第4話『一歩前進!』

「ついに完成した……その名も、幸運のブラジャー」


 バタンと勢いよく俺の部屋の扉を閉めると上裸に白衣姿の姉がトレンドマークのメガネをくいっと人差し指で動かすと、得意げに言い放った。


「いつものことながらなんてかっこしてるんだよッ!」


「おや? 目のやり場に困るのかい? ふふ、なんだったら手取り足取り」


 姉は体のラインを強調するように、そして俺を誘い出すかのようにいやらしい手つきで触り始めた。


「そんなことはどうでもいいんだよ! あんたも年頃の女の子ならちゃんと服を着ろよ! なんで裸白衣なんだよッ!?」


「安心してください。履いてますよ」


「ブラもつけろよ」


「幸運のブラジャーを完成させる為さ。このカッコじゃないと発明ができないからね。それに男はみんな上裸白衣好きだろ?」


「相変わらず話が通じねー……それで、その幸運のブラジャーってどんなブラジャーなんだ?」


「聞いて驚くがいい! このブラジャーには胸囲を五センチアップさせる効果がある」


「ご、五センチ!? なかなかのチート能力だな……」


「ふふ……これはまだ完成品じゃない。これから、キミの手でこのブラをより完璧にしなくてはね」


 姉はそう言い放つと俺のベッドにゆっくりと座り、シーツをぽんぽんと軽く叩いた。どうやらこの俺に膝枕して頭を撫でろと言いたいらしい。


 俺は溜息をつくと姉の頭が太ももに載る様にゆっくりと腰をかけた。姉は俺のショートカットの綺麗な黒髪にそっと手を添えると優しく撫で始めた。


「このブラジャーを完成にはキミにこのブラジャーをつけてもらうしかない」


「断るッ!」


「なぜだ! 幸運になれるのだぞ」


「だって俺男だし。こんなのつけたら変態だって思われるじゃん」


「別にいいじゃないか減るもんじゃないし」


「減るよ……自尊心がすり減るよ」


「ならばしょうがない……このブラジャーの隠された機能を教えてやる」


「隠された機能だと?」


「そう。このブラジャーを身につけた者にはラッキースケベが舞い降りる」


 姉は『幸運のブラジャー』をぎゅっと胸の前で握りながら自慢げに言い放った。俺はそんな姉に呆れたように言う。


「何をバカなことを言ってるんだよ……そんな一昔前のラノベの主人公みたいになってたまるか」


「これを見てもまだそんなことを言えるかな?」


 そう言うと姉はすっと立ち上がり、自ら幸運のブラジャーを身につけた。


 下着姿に白衣を纏うか……どうしてだろう。先程の上裸よりもエロく感じる……ハッ! バストアップしたからかッ!


「さあ、恐るべき、ラッキースケベを発動使用ではないか!」


 姉はそう言うと俺に向かってふらふらと近づき、まるで抱きついているかのように体を密着させた。


「な、何をするんだよ! や、やめろ!」


「やめないよ! このラッキースケベを発動すればどんな男子でもイチコロさッ!」


 俺は姉の行動に驚きながらも姉の体を両手で押し返そうと奮闘する。


 しかし姉の体は俺の力ではピクリとも動かない……いったいこいつのどこにこんな力が……ッ!? すると姉は俺の手を掴むと自分の方へと引っ張っていき、


 ドンッ!


 一緒に床に倒れ込んだ。


 まさに俺が姉を押し倒したかのような光景。


「ちょっとアンタ達。朝から何してんのよ」


 声のする方に顔を向けるとそこには母の姿が……


「……ちょっと海斗、お父さん帰って来たら家族会議だから」


 え?


「ハハっ! 違うんだよお母さん。コレはボクが発明した道具の力なんだよ」


「ああ、そうなの安心したわ。海斗そういうことなら今日こそ学校に行きなさい」


「た、助かった……」


「それにこれをつければ、きっと何かいいことがあるから。それに、夏樹の件も解決するかもしれない」


 一週間前、俺はクラスメイトのナツミが夏樹を階段から突き落とす現場を目撃してしまった。


 それ以来、学校に行くのが怖くなり、休みをとっている。


 このことは姉にしか相談していない。なんだかんだで1番頼りにはしているし


 そんな俺を見かねた発明家の姉は、どうやらこの奇妙なブラジャーで僕を助けようとしているらしい。


 けれど、こんなものを着けて学校に行ったら、確実に変な目で見られる……。


「幸いにも季節は冬。厚着をすれば問題ないだろう」


 俺は意を決した。


「わかったよ……」


「おお! 弟よ、ついにわかったか!」


「ブラジャーつけるからには、ちゃんとするよ」


 俺がそう言うと、姉は満足そうに頷いた。


 そしてブラジャーを俺に差し出す。


 俺はそれを受け取り、実際に着ける

ことにした。


 俺は着ていたTシャツを脱ぎ、上半身裸になった。


 俺がブラをつけようとすると……


「おいキミ」


 そんな声が背後からかかった。振り返ると、姉が俺をジト目で見ていた。


「なんだよ」


「お前が今手に持っているのは何かな?」


 姉が俺の手に握られているブラジャーを指差しながら言った。


「幸運のブラジャー」


 姉が呆れたようにため息をついた。そして、俺に指摘する。


「私が言っているのは、それを着ける前にすることだ」


「……何?」


 俺は怪訝な表情を浮かべて尋ねる。すると姉はニヤリと笑みを浮かべ……言った。


 それが俺にとってどれだけ重要なことかを知らずに。


「キミの胸毛抜きだよ」


「ぎゃー!」


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 ツルツルにされた。


「恥ずかしい……お婿に行けない」


「何を言っている? さあ、とっとと学校に行ってこいッ!」


 Tシャツを着直し、憂鬱な気分に浸る俺に姉は怒鳴る。


「じゃあ、行ってくるよ」


 俺が玄関に向かい歩き始めると、姉が後ろから声をかけてくる。


「ああ、キミには幸運のブラジャーと発明家のお姉ちゃんがついている……親友の夏樹に起きた出来事を受け止め、キミなりの答えを出してこい!」


 本当に何かわかるかもしれない。


 そう思い、俺はその『幸運のブラジャー』を受け取ることに決めたんだ。


 俺はナツミが夏樹を突き落とす光景を思い出し、またもや不安に駆られた。


 胸を締め付けらる痛みだが、姉の励ましにより、少し勇気が湧いてきた。


 でも、もしかしたら、この痛みはブラジャーが小さくてキツいのかも

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トイレット・トラップ @fuwarikoibumi

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