第38話 校外学習初日④ 疑惑と痕

「えっと…貴女は?」


「す、すみません!急に声をかけてしまって……ウチは1組の桃月茜って言います…その…たまたまここを通りかかったらお困りのようでしたので…」


 急に美白さんに振り返られたからか、茜さんが少しアワアワとしながら説明している。


「そうですか…私は3組の美白璃奈と申します。…お気持ちは大変嬉しいのですが、そんな事をされてはそちらの班の物がなくなってしまうのではないですか?」


「そ、それなら大丈夫です!実は先生に余った分もまとめて作って欲しいと言われてまして…1組に1班まるっと休みの班が出たので…それで」


 そう茜ちゃんが言うと、後ろに待機している茜ちゃんの班員たちが俺たちの持っていた鍋よりも大きな鍋を見せてくる。

 …向こうの男子は美白さんの方しか見てないけど。


「しかし…」


「おねがーい!あーしらの班員だけじゃ食べきれないのー!」


「そうね…この量は男子が良く食べると言ってもちょっと…ねぇ?」


 確かに男子達は美白さんにはニヤケ顔をしているが、チラチラと俺たちの方にも助けて欲しそうな視線を出している。


「いいんじゃないかな?美白さん。せっかく声を掛けてもらったんだし、ご相伴にあずかってもさ」


「小柳君まで……分かりました。ではお言葉に甘えてご馳走になりますね」


 俺たちは茜さん達に助けられる形でお昼を一緒する事になった。

 ……なったのは良かったんだ。昼抜きにならなくて済むからな…でも………


 なんで隣の席が美白さんと茜さんなんだ?????



【美白side】


 な、なんでこうなったんですか!?あの後自然な流れで綾人君の横に座るまでは良かったんです、いつも綾人君はお昼になるとどこかへ行ってしまいますから…

 なので綾人君の横でお昼を食べるのは初めてです。私はとても気分良く昼食を一緒に食べられると思っていました。


 ですが………


「つ、辻凪君…どうぞ?おかわりもあるからね?」


「ありがとう…茜さ……桃月さん。いただきます……ん!美味しい!」


「え、えへへ…そうかな…?」


「……………(むぅぅぅぅ…)」


 ちょーっと綾人君と桃月さんの距離が近くないですか???


 綾人君も何故か桃月さんのことを下の名前で呼ぼうとしていたように見えましたし、何より綾人君以外の男性は怖がっている様に見えた桃月さんが、綾人君には全幅の信頼を置いている様にも見えます………


 …もし……もしですよ?綾人君が困っていたから近くに来て声を掛けたのだとしたら…?あの男子生徒も仕込みだとしたら…?……相当警戒しないといけない策士ですね…(※たまたまです)


 それにあの二人の空気です!なんですかあれは!!!まるで新婚さんみたいな空気じゃないですか!?

 それにあの桃月さんの柔らかな笑顔……私のセンサーが危険信号を出しています…


「(これは……もしかして3人目ですか…?また1人ライバルが…!?)」


 桃月さんは私から見ても凄く可愛らしい容姿をしていて、高峰さん泥棒猫とはタイプの違う…所謂庇護欲をそそる様な………それに胸が私より大きいです………


「(…仕方ないですね、協定ですから…彼女にも報告しておきましょうか)」


 私はスマホを取り出し、高峰さんに連絡を入れます。




美白〈綾人君に新たな女性の影の可能性があります。確定ではないですが〉




 …これでとりあえずはいいでしょう。とにかく目の前のことをなんとかしましょう!!!ライバルだとしたら好きにはさせませんよ!桃月さん!



【辻凪side】


「………疲れた」


「おいおい綾人、随分羨ましい疲労だなぁ?美白さんと桃月さんが両脇にいて両手に花状態だったじゃねーか」


 あの昼食の時間のすべて美白さんと茜さんが何かと張り合う様に俺の横に密着していて、周囲からの視線がエグい事になっていた。…やけに憎悪がこもった視線が三つほどあった様な気もしたが。

 流石にあの後すぐに耐えかねて逃げ出したけど…視線で穴が開くかと思ったよ…


「うるせー!お前に分かんのか!?他の男子からの羨望と嫉妬の視線が四方八方から刺し殺す勢いで向けられるのが!!!」


「俺はしょっちゅう受けてるよ。っと!上がりぃ!」


「お!流石でござるなぁ小柳氏!」


「たりめぇよ!大貴!」


 さらっと勇次の容姿とモテ自慢を受けた今の時刻は夜の8時。

 現在俺たちは3人テントの中でトランプで遊んでいた。小択君と俺たちはすっかり仲良くなり、勇次はもう下の名前で呼んでいる。これが陽キャイケメンか…


「それにしても辻凪氏も随分とモテるのでござるなぁ…あんな二次元から舞い降りた様な美少女二人に挟まれて食事とは…いやはや…拙者であれば即気絶ルートでござるよ」


「お?大貴も人の事言えねーだろ?六道さんと二人で良い感じだったじゃねーか」


「あ、あれはそういうのじゃ無いでござる!そういう小柳氏は東堂氏といい感じだったでござろう!?」


「あれは慰める人がいるだろ?それだけだよ、そこは流石に下心はなかったよ」


 俺たちがテント内で男子トークに花を咲かせていると、「3組男子ー!風呂の時間だぞー!」と先生の声が聞こえる。


「よし!大貴!風呂行くか!」


「そうでござるなって…辻凪氏は行かないのでござるか?」


「ん?あぁ……俺はちょっと怪我が良くなくて…個人シャワールームに行くんだ」


「……そういう事だ、じゃあまた後でな綾人」


「そうでござるか…お大事にするでござるよ?」


 心配そうな小択君を連れて勇次達は大浴場へ、俺は施設の建物内にあるシャワールームへと事前に申請していた先生に許可を貰って歩いて行く。


「…小択君に嘘ついたけど…悪いことしたなぁ…。でもまぁ…こんなの人には見せらんねぇし、仕方ないよな…」


 俺はシャワールームの脱衣所で全ての服を脱ぎ、うっとおしい前髪も後ろに流してシャワールームに入る。

 シャワールームの大きな鏡には、俺の程よく鍛えられた筋肉のついたの身体が映っている。


 しかしその身体にはおびただしい数の古い傷痕と、背中には顔と同じ大きな火傷の痕がくっきりと残っていた。

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