーファン様」
驚くあまり、棒立ちになるたまき。一方でクシナは、当然かのようにもてはやす。ただ本名を呼びそうになったのは、クセだろう。
「今のは危なかったな」
「うん。わたしも、一発で仕留められなかった時は死ぬかと思ったよ」
「念のためにとこちらも用意をしておりましたが、その必要もなく終えられて何よりです」
アメノムラクモだけではなく、これまでに培った経験にも助けられたのは間違いない。下手をしたらこの二人も死んでいたと考えると、ぞっとする。
とはいえ今の戦いでおおよその動きは理解した。次からは同じような苦戦をすることはないだろう。ただし全く同じパターンなら。
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