第20話 安堵と対立

 あの後の委員会決めは、美白さんが司会を担当したお陰か、順調に進み…俺達は現在、誰もいない資料室で放課後を迎えている。

 そういえば勇次も体育委員に立候補していて、東堂さんと一緒に委員会をする事になったようだ。


 …何故俺達は今、誰もいない資料室にいるのかと言うと…


「では始めましょうか辻凪君」


「あ、はい!始めましょう」


 そうやる気を出しながら俺の向かい側の席に座っている美白さんと、俺との間にあるプリントの束達…就任初日から元木先生に雑用……仕事を押し付けられ、俺たちはプリントのホッチキス止めを命じられていると言う状況だ。


 長引かせて帰りが遅くなるのは、お互いにまずいと言う事で早速取り掛かることにした。


「「…………」」


 ぱちっぱちっ…


 俺たち以外に誰もいない資料室に、ホッチキスを止める音以外は静寂に包まれ、何とも言えない気まずさに包まれている。

 …と言うか目の前にいる超がつく美人の同級生と今、密室で二人きりでいる事に全く慣れる気がしない為、俺は緊張で何も話せないと言うのが正しいのだが。


「ねぇ…辻凪君…ちょっとお話ししてもいいかな?」


「…え!?あっはい、大丈夫です…」


 そう俺たちは作業をしたまま会話を始める。


「ありがとう♪…まぁそのちょっとした事なんだけどね、私実は昔から男の子がちょっと苦手でね…だからこの高校の委員会のシステムを生徒手帳で見てね…?私は首席だったから間違いなく学級委員をする事は決まってたんだけど、クラス委員の相方の人がどんな人になるんだろうって…ちょっと不安だったの…ほらせっかく一緒に頑張って委員会をやる仲間なんだもん、ちゃんと委員会の仕事を真面目にやってくれる人がいいから…」


(…美白さんはいつもは堂々としていても、やっぱり男子からの視線とかは苦手なんだな…それにしても委員会システムって生徒手帳に載ってたのか…全く見てなかった…)


 俺はそんな事を思いながら美白さんの言葉を聞く。


「それで入学前に送られて来た書類で成績の上から10番目までの人が書いてあったでしょ?その時次席の辻凪君の名前知ってたからね、入学式の会った時に名前聞いてたから、クラスで君の名前を見たとき私たちが一緒になるってわかってたんだ。」


 そう言って美白さんは夕日のせいか少し顔を赤らめ「だ、だからね…」と慎重に言葉を紡ぐ。


「あ、相方が君で良かったなって思ったよ…君だったらちゃんと責任感もあって、ちゃんと私と対等に目線を合わせて物を言ってくれるし………何より初めて私が胸を張って男の子の…友達だって言える君だから…」


 そう言って俺に安堵の表情を浮かべている美白さん………最後の言葉がなければ勘違いしてしまいそうなほど柔らかで無防備なその表情は、持ち前の美貌も相まって常人であれば卒倒レベルの兵器へと昇華させていた。


「そ、そう言って貰えて光栄です……ごめん美白さん、ちょっとお手洗いに行ってくるね、すぐ戻る!」


「わ、わかりました…!ごゆっくり……」


 少し気恥ずかしくなり心臓がドキドキしてしまった俺は、心を落ち着けるためにそう言うと、美白さんも少し気恥ずかしくなったのか俺から視線を逸らし、俯いている。

 俺は美白さんの言葉の後に資料室を出た。



「はぁ…まさかあんなに美白さんに信用されてるなんてな…特に俺は何もしてないんだけどな…?」


 そう俺が自分以外誰もいないお手洗いの中にある鏡の前で小さく呟く。

 まさか出会って数日の俺にあそこまでの友人としての信頼を置いてくれているとは…全くの想定外だ。


 今まで全く女性と関わりがなかったわけではないが、あんな風に兄姉や勇次以外の誰かから強い信頼を向けられたことが無かった俺は、少し戸惑いつつも状況を整理する。


「…大丈夫だ。あくまで美白さんは俺が人畜無害な雰囲気だからこそ、俺にそう言ってくれてるだけだ。他意は全くないんだ。だからこそ相手の気持ちを裏切る様な事はもうするなよ…………まぁ?今の俺はもう大丈夫だとは思うけどな」


 そう鏡に映る冴えない自分自身に言い聞かせる。



 勘違いをするな 相手の気持ちを裏切るな 自分の立場をわきまえろ



 そう自分自身に暗示をかける様に気持ちを落ち着かせ、俺はお手洗いから出る。


「おい、お前ちょっと待てや」


 俺がお手洗いから出てくると、俺のことを待っていたかの様に木本君が廊下に立っていた。


「えっと…何かな?木本君」


「キメェから俺の名前をお前みたいな陰キャ如きが呼ぶんじゃねぇよクソが」


 …どうやらこの顔だけイケメン君は性格がねじ曲がっているらしい。こう言う態度を取ってくる輩は面倒なので早々に用事を済ませて去って貰おう。


「………それでいったい何の用なのかな?」


「簡単な話だ。お前今からでも俺と委員会変われや。お前みたいな陰キャ如きがあの美白と二人で一緒だと?ふざけてるよなぁ?ただただテメェの成績がちょっと俺よりよかっただけでよ?」


「…」


「だからあの超美人な美白の隣にふさわしいのは同じくイケメンでカッコいい俺なんだよ!…その無駄な知識が詰まった頭でわかったなら、明日までにさっさと降りとけよ」


 そう言って不機嫌そうに踵を返し去っていこうとする木本に、俺は面倒な事になるとはわかっていても言葉を返す。


「嫌だね、俺は降りるつもりはねーよ」


「…あぁ?」


 俺の発言が予想外だったのか一瞬驚いた顔をして、すぐに怖い顔で威圧的な態度を取ってくる木本。…全く怖くはないが


「別に俺はお前が美白さんとお近づきになりたいからと言う理由で委員会を変わって欲しいまではまだいい。……でもな自分勝手で相手の気持ちも考えず、自分の都合だけで美白さんに近づく為に委員会を利用しようとする様な責任感の無い奴に「はいどうぞ」って渡せるわけないだろ」


「……っ!てめぇ……」


「ちゃんと責任感を持って委員会の仕事が出来るなら変わってやる。でもそうじゃないなら変わらない。…まぁもしそうなれたとしても…その不細工な性格じゃ、お前が委員長になる前に勇次が美白さんと委員長になると思うけどな」


「…黙って言わせておけばっ!このクソ陰キャが!!!」


 そう激昂した木本は俺の胸ぐらを掴み、俺に向けて拳を振り上げ殴りかかる姿勢を取る。


 …少々腹が立ったので煽りを入れてしまったが、まぁ今後の事を考えれば一発くらい貰っておくか。

 そう思った俺は大人しく目をつぶり、殴られるのを待っていると


「そこの貴方。辻凪君に何をなさろうとしているんですか?」


「!?…美白…ちゃん……こ、これはその…」


 そう鋭く冷たい声が俺たちに突き刺さる。目を開けると木本の後ろに、背後から鬼神のような恐ろしいオーラを出している美白さんが立っていた。

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