第3話 危機下でのゴタゴタ
「うおお、また地震か!」
「す、すぐに収まるって――」
エヴォンとサイガーが強がったその際、地割れが発生した。逃げないと。そう思った時には、既に俺たちは下へ落ちていった。こだまする叫び声の中、俺は壁にナイフを突き立てて落下速度を落とそうと試みる。一方で四人は宙でもがきながら一足早く、真下で輝く光の中へ消えていった。
流石にナイフで体を支えるのは難しく、途中で刃が壁に食われてしまった。幸い速度は収まっていたので、近くの縁へ手をかける。それを伝い、ようやく下へと降りる事が出来た。
他の四人は生きてこそいたが、それなりに痛手を被ったらしい。腰をさすったり、そのばでへばっていた。
「くっそ……何なんだよ一体」
「腰がいてぇ」
サイガー、エヴォンの二人は腰をさする。
「ったー、マジ何なの」
「もう最悪……」
ミアとサーシャは目立った怪我こそないが、気分を損ねたらしい。
俺は頭上を見あげた。当然ここから登って出るのは不可能だろう。それから辺りを見回す。光のお陰で辺りは全部見渡せるが、何もない広間のようだった。
「ったく、ミア、お前なんであん時叫んだんだよ」
ようやく落ち着いたサイガーだが、突然ミアへ愚痴をこぼす。
「は? 何いきなり」
「お前があん時叫んだから、地面が崩れたんだろーが」
「いや待って、だって下に何かいたなら声かけるでしょフツー」
「かけねぇよバカが」
「はーなにそれ。わたしが悪いっての?」
「テメェが叫んだせいでこうなったんだろ」
「は? だったらあの穴見て変な事言ってるサーシャが悪くない?」
突然転嫁される責任。言われると思ってなかったサーシャは、関係ないといった顔をゆがませる。
「ちょっと待ってミア。あたしはただ何か動いてるって言っただけであたしのせいじゃないし」
「そもそもアンタがそんなことゆったのが悪いんじゃん。てか何? あたしかんけーないでーすみたいな顔しちゃって」
「え、だってあたしのせいじゃないし」
「はーなにそれ!? てか前々から思ってたんだけど、あんたさぁ顔キモイ癖に何高い化粧品とか使ってんの! 意識高い系?」
「なにお前ケンカ売ってんのかよおい! 誰彼構わず色目使う尻軽のくせに!」
「はぁ!? てめーマジ調子乗んなよ」
「てめぇだよボケ!」
すると二人は取っ組み合いになり、その辺を転がりながら猫パンチを浴びせまくった。
「テメェら何やってんだよ!」
「こんなとこでケンカすんじゃねぇって!」
どうやら男どもは、二人の喧嘩を見て冷静になれたのだろうか。いや、サイガーとエヴォンの声色は明らかに怒気が混じっている。
「……あー? なんだよテメェら」ふとスマホの画面を見たサイガーがキレる。ネガティブなコメントでも貰ったか。「こっちは非常事態なのに、何テメェらえらそーな事言ってんだよ」
「おいやめろってタケ。配信してんだぞ」
何とか取り持とうとした冷静さが、コメントによって失われたようだ。ついにはリアルネームすら出て来た。
「うっせーよ! こいつらあいつら茶化してんだぞ」
「そんな事ゆってる場合かよ! ここから逃げる方法考え――」
唯一冷静だったエヴォンが諭そうとすると、再び地震が起きる。というよりそれは、どこかで誰かが壁を叩いている。そんな揺れ方だった。
すると四人は我に返った様子で、音がする方を眺める。
「……何?」
サーシャと取っ組み合いになっていたミアが、彼女から離れる。
恐らく敵だろう。だが大きさは
俺は腰に提げていた刀を抜いた。いつぞやのダンジョン攻略で入手した業物で、こいつと共にいくつもの死線を潜り抜けて来た。
だがそれでも、今度の相手ばかりは分が悪いかもしれない。
さらにバッグから、ポーションを二つ飲む。一つ目を飲むと体中の筋肉が刺激され、アドレナリンがほとばしるのが分かる。もう一つはエナドリを三本くらい体に注入したかのように、意識と神経が研ぎ澄まされて行く。少し気を入れれば、いわゆるゾーンに入れる状態だ。
出来るなら刃に毒でも塗りたくりたかったが、その時間はなかった。壁が勢いよく崩れ去り、破片が飛び散る。俺も他四人もそれをかわして、現れた誰かを見る。
その姿は巨大な蛇――いや、ドラゴンと言ったほうがいいだろうか。しかも首と尻尾が八つも生えている。
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