九章 悪夢の再来①
「さて、ティル・ナ・ノーグ最後のお客様にお茶を振る舞いたいところだけど……どうやら大人しく席についてもらうのは難しそうだからね。さっさと本題に入ろうか。ユージーン、ライアンから君に提案があるそうだ」
ブライアンは一歩前に出てくると、悠仁を真っ直ぐに見た。
「ネオ・アヴァロンに入らないか、ユージーン」
「……寝言は寝てから言えよ」
「寝言なものか。僕も、君も、何よりも大切だったものを
「……」
銃を構えたまま険しい顔をしている悠仁に、彼は少し困ったような笑みを向ける。
「君を育ててくれたオロチが、本当は
その言葉に、百瀬が眉根を寄せて悠仁を見た。
「……らしいな」
「すまない、ライアン。そのことは私が先に伝えてしまったんだ」
テオドールが言うと、ブライアンは苦笑して肩をすくめる。
「なんでもかんでも先回りしすぎるのは、君の悪い癖だぞ? テオ」
「そうかもしれない。そして結論を急ぎすぎるのは君の悪い癖だな、ライアン」
混ぜっ返したテオドールは、その穏やかな笑みを悠仁に向けた。
「急にそんなことを言われたところで、〝はいそうします〟と即決するのは難しいだろう。なにしろこんな場所では、落ち着いて話すらできないしね。だからユージーン、君を我々の新しい城に招待するよ。そこでゆっくり話そうじゃないか」
悠仁よりもルカと百瀬が険しい顔で前に出て、テオドールに照準を合わせる。
「さて、ではお客様ではないお二人には、そろそろご退場いただくとしようか。ああそうそう、あともう二人ほど客ではない者が入り込んでいたのでね。彼らにはすでにご退場願ったよ。日本で妖精というとただただ可愛らしいイメージがあるようだけれど……本来人間にとっては理不尽で恐ろしくもある存在だ。招かれてもいないのにその領域に入り込めば、食い殺されても文句は言えまい?」
彼はルカとよく似た面差しを、酷薄に歪めて笑った。
「二人とも扉へ!!」
ルカが叫び、振り向きざまに左手に握っていた金槌を投げた。よほどの力で
そしてその直後、木の幹にレーザーの照射口がいくつも開いた。
———まずい……!
その照準が百瀬に集中していることに気づいた悠仁は、
「馬鹿っ」
よろめいた彼は目を剥いて叫び———代わりに射線上に出てしまった悠仁は、不意に体勢を大きく崩して押し出されるように百瀬にぶつかり、二人はもんどり打って床に転がった。
ガシャン!
悠仁を死神の
「……っ……ルカ!!」
跳ね起きた二人の視線の先にはレーザーで脚を切り落とされたルカがいた。その切断部分からはフレームや人工筋肉が覗き、見る間に循環液が溢れ出して出していく。
「二人とも行ってください!!」
彼は必死の形相で叫んだ。
「馬鹿を言うな!」
「私、しぶといですから、大丈っ」
「ルカ!!」
目の前の光景は、まるで悪趣味でグロテスクな絵画のようだった。動きが取れなくなったルカの腹部に、容赦なくテオドールの手が突き入れられている。
「そうそう、こちらも忘れずに回収しておかなくてはね。せめてもの兄弟の情で、痛覚を切る時間はあげるよ、ルカ。この辺りは生体部分だからちょっと痛いだろう?」
「くそっ……!! ルカから離れろ!!」
ダァン! ダァン! ダァン!
悠仁はテオドールに向かって銃を連射したが、彼は微笑みながら左手を振っただけだった。
「いい腕だね、ユージーン」
その指の間と開いた
「課長! 行ってください!!」
何かの覚悟を決めたような目で、ルカが百瀬に向かって叫んだ。
「大丈夫だから行ってください!! この人たちは最初から悠仁さんを連れ去るつもりなんです!! お願いです!! 行って!!」
「———すまない!!」
その懇願に、百瀬が動いた。悠仁の腕を掴み、一気に駆け出す。
「課長!?」「っ、ライアン!!」
声が被り、次の瞬間、同時に幾つものことが起こった。
百瀬が悠仁を引っ張って通路へ向かい、テオドールが左手でブライアンを思い切り突き飛ばす。
そして——————空気が
「……
百瀬に引きずられながらも振り返った悠仁の目に映ったのは、半身が焦げて黒ずんだテオドールと、突き飛ばされて起き上がろうともがいているブライアン、そして——————人の形も留めないほどぼろぼろに崩れた、ルカの姿だった。
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