四章 ジョエルの福音①
悠仁は各課から上がってきた報告を総括したデータを、頬杖をついて見つめていた。
ウルフムーンは
しかし英雄ゲートだけは、他とは違う動きを見せていた。危険性の周知及び差し止め後、ほんの数日落ち着いたと思ったら、名称の違う別のアプリに擬態して現れるという執念を見せたのだ。しかもそれはひとつではなく次々に現れ、現在確認できているだけで三種類もあった。完全にイタチごっこになってしまっている。
報告書を読み終えた後、悠仁は左手のバンド型デバイスを操作しながら首を
———やっぱり動きがおかしいな。朝もアラームが鳴らなかったし……
ひとしきりいじってみたが、結局問題は解消しない。アラーム機能はともかくとして、
「朝倉」
「……」
「おい、朝倉」
ルカは自分のパソコンの投影画面を見つめたまま、返事をしなかった。それどころか、こちらを見さえしない。
悠仁の声が小さかったわけではない証拠に、側の席の小林純や堀口正樹はもちろん、ちょうど課に戻って来ていた
「おい」
「……」
今日の朝、家を出る前からいつにないそっけなさを感じてはいたが、ここまで来ると確定だろう。心当たりはひとつしかない。
『歩み寄りを要求します』
昨晩、ルカはそう言っていた。それを態度で示せということで間違いないだろう。
「……」
例のバルサミコーヒーが頭の隅を
「……ルカ」
「はい! なんですか? 悠仁さん」
今までの態度は幻だったとでもいうように、ルカは満面の笑みでこちらを向いた。
「……これの動きがおかしいんだが。今朝もアラームが鳴らなくてな。いざという時に呼び出しが取れないのは困る」
「ええ? なんでしょうね、ちょっと見せてください」
デバイスを受け取ったルカはしばらく投影画面を出したりしていじっていたが、ややあって呆れたような表情を浮かべて悠仁を見上げる。
「やですよ、悠仁さんったらこれいつから更新してないんですか。バージョンが古すぎて挙動がおかしくなってるんです。こういうのは小まめにやらないと。技術課の人たちに『納期前の俺たちの徹夜を返せ』って血走った目で詰め寄られちゃいますよ?……今すぐ更新をかけていいですか?」
「……ああ、頼む」
「はーい。じゃ、完了したらお返ししますね」
やり取りを終えて顔を上げれば、奥の自席で笑みを浮かべている百瀬と目があった。
「……なんです」
むっとして見返すと、
「いいや、別になにも?」
と、彼はひどく楽しげな笑みを浮かべたまま首を振ったのだった。
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