第2話 謎の光
ダンジョン攻略は滞りなく進んでいく。サイガー達も手練れなようで、立ちふさがる
おかげで俺はそこまで戦闘を行わずに済んだ。向こうも俺を戦力として数えていないようで、戦闘が終わればすぐ「案内しろ」と命令してくるだけ。楽なのに越した事はないが、本当に案内役だけでいいのかとも思えてしまう。
それは俺が普段、ソロで活動しているからだろう。
今回のように、誰かとダンジョン攻略をするというのはあまりない。ソロの方が気楽だし、報酬で揉めたりしないからな。何よりダンジョンをどの順番で、どのペースで進むかというのも議論せずに済む。自分のやり方でやる方が俺にはあっている。
対してサイガー達は、事あるごとに配信視聴者に向けて話をしたりするためか、ペースは遅め。下らない話をくどくど進めていると思えば、何かに追われているかのように俺をせかす。そんな感じのやりとりがダンジョン攻略開始からずっと続いていた。
このダンジョンに入ってどれくらい経過しただろうか。攻略自体は学校が終わった時間から始まっており、既に二時間は経過してもおかしくはない。
彼らの目を盗んでは、持って来たスナック食品をぼそぼそ食べたり、水をかきこんでいく。この様子を見られたら、どうせサボってるって思われるだろうからな。
当然、彼らは俺の目の前でおやつタイムにいそしんでいた。丁度ミアが「小腹すいた」と駄々をこねて、その場で休息をとることになった。四人はその辺に座り込み、バッグからお菓子やらジュースを取り出す。彼らの年齢からすれば、酒が出てきてもおかしくはなかっただろう。
規約によって、ダンジョン攻略に酒は持ってこれない。以前は許可が出ていたようだが、飲酒によって攻略が失敗しそこで全滅というケースが後を絶たなかったためである。
という訳で、彼らがお茶会に勤しんでいる間に見回りを済ませておく。この辺りはダンジョンの中層、その中でもかなりの深部に位置する場所だ。ここまで楽に来れるというなら、サイガー達は一人前の冒険者と言えるだろう。ただこれまでの様子を見る限り、運がいいだけのようだが。
ひとまず辺りに敵の気配はなさそうだ。見回りを終えて、俺も一息つくためにその辺に腰を下ろし、鞄から水筒を取り出そうとした。
「……おい」
尻が岩についたと同時に、エヴォンが厳しい目を向けてくる。
「どうした」
「何サボってんだよテメェ。見回りぐらいしろよ」
「いや、とっくに済ませたぞ」
そう告げたものの、サイガーが舌打をしてきた。
「ごちゃごちゃうるせーんだよ陰キャ野郎。言われた通りにしろよタコ」
俺は取り出そうとした水筒を戻して立ち上がる。これ以上言い訳したところで、きっとこいつらは納得しないだろう。仕方がないので、もう一周見回りをする。
その間、向こうでは俺の悪口パーティーが開かれていた。
「アイツまじでクソすぎんだろ」
「何もしてねぇ癖にサボろうとしやがって。ほんと使えねぇ」
「ねーホント。戦闘じゃあ対して役に立ってないし、お荷物もいいとこ」
「マジでアイツに大金払ったの損じゃない? てゆーか案内役とか要らなかった感じ」
「そーそー。皆もああゆう役立たずを雇わないようにな!」
ギャハハハ、と汚い笑い声がダンジョン内に響きわたる。さっきは運がいいだけと思ったが、そもそもここまで来れたのは俺の尽力のお陰なんだけどな。そう言ったところで、ああいう手合いは信じてはくれない。
などとため息をついた時だった。突然ダンジョン内が揺れる。
「うぉっ、何だ」
「地震かよオイ」
サイガー達が騒ぎ立てている間にも、俺は身を低くして状況を整理しようとした。しかし地震はすぐに収まり、どっかで小石が落ちた音を最後に大人しくなる。
ダンジョン攻略における死因の中には、攻略中に地震に遭い、落石や崩落によって生き埋めになるパターンもある。ただし確率で言えば、雷に当たるのと同じくらい。なので基本は気にしないようにするのが、冒険者の通例である。
「……んだよ、脅かしやがって」
「分かった。ミアが屁こいたんだな」
「はぁ!? アンタ最低!」
相変わらず下らない話が出てくる一行。俺も警戒を解いて、とりあえず辺りに異常はなかったと報告しに行こうと考えた。
「ねぇ待ってアレ何?」
ふと、サーシャが奥の壁を指さす。俺の方からは暗くて何も見えなかった。
「あん? どーしたよ」
サイガーが中腰になり、そちらを見渡す。
「何かあそこ光ってない?」
「光ってるだぁ?」
俺も気になって、様子が見える位置についた。するとサーシャが指さした方角に、ひびのはいった壁が見えた。しかも中から水色のような光が漏れている。
「確かに」
「もしかして、お宝!?」
いてもたってもいられないのか、ミアが立ち上がる。
