終章 越えたその先

 平日の真っ昼間だというのに、海老名サービスエリアはかなりの賑わいをみせていた。

  

 悠仁もこれまで何度か訪れたことがあったが、やたらと海老を推すイメージがあるサービスエリアだ。今も昼食としてたこ焼きならぬ、えび焼きなるものを食べている。


「どうです?お味は」

「うまい」

「語彙力ぅ……! 食感とかは?」

「なんかふわふわしてるな。あと、生地からマヨネーズの味がする」

「なるほど。せっかく出張になったのに、自分でその地の味が体験できないことだけが残念です」


 ハグロビィには、当然だが飲食の機能は全くない。腹が減ることはないとはいえ、食い意地の権化ごんげであるルカに絶飲食というのは気の毒だが、こればかりはどうしようもなかった。このままハグロビィでいるのか、それとも新しいボディを新調するのかはまだ協議中だが、しばらくはこの状態が続くだろう。


「まぁ今はこれで気分だけでも代用しておけ」


 さっき見つけてこっそり会計しておいたものを、ルカの頭の上にコンとのせる。


「え? なんです?」


 ルカは受け取ったものをまじまじと見て、歓声を上げた。透明感のあるグリーンが鮮やかな、精巧なクリームソーダの食玩がついたキーホルダーだ。


「すごい! そっくり!!」

「なぜかご当地キーホルダーに混じって、飲み物シリーズがあったんだよ。不思議なもの売ってんだよな、日本のサービスエリアって」


 その細やかなつくりに感心しきりなルカは、キーホルダーを光にかざして嬉しそうにはしゃいでいる。


「ジーン、見て見て! きらきらしてます! 本物みたい!!」


 悠仁は近くにあったゴミ箱にえび焼きのトレイを捨てながら苦笑した。


「はいはい。満足したならとっととチャイルドシートに乗れよ。あんまり遅くなると、どやされるからな。百瀬課長と違って気が短いんだ、あっちの親父は」

「ちょっ、誰がチャイルドシートですか! 玉座と呼びなさい玉座と!!」

「はいはい」


 奪われた電磁パルス発生器を取り返して危機を防いだという手柄———彼らが勝手に置いていっただけ、というのは百瀬にも説明したのだが———もあり、新たに導入された悠仁専用の黒いホバーバイクは、ルカがしっかりはまり込めるよう専用の座席がついている。走行による発電で充電もでき、さらにはルカが同期することで、普通はできないことができるようになる特別仕様だ。


 ちなみに前に使っていたものは、まだまだ使えるため堀口に下げ渡した。密かにあのバイクに憧れていたらしい彼は鍵を押し頂き、ルカに頼んでダイエットプランを立ててもらったようだ。曰く、「あのシュッとしたラインに、三段腹は似合わない」とのこと。


「……ところでジーン。実はこのバイク、さっきざっと確認しただけでも、バレたら十回以上逮捕されそうな要因があるんですけど」


 生体認証でロックを外していると、ルカがとんでもないことを言い出した。


「はぁ!? 何してんだよ、技術課の奴ら……そんなこと言ったって、今さら戻る時間はないし……よし、気づかなかったふりをしろ」


 ルカを乗せられるように改造を請け負ったバイク好き局員たちが、なにやら妙に張り切っているとは思っていたが、どうやら気合が入りすぎたらしい。


「そうですね。まぁいざという時は役に立ちそうな機能ですし……よし、私ハ何モ見テマセン」


 わざとらしく電子音声的に呟いたルカが定位置におさまったのを確認し、悠仁はバイクを出す。


 吹き抜ける風は心地よく、空は鮮やかに晴れ渡っていた。




             第一部 了

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【第一部完結】超越のリプロトコル 吉楽滔々 @kankansai

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