裏ボス討伐の報酬は美少女!? しがない冒険者、ダンジョン攻略を配信してたらうっかり裏ボスを倒してしまい、謎の美少女と遭遇してさらにバズってしまう

にしわき

序章

第1話 請け負うべきじゃなかった仕事

「おい陰キャ野郎、遅ェぞ」


 倒したモンスターの戦利品を漁っていると、今日の雇い主である『サイガー』が声を張り上げる。地下深くの埃っぽいダンジョンでは、その声が鼓膜を刺すように痛む。


「しょーがねーだろ。陰キャなんだからとろいに決まってる」


 サイガーの仲間である『エヴォン』は、俺を嘲笑した。


 二人とも髪は汚い金色に染めており、首からはこれまでに攻略したダンジョンで手に入れただろう、金ぴかのネックレスをいくつもつけていた。さながらオールドスクールなラッパーでも意識してんのか。


「ねーねー、陰キャなんかほっといて早く進もーよー

 」


 『ミア』という呑気な女が、これまた呑気な声色で尋ねる。栗色の髪に、平べったい顔には似合わない厚化粧。服も肌色面積が多く、とてもダンジョン攻略に適した格好とは思えない。


「そんな事より、アタシ疲れたんだけど」


 岩肌に腰を落としている『サーシャ』は、手でうちわのように仰いでいた。


 クールを装うこの女は、目はとがっており、鼻もやや高め。唇は厚く狭い。外国人から見たアジアンビューティー顔って感じだ。


「おんや、サーシャちゃんはもうお疲れなんでちゅかー?」


 サイガーが、赤ん坊をあやすように変顔とおかしな腰振でおどける。


「キモッ」


 サーシャは吐き真似をする。


「んだよそれぇ、あそこの陰キャよりはマシだろぉ?」

「そりゃそーだけどさ」


 すると、四人は汚い笑い声をあげる。


 それを聞いていると、俺はどうしてこんな奴らとダンジョン攻略をすることになったのか忘れたくなった。


 普段通りダンジョン攻略に行こうとすると、入り口付近でこの四人と出くわした。何でも先導役が欲しかったらしい。俺はこのダンジョンに何度か足を運んでおり、ある程度の地理は分かる。それに、彼らが提示した報酬も普段の稼ぎの倍はあった。だから俺はつい、あんな馬鹿な陽キャ集団だと分かっていても引き付けてしまったわけだ。


 んで、いざ攻略開始となると、確かにこいつらは連携がうまい。きっちりと自分の武装や役割ロールを理解しているようで、戦闘面では問題ない。


 それに、彼らは雑魚からの戦利品に目もくれない、というのは有り難い。このダンジョンでは『魔物モンスター』と呼ばれる異形の敵よりも、『死者アンデッド』の方が多い。そんな死者アンデッドから得られる報酬は、はっきり言って微々たるものだ。


 だが時々、マニア向けのお宝も眠っている場合がある。これが案外馬鹿に出来ない収入で、下手をするとタワーマンションを1フロア丸ごと買えるほどの金額になる事も多い。


 恐らくは、彼らもそれに気がついているだろう。だが彼らが注目しているのは……。


「お、チャンネル登録あざーっす!」


 サイガーが持っていたスマホに向けて、軽い会釈を交わす。


 いつからか、ダンジョン攻略が安定すると、何故かその様子を配信するという冒険者が増えた。しかもこれがかなり人気で、今じゃあどんな娯楽よりも夢中になっている人が多い。


