第37話 校外学習初日③ カレー作りとハプニング

「皆さんテントの設営と荷運びお疲れ様でした。さて!全員揃いましたし、早速お昼ご飯を作りましょうか!」


 炊事場に着くと俺以外の全員が集まっており、他にも様々な班が慣れない調理で悪戦苦闘しながら頑張っている様だ。


「では役割を決めて行きたいのですが…この中で私以外に料理が得意な人はいますか?」


 美白さんがそう言うと、手が上がったのは勇次だけだった。他はというと俺を含め目を逸らしたりうつむいたりしている。

 東堂さんと六道さんに関しては「インスタントでも生きていけるし…」と料理が出来ない人のテンプレな台詞を言っていた。


 俺は大雑把に切る、焦げ目が付くまで焼くなら出来るぞ?下手したら弱火でも炭になるけど……


「えっとじゃあ…調理の行程で得意な事はありますか?」


「それなら俺は火起こしとか火の管理なら得意かな…」


「ホントですか?辻凪君!一番それが大事です!ではそれをお願いしますね!」


 そういう事で俺は火の管理を任される事になった。勇次は俺のことを心配そうに見ていたが、もう大丈夫だと思う。

 俺以外の他の人たちは美白さんや勇次の指導の下で調理をする事になった様だ。


 そして俺はみんなが野菜や肉を切っている間、一人で火起こしをする為に竃にやって来た。

 周囲には火が付かなくて困っている人も多い。しかし俺は火起こしをしようとした瞬間に別の問題に直面した。


(……ダメなのか?俺の体…こんな簡単なことも出来なくなったのか…?)


 いざ炭や着火材を手際よく準備し、マッチで火をつけようとしたのだが……俺の手が震えて上手くつけることが出来ない。


 俺がそのまま固まっていると、ポンと肩に手が置かれた。


「綾人…無理すんなよ…火起こしが出来なくても別に誰も責めねぇよ。あんなことがあったんだから…俺が変わろうか?」


「…いや、ありがとな。でもこれくらい出来る様に戻らないと…これからの人生何かと不便だろ」


 固まっていた俺の後ろにいたのは、心配そうな顔をした勇次だった。そんな親友に俺もぎこちない顔をしながらはやる鼓動を抑えつつ、マッチに火を灯して火を起こした。


「…そうか、辛くなったら呼べよ?すぐ変わるから」


「あぁ…ほら俺より小択君が困ってるみたいだぜ?」


 調理場の方を見ると、小択君が指を少し切ったのか『小柳氏〜!拙者の指があぁぁぁ!』と叫んでいる所を六道さんに蹴られていた。


「ははっ…ありゃ大変だな。じゃあ行って来るわ」


「おう、行って来い」


 俺は去って行く勇次の背中を見送ってから、目の前にある炎と見つめ合う。


「…………」


 だんだんと周囲の話し声や雑音が消えていき、パチパチと火の弾ける音と俺との二人の世界に入って行く。


『コイツだ!コイツのせいでうちの子が!』


「……ぎ君……」


『この人殺し!お前が母さんの代わりに死ねばよかったんだ!!!』


「……凪…ん……?」


『あんたのせいでお爺さんが…返しなよ!私の旦那を返しなよ!!!』


「辻凪君!」


「…えっ?!」


 俺が火と向き合いながらボーッとして額を触っていると、いつの間にか俺の背後に美白さん達が鍋と飯盒を持って立っていた。周囲を見ると、どうやらかなりの時間が経っていた様だ。


「大丈夫ですか?顔色が良く無いみたいですが……それにそんなに火に近づいては危ないですよ?」


「あぁ……ごめん、大丈夫だから」


 心配してくれているみんなを竃に譲り、俺たちは調理を進めた。



「出来たでござる!むはぁー!いい香りでござるなぁ…すんすん…」


「………小択煩いし………静かにして…」


「よーし!じゃあこれ持っていこっか!美味しそ〜!」


 そう東堂さんがカレーの入った鍋を持って移動しようとすると、東堂さんの背後を狙ったかの様に二人の男子が東堂さんにぶつかった。


「おっと…ごめんなぁ?余所見してたぜ…」


「おいおい気をつけろよぉ…?はははっ!」


 そのぶつかった男子達は足早に去って行った。…あの男子達はさっき高峰さんの班にいた二人だろうか?


「だ、大丈夫ですか?東堂さん?」


「東堂さん火傷してねぇか?あの野郎ども!あぶねえじゃねぇか!」


「う、うん…美白さんと小柳君…私とお米は大丈夫だけど…みんなのカレーが…」


 そう涙ながらに地面を見ると、俺たちが作ったカレーが全て地面にぶちまけられていた。


「気にしないで良いでござるよ!悪いのはアイツらでござる!東堂氏では無いでござるよ!!」


「ん………小択に同意………東堂さんが気にする事無い…………」


「そうですよ、私先生に予備の材料を貰って来ますね!」


「じゃあ俺が掃除するから、小択と六道さんは東堂さんに怪我がないか見てあげてくれ。綾人は美白さんと一緒に先生のとこへ」


「分かった!」


 そう各々が行動しようとすると、俺たちに「あ、あの…」と誰かが声をかけて来た。


「もし困っているんでしたら…ウチの班のカレー分けましょうか?」


 そこには大きなカレー鍋を班で持っていた茜さん達が立っていた。

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