林間学校編

第35話 校外学習初日① 到着

「ほらほら三組!一班から全員揃ったら先生に報告して席順に乗ってけー!大きな荷物はバスの下に入れろよー!」


 週明けの月曜日の朝7時、高校の馬鹿でかいグラウンドは大量のバスに占拠され、即席の迷路のようになっていた。

 一年生だけでもこんな迷子になりそうな感じなら、全校生徒分のバスが集合するとどうなってしまうのだろうか…


「よかったな綾人、俺が一緒に朝行ってやったおかげで今度は迷子になんなかったな」


「…あの時は仕方ないだろ?オープンキャンパス以外だと初めて来たんだから…それはそうと勇次…お前だって今日俺が迎えに行かなかったら寝坊してた癖によ」


「うぐっ……ほ、ほらあっちに全員集まってるし行こうぜ?綾人」


 バツが悪そうに話をはぐらかせて先を急ぐ勇次を追いかけて、二班が集まっているところに歩いて行く。…実は俺も昨晩はなかなか寝れなくて、起きる時間ギリギリだったが、美白さんからの連絡で起こしてもらったことは黙っておこう。


「おはようございます辻凪君と小柳君。きちんと起きれたみたいですね♪えっと…これで全員揃いましたね、体調などは大丈夫ですか?」


「俺はバッチリだぜ!」


「こっちも大丈夫かな」


「そうですか、では私は先生に報告に行って来ますので…非常に残念ですが…昨日決まった席に座ってくださいね?体調の事で何かあれば、小拓君か六道さんにお願いします」


 そう言って美白さんは先生に報告する為に先生の元に歩いて行った。


「よし、俺らも荷物預けて乗るか」


「だな」


 俺たちは荷物を預け、席に座りに行く。席順も昨日鈴華さんが乱入して来た後に決めたのだが、何故か俺の横の席で揉めていた。(主に鈴華さんと美白さんが)

 最初は美白さんが俺の横に座ると言っていたのだが、何故か鈴華さんが猛烈に反対して話が平行線になった為、ジャンケンとなった。


 ジャンケンの結果は前から勇次と東堂さん、真ん中に六道さんと美白さん、後ろに小拓君と俺という配置に落ち着いた。

 何故か残念そうな美白さんと『イカサマするからこうなるのよ♪』とニコニコしながら美白さんを煽っていた鈴華さんが印象に残っているが、なんで俺の横の席で一喜一憂していたのかは最後まで分からなかった。


「よーし全員乗ったかー?じゃあ点呼を取ってから出発するぞ!」


 元木先生が全員の点呼を取った後、俺たちは林間学校の山に向けて出発した。

 道中初対面の小択君と気まずくなるかと思っていたが…小択君とは共通のゲームの話題で盛り上がり、バスの中も楽しく過ごすことが出来た。


 それと何故か美白さんが頻繁に会話に入って来て、小択君が挙動不審になったりといろんな事があった。



「よし、全員揃ってるな?では初日の流れを確認する!まずは今日寝泊まりするテントを班ごとに設営して貰う。その後昼飯のカレーを作って貰う、カレーの材料やテントは各班ごとに受け取りに来るように!以上だ!」


 バスに揺られる事約3時間、俺たちは広大な自然に囲まれた山間の施設にやって来た。俺たちは自分達の荷物を施設の人たちに一旦預け、ジャージに着替えて先生の号令の後に行動を始めた。


(…懐かしいな、空気が澄み渡ってて土や木の香りのするこの感じ…)


 俺が昔を懐かしんでいると、勇次と小択君に声をかけられた。


「おーい綾人!何やってんだ!さっさと終わらせるぞー!」


「辻凪氏!こっちでござる!」


「あぁゴメンゴメン、じゃあちゃっちゃとやっちゃうか」


 そう俺たち男子班は役割ごとに手分けして手際よくテントを組み立てて行く。

 すると周囲が苦戦しているのを他所に、俺たちの班は十数分でテントを完成させた。


「…にしても綾人は相変わらず馬鹿力だな…そんなに俺でも持てねぇから引くわ…」


「おい自分の荷物を持って来て貰ったやつの言葉かそれ?さっきあった谷底に勇次のだけ投げ捨てて来るぞ?」


「すまんすまんすまん!ジョーダンだって!!!」


「拙者の代わりに荷物持って来てくれてありがとうでござる辻凪氏!」


「いやいやこちらこそ寝袋とかの設置ありがとう、小択君」


 男子のテントを完成させた後は勇次は女子のテントの手伝い、小択君は俺たちのテントの中の整備、俺は班員全員の荷物を担いで施設から戻って来た。

 重いといってもたかが6人分の荷物なんて誰にでも持って来れるだろ。


「では拙者は時間までテント内で荷物を整理しておくでござる!」


「だそうだ、今さっき美白さん達がカレーの材料と調理器具を受け取りに行ってくれてるから、綾人も暇ならその辺散策して来たらどうだ?」


『小柳くーん!ちょっとこっちいいかなー?』とクラスの女子に呼ばれて勇次はそっちに行ってしまった。


「…その辺フラフラと歩いてみるか」


 俺はフラフラと生徒達が一生懸命テントを組み立てるのに悪戦苦闘している中、適当に周辺を歩き回る。


(おっ…茜さんの班だ。この前も一緒に居た友人達と協力してうまく行ってるみたいだな)


 少し離れた1組の女子のテントの辺りを見ると、茜さんの班は全体的にうまく行っているようで綺麗にテントを張れていて、食材を受け取って炊事場に行くようだ。

 …周りの男子達はいいところを見せようとしてるのか、下心満載なのが滲み出てるけど。


(…ん?今茜さんと目が合って小さく手を降られたような…気の所為か?)


 しかし気の所為でなければ無視するのも悪いので、俺も小さく手を振り返しておいた。


 その後2組のテント周辺を歩いていると、再び見知った顔を見つけた。


(お、今度は鈴華さんの班か……あんまり上手く行ってないみたいだけど)


 鈴華さんの班を見ると男子達がいいところを見せようとしてるのか、張り切って女子のテントを手伝っているようだが…気合が空回りしており上手くテントが張れていないようだ。


(あのやり方じゃ上手く立たないし…打ち込んでるペグが近すぎて紐がたわんでるし…上手く行くのか?アレ…)


 俺がそう心配しながら見ていると、何かに気がついたように鈴華さんがこちらを見た。するとさっきまで男子達の前でしていた無表情が嘘のように悪い笑顔をしながらこっちにやって来た。


「こんなトコにいるなんて奇遇ね?アヤト?」


「う、うん…じゃあ俺はここで…」


 普段のロングヘアーをそのままにしているのではなく、長いブロンドの綺麗な髪を後ろで縛ってポニーテールにしている姿に少し見惚れてしまった。

 そのせいで逃げるタイミングを失い…逃げようとすると鈴華さんにガシッと腕を掴まれてしまった。


「まぁ待ちなさいよアヤト、ここにいるってことは暇なんでしょ?ちょっと手伝ってよ」


 …逃げられなかった。

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