第36話 校外学習初日② やっかみ

 何故か鈴華さんに捕まった俺は、逃げられないように腕を掴まれながら2組の鈴華班の元へと引っ張られて行く。

 その為道中では俺と鈴華さんをジロジロと見る人がいつも以上に多かった。


「ごめんお待たせ〜助っ人呼んできたからさ、アヤトに手伝って貰おっか!」


「助っ人?わぁ!高峰ちゃんが男の子を連れて来るなんて思わなかった!」


「ね、私も思った!高峰さんって普段からずっと男子には無視したり、そっけなかったりでめっちゃ冷たいもんね!」


 アウェイ空間に手を引かれて急にやってきた俺に対して、鈴華さんの班の女生徒たちは驚きを隠せないようだった。

 …鈴華さんが男子に冷たいというのが本当なら、何で俺には冷たくないしこんなに距離感が近いんだ?…そうか!俺を男として見てないからか!


「そ、そういう時だってあるわよ…アタシにだって…ほ、ほら!アヤトもぼーっとしてないで手伝って!お願い!」


 何故かそっぽを向いた後、俺に対してお願いをしながら鈴華さんにテントの場所まで連れていかれる。

 しかしそんな俺を良く思わない人もこの班にいる。


「おい!高峰!俺たちはそんな話聞いてないぞ!それに俺たちだけで十分だ、部外者は要らん!」


「…」


「おい聞いてるのか高峰!前にこの俺が付き合ってやると告白してやった時もそうやって無視しやがって!」


「ま、まぁ落ち着きなよ…本郷君、上手くいかないから高峰さんだって助っ人を連れて来てくれたんだし……ねっ?」


 そんな俺の前にドレッドヘアで色黒のゴリラのような体格をした不良のような男子が現れ、敵意に満ちた表情で俺のことを睨んでいた。…今の所明確な殺意はまだ感じないし、受け流しておけば問題無いだろう。


 そう激昂している男子が目の前にいるにも関わらず、鈴華さんは無表情で俺の横に立っていた。…冷たいのはただ単に鈴華さんがこの人のことを嫌いだからじゃ無いのか?


「それは俺たちがこんな奴に劣っていると言いたいのか!?こんな陰キャ風情に!?こんな根暗で捻くれた、たまたま高峰に頼まれたからと鼻の下を伸ばした変態野郎に何ができんだよ!」


 おーおー初対面で酷い言われようだな。一応本人が目の前にいるんだが…まぁその程度の悪口はに比べれば可愛いもんだし、捻くれているのは事実だから気にしなくていいか。鼻の下は伸ばしてないけどな。


 俺が気にせずに作業に取り掛かろうとすると、今まで見たこともないような不機嫌な顔をしながら鈴華さんが言葉を発した。


「…アンタ何様のつもり?今までカッコつけるだけで何にもできてない癖に…。口だけで何にもできてない無能なアンタ達と、普段口の前に行動で示すアヤトのどっちが優秀かなんて猿でも分かるでしょ?……あぁ、アンタ達は猿以下の知能なのね」


「「「〜〜っ!!!」」」


 鈴華さんの鋭すぎる言葉に本郷達3人の男子は顔を真っ赤にし、殺意の滲んだ目で俺を睨み殺す勢いのまま本郷が近づいて来る。

 すると俺の前にテント道具を突き出しながら吐き捨てるように言って来る。


「そんなに高峰が言うならお前がやってみろ!…しかし俺たちだって鬼じゃねぇさ、ちゃんとさ」


 先程と打って変わってニヤニヤとしながら話して来る本郷に嫌な感じがしたが…鈴華さんに頼りにされている以上断るわけにもいかず、俺はテント設営を開始した。



 結果から言うと無事にテントを設営する事は出来た。


 しかし本郷たちは俺の妨害をして恥をかかせようとしていたのか、女子の目を盗んでわざとぶつかったり道具を蹴り飛ばしたりと陰湿な嫌がらせをしてきたが…俺には全く影響がなく、何事も無かったかのように作業は終了した。

 多少妨害された分、時間は遅くなった。しかしそんな事で俺の体幹はブレないし、道具がなくてもこれくらいできるので問題はない。


「すっごーいアヤト!流石ねっ♪アタシが連れてきただけあるわ!」


「本当にね!凄いね君!」


「ね〜!カッコイイ〜!」


「い、いや…そんな事は…」


「…………何鼻の下伸ばしてんのよアヤト。アタシが居ながら他の子相手にそんな態度取るなんていい度胸じゃない」


 先程まで笑顔で俺を褒めていたのに、他二人に褒められて嫌々と言っていると急に不機嫌になった鈴華さんが俺の足をグリグリと踏みつけながら睨んで来る。

 …アタシが居ながらってどう言う意味だよ…


「あら、こんな所に居たんですね辻凪君。……もう炊事の時間ですし帰りましょう?ではさようなら泥棒猫…(コホン)高峰さん」


「まぁ仕方ないわね…手伝ってくれてありがとアヤト♪また後でね、女狐……美白さんもじゃあね」


 俺は迎えにきた美白さんと共に自分の班の場所に戻る為に、歩いて来た道を戻っていく。

 …相変わらずこの二人がどう言う関係なのか俺にはさっぱり分からない。






























「あの野郎…美白も高峰も侍らせやがって…気にくわねぇ…」


 俺はさっきの陰キャを睨みながら炊事場に移動する。


「クソッ!このままじゃ俺の気が収まらねぇ!何かアイツに一泡吹かせてやる……おっ?へぇ…こりゃ使えそうだ…」


 道中の掲示板に貼ってある紙を見た俺はニヤリと笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る