「まじか! よっしゃ!」サイガーも立ち上がり、スマホを片手にひびの入った壁の方へ駆けだす。「えー皆さん、もしかするとすごいお宝発見したかもしれません! マジ楽しみ!」
他の四人も立ち上がり、そちらへ向かった。
「んで、どうするんだよ」
「ちょっと待ってろ」
エヴォンが壁を蹴り始めた。層は以外にも薄いらしく、蹴る度に壁が欠けていく。
「ねぇねぇ、もしかしてすごいお宝だったり!?」
落ち着かない様子のミアがあたりをうろつく。
「だったらどーしよ。ミアは何かほしーんだっけ」
「えーもうそりゃ服とか買うでしょ? 靴とか服とか、あ、タワマンは当たり前だよね」
「あたしはシンガポールとか行きたい。んで金持ちの男見っけて……」
「おいおいオレらはどーでもいいのかよ」
ミアとサーシャの談笑に、サイガーがツッコミを入れる。
実にありきたりな理由だ。女性で冒険者になる大半の理由が、やはり富だろう。真面目に働くより簡単で、かつ収入もいい。頭のいい女なら、男性冒険者に擦り寄って面倒事を引き受けてもらう、なんて方法も可能だ。ゲーム用語で言う姫プレイってヤツだ。
まあこの二人の場合、戦闘はサイガーとエヴォンだけに任せている訳ではない。むしろ貢献度でいえば、ミアの方が高めだ。
「ないない無理無理」
サーシャは呆れた表情で首を横に振る。
「んだよ、あの陰キャよりマシっつってただろ」
サイガーは俺を親指で指す。
「マシってだけで異性としては見れないって話」
「あーはいはいそーですか」サイガーは首を振ると、スマホへと顔を向け直す。「あーもうちょい待っててくださいね。なんかエヴォン手こずってるみたいで」
「うるせーよテメェ。見てないで手伝えって!」
エヴォンからの言葉は、サイガーを通して俺へと向かってくる。
「だってよ陰キャ! テメェ仕事しろ」
まあそう来るよなーと思っていたら案の定。仕方がないので、俺も壁を蹴ってみる。エヴォンのと比べて、俺が蹴っても壁はびくともしなかった。勿論警戒しながらなので、そんなに強く蹴るはずもない。
「んだ陰キャその弱っちい蹴り!」
「おんめーそれでも男かよ?」口調が悪くなったミアは、俺を無理やりどかして代わりに蹴り始める。「ほらこうやってやんの!」
ミアの蹴りで、壁はかなり削れてきた。やがて少しずつ、中の様子が見えてくる。同時に水色の光は、少しずつ見えて来た。同時に奥から、何かが割れていくような音が聞こえる。物の音ではないのは確かだ。
中の様子を見て、ふと嫌な予感がよぎる。そこは部屋というよりは空洞みたいで、光は下から漏れているらしい。しかも光り方が、人工的な物ではない。まるで何か、強大な力によるものか――。
「オラァ!」
するとエヴォンの渾身の蹴りで、壁が完全に崩れる。するとその先では、やはり空洞が続いているだけだった。
「……は? なんだこりゃ」
「ねぇお宝は?」
「いやいや、こんなのねぇだろ」
「ちょっとマジ……?」
四人は各々感想を述べていた。落胆している間も配信は続いているんだが、自覚あるんだろうか。
間を置いてサイガーが気がつくと、スマホを空洞へと向ける。
「あー、皆さん残念な話があります。お宝と思ったらただ穴があるだけでした」
そう告げた後で、サイガーは「あー」と落胆の声を洩らす。
「何? 皆なんてゆってんの」ミアが画面を覗く。「あー、みんなもそー思うよねー」
恐らく視聴者も落胆していたんだろうな。二人の表情を見て分かる。
「……お、スパチャ入った」
ふと、誰かがスパチャを入れてくれたんだろう。二人の表情が明るくなる。
「いやーごめんね、スパチャありがと」
「ざーっす。今度こそみんなにすごいもん見せてあげるから」
結局この話は何でもなかったようだ。サイガー、エヴォン、ミアの三人は気を取り直そうとした。しかしサーシャは空洞の下を見おろしていた。シンガポールの夢を諦められないのだろうか。
「……サーシャ?」
ついてこないのに気がついたミアが、声をかけた。
「ねぇなんか下動いてない?」
「え? 下?」
サーシャの言葉につられて、三人が再び戻って来る。俺はその言葉を聞いて、一層疑念が沸いて来た。
よく見ると足もとに小さなヒビが見えた。恐らく壁を蹴った際に出来たのだろう。明かりがなければ見過ごしていた所だ。問題は、このヒビが俺たちのいる一帯に入っている点だ。
「おーい! 誰かいる!?」
ミアが大声を出したのと同時に、俺の中で疑念が飽和点に達した。
「よせっ、大声出すな――」
とっさに小声で指示を出そうとしたが、遅かった。突然地面がうごめくと、ダンジョン内が一気に揺れていく。
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