第34話 ミーティング

 あの後ずっと男子生徒たちが発狂しカオスな空間になっていた教室だったが、少しずつなりを潜めて現在は元の状態に………


(なってるわけないだろ!!!)


 男子生徒が復活してから俺は、教室中からずっと刺すような視線に貫かれつつ学級委員の職務を全うする。

 …変わって良いなら変わってくれ誰か。俺の胃はそろそろ限界だ。そして何笑ってんだ勇次。人の気も知らないで


「では一度班ごとに分かれて簡単なミーティングを行います。それぞれ移動を開始して下さい」


 そう美白さんが声をかけると男子は渋々といった感じで動き出す。


『キエロキエロキエロキエロ』

『シネシネシネシネ』

『高峰さんだけじゃ飽き足らず美白さんとまで……夜道に気をつけろよテメェ…』


 移動中にそんな怨嗟の声が聞こえてくるのを無視しながら、俺と美白さんは2班の所へ歩いていく。…何で俺だけこんなに集中砲火なんだよ。


 そんな怨嗟の声に突き刺されている俺の視線の先には、他の班員と楽しそうに談笑している勇次がいた。


「よぉ綾人!随分と男子にモテモテじゃねーか羨ましいぜ!」


「ウルセェよ…こっちの気持ちにもなってくれ…」


「ははは!すまんすまん、じゃあこっち座ってくれよ。美白さんもどうぞ」


「ありがとうございます、小柳君」


 俺たちは勇次に促されるままに机を向かい合わせた席に座り、ミーティングが始まった。


「えーでは早速日程の簡単な確認と役割決め、そして改めて簡単な名前の自己紹介でもしましょうか。私は美白璃奈と申します、よろしくお願いしますね♪」


「辻凪綾人です。よろしくお願いします」


「小柳勇次っす!よろしくっす!」


「東堂梓です!お願いします!」


「お、小択大貴です…よろしくお願いします…」


「…六道萌……よろしく…」


 それぞれが挨拶をしていき、ついでに役割も決めていく。

 役職はそれぞれ班長が美白さんで副班長が俺、勇次が地図で東堂さんが連絡係、眼鏡をかけた気弱そうな小択君と背の低いショートカットの六堂さんが保健係となった。


 …正直勇次に副班長をやって欲しかったのだが、何故か美白さんからの強い要望で俺がやらざるをおえなかった。


「では掻い摘んで日程の確認を行いますね。初日は男女別のテントの設営とカレー作り、二日目は近くの川で魚釣り体験と自由行動、三日目はクラス混合のレクリエーションとなっています。初日と二日目の自由行動までは班行動ですが、その後は自由になります。何かわからない事はありますか?」


「はいはい!クラス混合のレクリエーションって何するの〜?美白さん!」


「そうですね…私もあまり詳しくは知らないのですが…班をランダムに三分割して他クラスと混合の6人班でスタンプを集めつつ、山頂を目指すらしいですよ?」


「なるほど〜ありがとう!美白さん!」


「いえいえお気になさらず、東堂さん♪」


 …ってことは高確率で勇次と離れるのか…班は一緒でも安心出来なくなったな。

 その後班内で雑談に耽っていると、またもや東堂さんが何かを発案する。


「そうだ!折角だしグループチャット作らない?6人班のさ!」


「…!いいですね…では班長として私が作りますので、東堂さんは皆さんの連絡先を交換して下さいますか?」


「りょーかいです!じゃあまず辻凪君から……」


「辻凪君は大丈夫ですよ東堂さん、班長と副班長の話もありますので…私が交換しておきます」


「おっけー」と東堂さんは他の人達と連絡先の交換を始めた。それにしても東堂さんのコミュ力凄いな…俺には到底真似出来なさそうだな。


「え…えっと…じゃあ辻凪君…連絡先を交換して頂いても…いいですか?」


 先ほどの堂々とした態度の美白さんはそこにはおらず、照れたような弱々しい語尾の美白さんが俺の横にいた。…正直ギャップが凄くてドキドキしたが、それと同時に美白さんも緊張するのだと思うとこの美貌でも雲の上の人ではなく、近い存在だと感じられる。


「う、うん…どうぞ?」


「あ、ありがとうございます!辻凪君!」


 俺は満面の笑みになった美白さんと連絡先を交換した直後にチャイムが鳴り、放課後となる。


「じゃあこの後は自由解散だ!週明けは遅刻しないようにな!」


 先生はそう言い残して教室を出ていく。すると数秒後、急に後ろの扉が開いたと思えば鈴華さんが俺の教室にやって来た。

 そして俺と美白さんの顔を見た後、苦々しい顔をしながら俺の近くに来て美白さんと話し始める。


「……やったわねアンタ?」


「…何のことか分かりませんね?高峰さん?」


「へぇ…とぼけるのね?まさかと思って来てみれば…何でピンポイントでアンタがアヤトと一緒の班になってるのよ!」


「そういう運命だったって事ですよ高峰さん♪それよりそちらのクラスの班員の方と話さなくても良いんですか?」


「やることは最低限やって来たわよ、班員の男が嫌だったから一秒でも早く教室から抜けたかったし。…それに抜け駆けしようとする女狐にも会いたかったしね」


「あらあらそれは残念でしたね?その女狐さん?が誰のことかわかりませんけど…」


 何故か勝ち誇ったような顔をした美白さんと、疑いの眼差しで睨んでいる鈴華さんに俺は挟まれている。…先ほどの事もあって更に居心地が悪い……


「(…なぁ綾人?お前いつの間に二人の美女に囲まれるハーレム状態になってたんだ?…二人とも仲が良いようには見えねぇけど……あの高峰さんが綾人の事下の名前で呼び捨てにしてるし…先週末何があったんだよお前)」


「(そんなんじゃねえし何もねぇよ…)」


「(嘘つけお前!美白さんともなんか距離感近いし、あの高峰さんが男子の名前を呼び捨て…しかも下の名前とかありえねぇだろ!)」


 ギャーギャーと横が騒がしい中で前からひそひそ声で訪ねてくる勇次だが、何で俺もこうなってるのかさっぱりわからなかった。

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