「やっぱ今のバトルで決めたのが大きいとか?」


 エヴォンがサイガーの肩を軽く叩く。


「まーなぁ。ってもオレぐらいになるとあれぐらいヨユーって感じだし」

「ウケるー。サイガー、始まる前コケてたじゃん」


 横からミアがツッコミを入れた。


「うるせーよ。最後は決めたんだからいいだろ」


 と言っても、その戦いは俺のアシストがあってこそ勝ったんだがな。まあ配信である都合上、傭兵の俺が目立っても仕方がない。


「お、スパチャ入った! あざーす!」


 スパチャ。いわば配信者にそのまま金で支援するというものだ。


「ウソ、いくら入った?」


 するとこれまで黙っていたサーシャが、目を輝かせながら立ち上がる。


「え? 三千円くらいだけど?」

「……チッ、少なっ」


 額を聞くと、サーシャは舌打をして再び座り込む。


「三千円も貰えたんだぜ? そんくらいありゃ酒ガッポガッポ飲めるしよォ」


 エヴォンが笑顔で答えた。


「それじゃあコスメだって買えないじゃん」

「えー、コスメってそんな高いん?」


 サーシャの話題に、ミアが興味津々に尋ねる。この二人にとっては興味深い話なんだろう。


「当たり前じゃん。今アタシつかってんのだって安くても五千円は軽く超えるし」

「えーなに使ってんのーサーシャ」

「普段はベルジェで、決めたいって時はマルゼルブかな」

「ええっ! めっちゃいいやつじゃん!」

「今使ってる奴なんかは……」


 俺はそこで、彼らから目を背けた。俺には関係ない話だからな。彼らが化粧品の無駄話をしている間にも、俺は倒した死者たちの戦利品を漁る。


 いくつか見繕ってみたが、残念ながら今回はめぼしい戦利品はない。そもそも何度も通っているダンジョンなのだから、ある日突然宝が入ってた、なんてうまい話はない。そもそも一つのダンジョンに対して一つあるかないかぐらいだからな。


 まあ小遣い程度にはなるから拾っていくけどな。これまでの戦利品を見る限り、ゲームソフト一本くらいは買えるだろう。って言っても、やる時間は出来そうにないが。


「おい、陰キャ! いつまでゴミ拾いしてんだ!」

「早くしろよテメェ!」


 どうやら死体漁りをしている間にも、陽キャたちは話を終えたらしい。


「今終わったところだ」


 俺は戦利品を確認して、立ち上がる。


「んだテメェ。口の利き方に気を付けろよ」

「……は?」


 何故かは知らないが、サイガーが眉間にしわを寄せる。


「そーそー。人待たせといて何その態度」


 次いでミア。仲間と談笑する時と違い、まるでウジ虫を見るかのように俺を見てくる。


「わざわざアンタみたいなキモイのと一緒にいてあげてるんだから、敬語ぐらい使ったら?」


 サーシャはスマホを弄りながら声をかけてくる。


「ほら言ってみろよ、待たせてしまってすいませんでしたってさぁ」


 エヴォンはこちらに近づくと、胸倉をつかんでくる。


 残念ながら、冒険者の規約として冒険者同士で戦う事は禁じられている。今みたいに集団で攻略を行うと、大抵報酬でもめたりするからな。それを防ぐために、こういう場合はあらかじめ各員の持ち分を確認し、同意する必要がある。それでこじれたら、冒険者局に議論の場を設けてもらい、そこで白黒つけるようになっている。


 勿論この状況は、報酬でもめている訳じゃない。だがもし規約を破れば、冒険者としての権利をはく奪されるし、それに配信されている以上、あらゆる被害を被るのは俺だ。どう取り繕うと、彼らのファンは俺の味方をするはずもないし。


「……待たせてしまい、モウシワケありませんでした」

「なんだテメェその言い方。ちゃんと謝れやコラァ!」

「待たせてしまい、大変申し訳ありませんでした」


 ちゃんと言い直すと、エヴォンは手を離した。


「こっちは高い金払ってんだ。ちゃんと仕事しろキモ陰キャが」


 それからエヴォンは振り返る。他三人も俺を蔑むように見おろしていた。


 別段珍しい事でもない。この中では俺が一番年下だし、都合がいいからな。


 俺は胸元の襟を直すと、言われた通り先頭に立ち案内を続ける。彼らの配信を伺う限り、やはり先ほどの一件で俺の味方をしてくれたものは一人もいなかったようだ。

 と言っても、俺もこんな奴らと無策でいる訳じゃない。半ば隠し撮りみたいな形ではあるが、ベルトのところにカメラを備えている。このダンジョン攻略の様子を配信するためだ。


 もし視聴者がいれば、奴らの悪行に誰かが反応してくれるはずだ。向こうが自分達の配信に夢中になっている隙を伺い、スマホの配信ページを見てみる。だが残念ながら、俺の配信を見てくれている人は一人もいなかった。

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