第3話『次にがんばる人のために便器は美しく』

「ハッ……ハクション!」


 ズズッ……。


 ナツミはブルブルと震えながら、自前のハンカチで身体を拭き始めた。


 季節は冬……なんか、可哀想だなぁ

……


「ううぅ……寒いッ!はやく帰ってお風呂入りたい……」


 そうだな、風邪引いたら大変だからな。


「あれ? 夏樹、もしかして心配してくれてる?」


 当たり前だろ……どんな理由があれ、一応幼馴染なんだからさ


「そうよね……怒ってるわよね」


 いや、もう怒ってねーよ……覚悟決めたって言うか、まぁ……いいもんは見せてもらっているし、俺需要あ


「まずは、この状況について謝らせてちょうだい」


 ちょっと待てよ! 話してる途中だろ?


「こうするしかなかったの……ごめんなさい」


 え? あのプライドの塊であるナツミが謝っている。昔から一切人に謝るなんてしてこなかったあのナツミが……。


「夏樹を助けたかったの……」


 ナツミは、そう小さくつぶやくと涙を流し始めた。


 おいおい、泣いてるじゃないか……。


「でも、まさかこんなことになってしまうなんて思ってもみなかったの……」


 安藤ナツミは、流していた涙を拭うと俺をグッと睨みつけた。


「夏樹、あなたの身体が危ない」


 は?


「とりあえず、一から説明するからよーく聞いてね」


 ああ……わかったよ。


「まず、今あなたがどうなっているのか説明するわ」


 頼む。


「あなたはね、命を狙われているの」


 女の子の性欲の捌け口になっただけで!


「だからね、このままじゃあなたは本当の身体が危ないわ」


 ナツミは真剣な眼差しでそう言った。


 ああ、そっちか……本当の身体?


「私が突き落とした後、あなたは友達のイタコに頼んでトイレに憑依してもらったの」


 え? そんな友達いるの? 納得できん。


「そうすることであなたを仮死状態にして、命を守る作戦だった……でも、今から二週間前……そうリナがここのトイレを使用したことであなたが生きていることがばれた」


 もう何がなんだか……


「そこで友達と考えたのが、あなたをもう一度と元の身体に戻し、リナを犯しなさい」


 は?


「詳しい話は元の身体に戻ったら、説明するから……一旦、戻って来て」


 ブチッ


 そう言ってナツミはトイレのコンセントを引っこ抜いてみせた。


 徐々に視界が暗くなる中、ナツミの不安な顔だけが脳裏に焼き付いた。

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